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顔ハメ看板部へようこそ!  作者: 伊藤テル


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【11 看板作成】

・【11 看板作成】


 僕たちは作成に取り掛かった。

 作業は外で行なう。使っている一枚板は僕の身長ほどの高さがあり、教室の中では外への搬入が大変になるからとのことだ。

 来栖先輩と一度来たあの小屋の前で顔ハメ看板を作っている。

 大場先輩と理人くんが板を加工し、そこに来栖先輩と僕が画を描いていく役割となった。

 たまに理人くんが下絵の鉛筆線を消しゴムで消したり、僕が板に紙やすりを掛けて、滑らかにしたり。それぞれ空いた時間で補うように。

 僕が顔ハメする穴の部分を紙やすりをしながら、

「この紙やすりを掛けることにより、顔をハメた時に痛くないんですね」

 大場先輩は大きく頷いて、

「そうだ、こういう、小さな、ホスピタリティが、顔ハメ看板は、大事なんだ」

 そして僕が一番驚いたこと、それは裏面にも画を描くことだった。

「イチロー、ザックリでいいが、描いてくれるか? どこが一か二か三か四かとか、どこに吹き出しがあるかとか示すように」

「どうして裏面も描くんですか?」

「写真を撮ってもらうほう、つまり顔ハメをするほうは自分がどういう状況か把握しづらいんだ。でも裏面に画があれば自分が何コマ目をやっているのか、よく分かるだろ?」

 表面の、というか顔のドア部分は全て来栖先輩が画を描いた。

 僕だって画がそこそこ描けるつもりでいたけども、看板に、このサイズの画を描くことは全然ダメで、普通に大きめの紙サイズな、アイテムの画を描くだけだ。

 そもそも顔のドアの部分は同じ画風の人が描いたほうがいいので、一人で描くことは当たり前だけども、それでも僕は自分の無力さを痛感していた、ところで、この采配。

 来栖先輩は笑顔で、

「まずは慣れだからな、大きなキャンパスに何かを描く訓練をしないとな、なんて俺もこれは先輩の受け入りだけどもな」

「顔ハメ看板部って来栖先輩と大場先輩で作った部じゃないんですね」

「そりゃ勿論! めっちゃ偉大な先輩がいたんだぞ! ……まあ看板はもうほとんど無いけどもな、あの大関さんところの樽顔ハメも先輩の監修で俺と陣だけで作ったものだし」

 そう来栖先輩が力説したところで大場先輩が、

「とは言え、樽の加工とかは、先輩が、しっかり、指導してくれたから、完全に、二人だけ、とも言い難い」

 理人くんが微笑みながら、

「相当リスペクトしてぃたんですねぇん! 表情が柔らか過ぎるぅ!」

 大場先輩はハハッと笑ってから、

「オレは、いつも、柔らかい、わけだが」

 来栖先輩が柏手一発叩いてから、

「というわけで裏面はイチローに任せる!」

 と言うと、優しく僕の背中を叩いて、鼓舞してくださった。

 だけども緊張は止まらず、手が震える。

 すると来栖先輩が、

「画はいつでもやり直せる!」

 と声を掛けてくださって、僕は改めて深呼吸した。

 でもまだ震える、そんな時だった。

 来栖先輩が僕の筆を握る手を上から包み込むように握ってくださって、

「イチローはいつも冷静じゃないか、イチローだったら描ける。今まで練習もしてきたの見ているぞ」

 と冷静に、まるで事実を淡々と述べるように言った。

 そうだ、僕はできる。

 少なくてもできると来栖先輩は信じてくださっている。

 その気持ちに答えなければ。

 板をブルーシートの上に倒して、裏面を天に向けている看板にまずは四コマの線を引き始めた。

 事前に大場先輩があたりをつけてくださっていたので、大きな定規を使って線を引くだけでいい。

 真っ直ぐの線が引けてホッと一息もつかの間、次は看板を一旦起こして、吹き出しの位置を改めて確認する。

 大きな看板を来栖先輩と大場先輩だけで持ち上げる。慌てて自分も支えようとすると大場先輩が、

「イチローは、見ることに、集中するように」

 代わりに理人くんが支える側に回り、まだ本番の線が入っていない、仮線の吹き出しをしっかり目視する。

 覚えたところでまた看板をしっかり倒して、裏面に描き始める。

 なんとか一コマ目を描き終えたところで、来栖先輩がこう言った。

「初めてにしては上出来だ。おめでとう」

 そう力強い言葉で言ってくださって、何だか自信がみなぎってきた。

 その調子で、全てのコマの吹き出しを描き終えたところで、まずは一旦乾かす作業として、そのまま倒しっ放しとなった。

 来栖先輩からは「お疲れ様」とスポーツドリンクを渡してくださった。

 気付いたらものすごく汗をかいていて、すごく恥ずかしかった。

 でも理人くんが、

「わぁぃ! イチローカッコぃぃ!」

 と言いながら、しゃがんでいる僕を覆うように抱き締めてくれて、いやでも、

「今、汗臭いと思うから」

「全然! イチローはすっごく良ぃ香りだからぁ!」

 と全然逃げなくて、何だか受け入れてくれている感がすごく嬉しかった。

 すると大場先輩が、

「こっからは、オレたちの、作業だ。来栖が、描いた、顔のドアを、蝶番で、ハメていくぞ」

 理人くんは僕から名残惜しそうに離れながら、

「加工係の腕の見せ所ですねぇん!」

 と軽く跳ねた。

 基本的にあたりを決める作業は大場先輩が行ない、大場先輩が決めた穴を理人くんが軽くくり抜き、そこが出来次第、全てあたりを決め終えた大場先輩が蝶番を締めていく。

 あまりにも手早い作業に僕は目が追いつかないくらいだ。

 コンビネーションが完璧で、さすが入学前から来ていただけある。

 僕も理人くんに負けないくらいに頑張らないと!

 しっかり顔のドアが出来たところで、大場先輩が、

「さぁ、ここからは、力仕事だ。来栖と、イチローは、支えに、回って、もらって、この台座、というか、脚を、設置、していく」

 僕はふと、

「吹き出しを先に描くんじゃないんですか?」

 すると大場先輩が、

「あれは、油性ペンで、キュッと、描けば、いいだけ、だから、もう脚、という、重しを、付けても、大丈夫だ」

 そこから僕と来栖先輩は脚を掴み、素早く大場先輩と理人くんで釘を打っていき、思ったよりも早く脚も付け終えた。

 来栖先輩がジャンピングガッツポーズをしながら、

「よっしゃ! あとはイチローの吹き出しだけだ!」

 イチローの吹き出し……って!

「吹き出しの線も僕が本番を描くんですか!」

 来栖先輩はキョトンとしながら、

「そりゃ当然だろ」

 と言ったところで理人くんが、

「あぁん! イチローの本番見たぁぃ!」

 と囃し立てた。

 大場先輩も頷きながら、

「そうだな、それもイチローが、やるべきだな」

 と同調している。

 どうやら僕がやらないといけないらしい。

 僕は意を決して、吹き出しの線に取り掛かることにした。

 顔ハメ看板を立てると、しっかり立ってグラグラは一切しない。力強く地面に立っている。

 これなら少し押し込むような態勢になっても、安定して吹き出しの曲線を描くことができる。

 僕は深呼吸してから、線を描き始めた。

 思った通りの曲線を描き終えた時、来栖先輩が、

「さすがイチロー! 何でもできてこそイチローだ!」

 大場先輩も嬉しそうに、

「期待、通りだ」

 理人くんはにこやかに、

「やっぱりイチローは何でもできるだねぇ!」

 とみんな褒めてくださって本当に嬉しかった。

 細かい調整や画マグネットを入れておくところなども作って、ついに顔ハメ看板は完成したのであった。


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