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顔ハメ看板部へようこそ!  作者: 伊藤テル


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13/19

【13 ニュース】

・【13 ニュース】


 ラッシーさんのお店はあと二週間くらいで開店するらしい。

 そんなタイミングで僕たち顔ハメ看板部は、ラッシーさんに呼び出された。校門で待っていてほしいということだ。

 梅雨も終わった六月下旬、まだ夏本番ではないので新緑が芽吹いた木々を撫でてやって来る優しい風が気持ち良い。

 話によると、ラッシーさんが亀本高校まで、この前高橋さんが運転していた大きい自動車に乗って来てくれるらしい。

 予定時刻の一分前にその自動車がやって来て、運転席からラッシーさんがおりてきた。

 ラッシーさんは相変わらず少年のような表情で笑いながら、

「少年たちよ! ニュースだぜ! ニュースだぜ!」

 来栖先輩がビックリしながら、

「ニュースって、あれかっ? 総理大臣のヤツかっ! うぉぉおおおお!」

 と今日も頭脳は小三男子だ。

 大場先輩は呆れるように、

「ニュースは、政治以外にも、経済や、国際情勢や、スポーツもある」

 来栖先輩は拳を力強く握りながら、

「スポーツってニュースだったのか! 総理大臣分身してスポーツ観戦しすぎだろ!」

 理人くんは混乱するように、

「もぅどぅぃぅことなのぉん! ニュース=総理大臣ってどぅぃぅ発想なのぉん!」

 僕はとにかく話を主軸に戻したくて、

「来栖先輩! ニュースって全てが全て総理大臣じゃないです! 総理大臣抜きのニュースのほうが多いです!」

 すると理人くんが何故か嬉しそうに、

「ちょっとぉん! イチローぉ、抜きだなんてえっちぃっ!」

 僕はすかさず、

「いや抜くは普通の言葉でしょ!」

 大場先輩が柏手一発叩いてから、

「話が、いちいち、進まない。ラッシーさん、本題、お願い、します」

 ラッシーさんはサムアップしながら、

「じゃあその辺はまず車に乗ってから説明するぜ! 少年たちよ! 乗るんだぜ!」

 来栖先輩と大場先輩、僕と理人くんと並んで乗車した。

 理人くんは僕の肩に頭を乗せながら、

「やっぱりイチローはぁ、私の隣なのぉん!」

 隣というかもはや乗っているけども、こうやって距離が近く接してくれることって本当に嬉しいな。

 大場先輩が改めてといった感じに、

「では、ラッシーさん、ニュースとは、何ですか?」

 すると来栖先輩がすぐカットインしてしまい、

「もしやラッシーの店に総理大臣がやってくるのか! 総理大臣が顔ハメするのかっ! いやっほーぃ!」

 僕は慌てて、

「想像だけでそこまで喜ばないでください! 多分違いますから!」

 ラッシーさんはガハハと豪快に笑ってから、

「残念だが、総理大臣は来ないぜ! 三ツ星を得てからだぜ!」

 いや多分、ギャラリーメインのお店、三ツ星獲得しないと思うけどもっ。

 ラッシーさんは楽しそうに、

「開店まであと一週間! 開店したら忙しくなるから今のうちに遊びたくてなぁっ! そこでだぜ! 小生は今回の件で顔ハメというモノにハマってしまったんだぜ!」

 来栖先輩は大きな声で、

「おぉっ! それは嬉しいことだな! あぁもう! 車の中で裸足になっていいかっ!」

 僕はすぐに、

「喜びの表現が独特すぎますよ! 裸足になったところで何なんですか!」

 来栖先輩は僕のほうを軽く振り返るように見ながら、

「解放だな! 俺、実は靴って苦手なんだ!」

 大場先輩は来栖先輩の頭をペチンと叩きながら、

「そんな、告白、どうでも、いい」

 ラッシーさんは快活に、

「あぁ! 裸足にはいくらなってもいいぜ! そして車内で食べることも気にしないぜ!」

 僕はこの前、高橋さんが運転していたのでどうだろうと思いながら、

「この車ってラッシーさんの車なんですか?」

 ラッシーさんは快活に、

「そうだぜ! だから自由にしていいぜ! シートベルトだけしてくれれば何してもいいぜ!」

 理人くんは僕の太ももを優しく撫でながら、

「……イチローぉ、何してもぃぃってぇん、何しようかぁ」

 いやいや、

「マッサージとかはしなくて大丈夫だから、そんなすぐにエコノミー症候群にはならないからっ」

 ラッシーさんは元気に、

「おっと! イチロー! 小生の車はそんなに狭くないぜ!」

 あっ、何かエコノミー症候群が嫌味みたいになってしまったっ!

 僕は焦りながら、

「いや! そんなつもりで言ったわけじゃないです! すみません!」

 ラッシーさんはいつも通り楽しそうなリズムで、

「ハハッ! いいぜ! いいぜ! でもまあ確かに車に六人乗ったら狭く感じるかもだろうなぁっ!」

 来栖先輩は小首を傾げるように、

「……六人? 俺と陣と理人とイチローとラッシーで五人……ちょっ! 総理大臣が入ってくるのかぁっ?」

 僕は即座に、

「どんだけ総理大臣推しているんですかっ! 流れから言って高橋さんじゃないですかっ!」

 理人くんは溜息をついてから、

「ちょっとぉん、私は嫌かなぁん……」

 ラッシーさんはちょっと不満そうな声で、

「おいおい、理人くん! 景子を嫌がるのはさすがにダメだぜ! まあ景子で六人じゃないがなっ!」

 理人くんは申し訳無さそうに、

「すぃません……ちょっと高橋さんとはぃろぃろぁってぇん……」

 理人くんは高橋さんといろいろあるほど仲良くなったのかぁ。羨ましいなぁ。

 大場先輩は「あっ」と声を出してから、

「六人って、菅沼、ですか?」

 ラッシーさんは楽しそうな声で、

「そう! そういうことだぜ! 開店前に六人で遊ばないかっていう話だぜ!」

 来栖先輩はめっちゃ嬉しそうに、

「遊びたい! 俺はいつでも遊びたい人間だが、その六人ならさらに遊びたい! やったぁ! いやっほーぃ! 楽しい!」

 僕はすかさず

「まだ遊んでいないのに、そんなに喜ばないでください!」

 理人くんは小さく拍手しながら、

「ぃや喜んじゃぅなぁん、私もイチローたちと遊びたぃん!」

 大場先輩が冷静に、

「でも、菅沼が、来ないんじゃ、そういう、集まり、嫌い、では」

 ラッシーさんが赤信号で止まったタイミングでこっちを振り返りながら、

「いやいや! ケンチンは遊んでやってもいいと言っていたぜ!」

 僕は菅沼先輩にクールなイメージがあったので、こんな大所帯で遊ぶような感じの人ではないと思っていたのだけども、一緒に遊ぶんだなぁ、と少し意外に思った。

 でも一緒に遊ぶということは、僕や理人くんのことを受け入れてくれているということなので、すごく嬉しかった。

 ラッシーさんがまた正面を向き直しながら、

「で! 泊まり旅行にしたいと思っているぜ! どうせならめっちゃ遊びたいぜ!」

 理人くんはハイテンションで、

「ぉ泊まりぃん! イチローと同部屋! イチローと同部屋ぁん!」

 そう言ってくれて、僕は心が温まった。

 中学生の修学旅行の時、僕と同部屋になってくれる人が決まらなくて、結局先生と同部屋になった時は胸が詰まる思いだったけども、今はそうじゃないんだと思って、すごく、すごく、すごく。

 ラッシーさんはデカい声で、

「いやまぁ、六人で雑魚寝だぜ!」

「そっかぁ……」

 と少しシュンとした理人くん。

 でも僕と同部屋になってもいいという感性が僕にはすごく有り難かった。

 大場先輩が訪ねるように、

「で、それと、顔ハメに、ハマっている、ということが、何の関係、あるんですか?」

 ラッシーさんは「そうそう!」と言ってから、

「小生は顔ハメ見学旅行にしたいと思っているんだぜ! ケンチンもいろんな大衆芸術が見れていいと乗ってくれたぜ!」

 来栖先輩は明らかにガッツポーズしているように、

「最高だぁぁああああ! うぉぉおおおおおお! 当日は絶対裸足でいきます!」

 僕はすかさず、

「いや多分靴履いたほうがいいですよ! 浜辺生活じゃないんですからっ!」

 大場先輩は付け足すように、

「浜辺、生活でも、靴は、ほしい」

 ラッシーさんは上機嫌で、

「というわけで、もう店にはケンチンがいるから、全員でどの辺にするか話し合おうぜ!」

 僕たちはラッシーさんのお店に着いた。

 そこには言った通り、菅沼先輩が店の中でイスに座っていた。

 このお店は前面がガラス張りなので、中の様子がよく分かる。

 菅沼先輩は静かに小説を読んで待っていた。

 僕たちがお店の中に入っても全くこっちを見ずに小説を読んでいる菅沼先輩、本当にクールだなぁ。

「菅沼! 裸足の俺が来たぜ!」

 いつの間にか本当に裸足になっている来栖先輩。

 そう突然言われてリアクションなんてできないだろうと思っていたが、大丈夫だった。

 何故なら菅沼先輩は丸々無視したから。

 大場先輩がいつも通りといった感じに、

「菅沼、オマエが、こんな大所帯で、遊ぶなんて、珍しいな」

 すると菅沼先輩がピシャリと、

「いや人数は関係無い。ただ旅行というモノが好きなだけだからな」

 理人くんは躊躇なく、

「見聞を広めるってぃぃことですもんねぇん!」

 そう言って、菅沼先輩の隣に座った。

 相変わらず人との距離が近い。

 多分ちゃんと菅沼先輩と話したのはこれが最初だろうに。

「いや。ただの気分転換だ」

 つれない返答を繰り返す菅沼先輩。

 でも顔は優しく笑っていたので、決して嫌とか面倒とかそういうことではないらしい。

 これが、これこそが、通常の菅沼先輩というものなのだろう。

 ……と思ったが、ラッシーさんが矢継ぎ早に、

「おいおい! ケンチン! もっと楽しそうにしてたはずだぜ! 浮かれてオヤツの話していたのに、クールぶるのは変なんだぜ!」

「ちょっ。ラッシー。そういうの。言っ、言うなよ……」

 少し慌てながらメガネをクイっと上げた菅沼先輩。

 菅沼先輩ってオヤツのこと気にするほうなんだ。

 しかもその台詞に対して、否定はしていないので、マジのようだ。

 来栖先輩はちょっとうるさめにイスを引いて座りながら、

「オヤツて! 俺は絶対にデカい袋のポテチがいいぞ! たくさんポテチ食うからな! 持って来い!」

 オヤツて、とツッコんだんだと思ったら、普通に好きなオヤツの催促だった。

 それに対して菅沼先輩はきっと無視するんだろうな、と思っていたら、菅沼先輩がやれやれといった感じに、

「来栖、オマエは本当に馬鹿だな。旅行のオヤツは普段食べない良いオヤツをみんなで分けて少しずつだろ」

 まさかのオヤツ持論返し。

 菅沼先輩ってクールな一匹狼というイメージだったけども、オヤツに関してはかなりフレンドリーだ。

 菅沼先輩は続ける。

「多少割高でも小分けできて、人と感想を分け合えるオヤツが旅行の醍醐味だ」

 感想を言い合うくらいフレンドリーなんだなぁ。

 正直、ちょっと菅沼先輩のこと怖かったけども、何だか大丈夫そうだ。

 そしてもっと大丈夫そうだと感じたのが、理人くんだ。

「私もオヤツ大好きなんですぅん! プリッツの塩気、クッキーの甘み、茎わかめの酸味、ぃろぃろ楽しみたいわぁん!」

 菅沼先輩は目を見開きながら、

「……! オマエは確か理人と言ったな」

「はぃ、そうですぅん」

 菅沼先輩は感慨深そうに頷きながら、

「分かってるな、その通りだ。塩気と甘みは皆考えるが、ここに茎わかめや、カリカリ梅の酸味も必要なんだ」

 理人くんもテンションアップで、

「そうですよねぇん! カリカリ梅もおいしいですよねぇん! そしてペットボトルホルダーにお茶ぁ!」

 菅沼先輩は語気を強めて、

「まさにそうだ! 旅行中の飲み物はお茶なんだよな! オヤツを食べたり、いろんなモノを買い食いするから、飲み物のカロリーは抑えないといけないんだ!」

 理人くんは菅沼先輩のほうを向いて小さく拍手しながら、

「菅沼先輩と私って合ぃますねぇん!」

 菅沼先輩は満足げに頷きながら、

「確かに。食が合うということは素晴らしいことだ」

 ……理人くんがもうここまで馴染むとは。

 さすがのコミュ力だ。

 このまま理人くんをとられてしまったらどうしよう……って、何だこの考え。

 別に元々僕のモノじゃないし。何か変な嫉妬をしてしまった。

 いけない、いけない、理人くんがいろんな人と仲良くなることはいいことだ。

 というか、こういう時に昔の引っ込み思案が出てしまっている自分が良くない。

 もうあの頃とは違うんだ。

 僕のことを大切に思ってくださっている友達や先輩がいる。

 こんな状況で臆病風を吹かしてどうするんだ。

 僕だって……!

「乾燥しじみの袋もおいしいですよね!」

 ……空気が固まった。急に大声が出てしまったからか。それともこの内容か。

 う~、やっぱりダメだったかなぁ……というかそんなオヤツ知られていなかったかなぁ……と、心の中で反省会を本格的に開こうとしたその時、菅沼先輩が、

「あぁ、乾燥しじみってあれか。一緒にカボチャの種も入っているヤツな。あれも旨い。というか渋いな、イチローは」

 そう言ってメガネを光らせて、ニッコリ微笑んだ。

 良かった、合ってた……。

 そして理人くんも喋り出す。

「そんなオヤツもあるんだぁ、イチローのオススメなら絶対食べたぃなぁん!」

 僕はホッとしながら、

「うん、すごくおいしいよ、滋味深いというかっ」

 菅沼先輩は「おっ」と言ってから、

「良い表現だな。滋味深いなんて普通おふくろの味にしか使わないぞ」

 と言って、ニコニコ笑う菅沼先輩。

 そうか、やっぱり菅沼先輩もフレンドリーなお方なんだ。

 勝手にクールとか思って線を引いていたけども、全然そんなこともないんだ。

 ……しかし、ここで、きっと、滋味深いの意味を分からず、喋り出した人がいた。

 無論、来栖先輩だ。

「おふくろの味を地味って言うな! むしろ派手で有難いだろ!」

 菅沼先輩は矢継ぎ早に、

「うるせぇ来栖黙れ」

 あっ、やっぱり菅沼先輩はクールな部分も十分にあるなぁ。

 僕は説明するように、

「来栖先輩。滋味深いというのは、慈しみのある味みたいなイメージです」

 来栖先輩はうんうん頷いてから、

「厳島神社みたいな味という意味か……荘厳だなっ!」

 僕は慌てて、

「あっ、違います。えっと、あの」

 と声を漏らすと、大場先輩が溜息をつきながら、

「イチロー、来栖には、無理だ」

 来栖先輩はガッツポーズをしながら、

「諦めるな! 諦めたらそこで試合が終了だぞ!」

 理人くんは鼻で笑うように息をついてから、

「この試合はもぅ終了でぃぃねぇん」

 でも僕は、

「いやいや、えっとそうですね、深々と美味しいなぁ、と感じるような。すぐに美味しいとなるんじゃなくて、よく味を噛みしめて美味しいとなるというイメージです」

 菅沼先輩が嬉しそうに、

「おぉ、イチローは表現上手いな。良いオヤツ評論家になれそうだな」

 と謎のトロフィーを頂いて、ちょっといい気分になったが、果たして、本命の来栖先輩には届くのか……!

「分かった! 噛みしめて旨い! つまりガム!」

 伝わりませんでした。

 ラッシーさんが柏手一発叩いて、

「いやそんなオヤツの話はいいぜ! そのへんでいいぜ! どこに行くか決めるぜ! さぁ! 全員席につくんだぜ! 陣くんもイチローくんも座るんだぜ!」

 ラッシーさんがこのオヤツの流れをぶった切って、本題へ移行させた。

 確かにこのオヤツの流れって何? と言ってしまえば、そうだもんなぁ。

 僕は理人くんの隣に座ったりして、全員それぞれイスに座った。

 ラッシーさんが改めてといった感じに、

「じゃあ旅行先を考えるぜ!」

 来栖先輩が熱血の声で、

「うぉぉぉおおおおおお! 初夏がいいぃぃいいいいいいい!」

 僕はすかさず、

「いや季節はもう決定ですよ! この二週間中ですよ! ラッシーさんが忙しくなる前に行くんですから!」

 大場先輩がふと、

「そういえば、ラッシーさん、宿泊先って、まだ、空いている、ものなんですか」

 菅沼先輩も少し不安そうに、

「確かに旅行へ行くのって、この二週間以内のどこかだろ。ホテルって大体埋まっているもんじゃないか?」

 僕はでも、と思って、

「この時期は旅行シーズンでは決して無いので、大丈夫だと思いますっ」

 するとラッシーさんが笑いながら、

「いや! そういうのじゃないぜ! 旅館はもう決まってるぜ!」

 大場先輩は少し焦りながら、

「えっ、では、もう、行くところも、大体、決まっているの、では」

 ラッシーさんは快活に、

「それは決まってないぜ! その旅館の近くの顔ハメを見に行きたいぜ! 顔ハメ情報にはハメ部のほうが詳しいと思って、その顔ハメを見るルートを決めてもらうつもりだぜ!」

 来栖先輩がハツラツと、

「それならハメ部に任せてくれ! ドンッ!」

 僕はツッコむ。

「マンガの描き文字みたいなのを口で言わないでください!」

 来栖先輩は小首を傾げながら、

「口で言ったら、何か丼ぶりが食べたくなった」

 僕はすぐに、

「そりゃドンと言ったからですよ!」

 来栖先輩はテンポ良く、

「よしっ! 菅沼! オヤツじゃなくて丼ぶりを用意しろ!」

 僕は何なら負けじと、

「いや車内が米でパラパラしますからダメですよ!」

 すると菅沼先輩が僕に会釈しながら、

「イチローありがとうな。俺、来栖と会話したくないから今後も代わりにツッコんでくれ」

 来栖先輩は何かツッコむように、

「おいおいおい! 菅沼! 俺と会話したくないってどういう意味だよ! 何か難解だな!」

 僕はもう言ったれと思って、

「きっと文面そのまんまの意味ですよっ!」

 大場先輩は強く頷いてから、

「まあ、丼ぶりの話は、どうでもいい、そして、顔ハメ情報の、話なら、オレだな……イチローは、詳しくは、無いよな?」

「はい! 僕はまだそういうことは全然です!」

 理人くんはニヤリとしてから、

「でも、えっちなことは結構ガッツリ、みたぃなぁん?」

 そう言って僕へイスに座りながら抱きついてきた理人くん。

 いやいやっ、

「そういうことも全然だからっ!」

「じゃあ私が今度教えてあげるねぇん!」

 と言って僕の頬を指で突いてから、また普通の座り方に戻った理人くん。

 そういうことを教えるって、何か、オススメのビデオ情報とかあるのかな……。

 大場先輩はコホンと一息ついてから、

「では、ラッシーさん、旅館の、場所を、教えて、下さい」

 ラッシーさんはハッとしてから、

「そうだぜ! そうだぜ! それ言わないと話が進まないぜ! いくぜ! いくぜ! いくぜぇっ!」

 僕はつい、

「いや早く教えてくださいよ! 溜めの部分が長すぎますよ!」

 ラッシーさんはてへっと笑ってから、

「ちょっとイチローくんのツッコミがほしくて溜めてしまったぜ!」

 僕はすかさず、

「いや何で僕のツッコミがほしいんですかっ!」

 ラッシーさんは快活に、

「そっちのほうがテンポが生まれるぜ! いくぜ! いくぜ! いくぜ!」

「いや生まれているのはテンポだけ! 情報が全然生まれていませんよ!」

 大場先輩も同調するように、

「確かに、テンポ、だけだ、話が、進まない」

 すると菅沼先輩が割って入ってきて、

「大場。オマエの喋りは本当にテンポ悪いな」

 大場先輩は息をついてから、

「ゆっくり、考えながら、じゃないと、喋れない、からな」

 ラッシーさんはサムアップしながら、

「いいぜ! いいぜ! それぞれ好きなテンポで喋るといいぜ! いくぜ! いくぜ!」

 来栖先輩もカットインしてきて、

「俺もラッシーのいくぜの応援します! HEY! いくぜ! HEY! いくぜ! HEY!」

 僕は目を丸くしながら、

「話の進まなさが倍になった! ラッシーさん! よろしくお願いします!」

 ラッシーさんもうんと強く頷いて、

「さすがにマジで言うぜ! 月野温泉郷だぜ!」

 月野温泉郷、このあたりで一番の高級旅館では……。

 いやリーズナブルな旅館が併設されているとも聞くけども、そのリーズナブルは高級旅館から比べてリーズナブルなわけで……。

 僕は申し訳なく思いながら、

「ラッシーさん、僕、月野温泉郷に泊まるお金は無いです……」

 大場先輩も同調するように、

「確かに、宿泊費が、高すぎる」

 すると菅沼先輩が、

「イチロー。大場。大丈夫だってさ」

 とメガネをあげながらそう言った。

 何が大丈夫なんだろう。

 ラッシーさんも元気に、

「ケンチンの言う通り大丈夫だぜ!」

 菅沼先輩は諫めるように、

「だからケンチンって言うな。さっき言い忘れたけどもケンチンって言うな」

 ラッシーさんはガッツポーズしながら、

「宿泊費はオトナである小生が全て出すんだぜ!」

 菅沼先輩が矢継ぎ早に、

「恩着せがましく言うな。宿泊券が当たったことを言え」

 ラッシーさんは首を横に振ってから、

「でも実際宿泊費を出す部分もあるんだぜ! ちょうど自分の分を自分で出すんだぜ!」

 僕はすぐに、

「えっ、でもラッシーさん、そんな宿泊券があるんだったら高橋さんと何度も行ったほうがいいんじゃないんですか?」

 ラッシーさんはハハッと笑ってから、

「景子とはどうせ別のタイミングで海外とかに行くぜ! 今回は少年たちと遊ぶほうが楽しそうだぜ! というか旅行中のお金の心配もしなくていいぜ! 節目のご飯は小生が払うぜ!」

 朝昼晩のご飯を節目のご飯って呼んでいる人、初めて聞いたなぁ。

 大場先輩は少し焦りながら、

「そんな、して、下さるん、ですか」

 ラッシーさんは笑顔で、

「気にしなくていいぜ! いいぜ! でもオヤツや買い食いは自分で払うんだぜ!」

 来栖先輩は目を見開きながら、

「えぇぇぇええ! 全部払ってくれるんじゃないのかよっ!」

 大場先輩が即座に、

「来栖、それは、良くない、考え方だぞ」

 理人くんも同意しながら、

「さすがにそこはやりくりしなきゃダメよねぇん」

 大場先輩はスマホを取り出しながら、

「じゃあ、月野温泉郷、という、場所も、分かったので……」

 そこから分かりやすく、しっかりとした旅行プランを立ててくれて、その日は解散となった。

 というか旅行が明後日って!

 いやまあ明後日が土日なんだから当たり前だけども! 学校もあるし!

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