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家族禁止法  作者:
第二部:2084年
8/14

資料①

これから流れるのは、のちに「家族禁止法」と通称される二法が制定された、2084年当時の社会に残された記録である。

なお、2084年当時の日本では、個人を表す名のほかに、血縁上または制度上の家系を示す名を併用する姓名という形式が一般に用いられていた。本章では、当時の記録慣行に従い、時によっては人物名をこの姓名形式で記述することがあるため混乱しないよう注意。また、出生提供者の女性を「母親」、男性を「父親」と記述し、当時の幼児がそれぞれを「ママ」「パパ」と呼ぶ事例も、記録の通りに表記を行っている。


内閣府公式広報AI『出生児社会養育移行法および次世代権利保障基本法に関する国民意識調査 結果説明』


資料番号:2084-CAB-PR0318-AI

公開日:2084年3月18日

制作:内閣府大臣官房政府広報室・こども次世代庁

資料種別:政府広報映像記録



画面は白かった。

余計な装飾はなく、中央には内閣府の紋章と、こども次世代庁の淡い青色のロゴだけが表示されている。

数秒後、画面の中央に1人の女性が現れた。

実在の人間ではない。政府広報用に生成された説明AIである。年齢は30代前半に見えるよう調整され、声は落ち着いていた。顔には柔らかな表情が浮かんでいたが、そこから個人的な感情を読み取ることはできなかった。


「皆さま、こんにちは。内閣府大臣官房政府広報室です」


AIは、標準化された自然な動作で微笑んだ。


「本日は、2084年3月4日から3月6日にかけて実施された、出生児社会養育移行法案および次世代権利保障基本法案に関する国民意識調査の結果について、ご説明します」


画面の右側に、調査概要が表示される。


調査対象:全国18歳以上の国民番号登録者

標本数:10,000人

有効回答数:5,430人

調査方法:国民番号認証基盤を用いた個人端末配信式調査


「本調査は、国民の皆さまが、出生児の発達権保障と社会養育制度への移行について、どのように考えているかを把握するために実施されました」


画面が切り替わり、青と白の円グラフが表示された。


法案に賛成・どちらかといえば賛成:62.4%


という数字が見えた。


「法案に賛成、またはどちらかといえば賛成と回答した方は、全体の62.4%でした」


AIの声は、支持率の高さを誇るでもなく、反対者を責めるでもなく、事実を淡々と告げていた。


「特に18歳から39歳までの年齢層では、賛成傾向が高くなっています。一方で、60歳以上の年齢層、および現在家庭養育を行っている方では、心理的抵抗を示す回答も一定数見られました」


画面は、年齢階層別の棒グラフに切り替わった。


18〜29歳:73.8%

……

60歳以上:41.9%


「年齢階層別に見ると、若年層ほど社会養育制度への移行を肯定的に受け止める傾向が見られます。特に18歳から39歳までの回答者では、出生後の養育責任を個人または家庭単位で負担することについて、強い不安を示す回答が多く見られました」


画面がさらに切り替わる。


今度は、賛成またはどちらかといえば賛成と回答した者に限った、理由の複数回答集計だった。


子育てに伴う経済的・心理的負担を軽減できるから:81.0%

民間養育サービスの利用格差を是正できるから:61.2%

家庭環境による教育・発達格差を縮小できるから:52.8%

児童虐待・ネグレクトを予防できるから:41.3%


「賛成理由として最も多かったのは、『子育てに伴う経済的・心理的負担を軽減できるから』でした。次いで、『民間養育サービスの利用格差を是正できるから』、『家庭環境による教育・発達格差を縮小できるから』が挙げられています」


画面下部に、小さな注記が表示される。


*複数回答。対象は、法案に「賛成」または「どちらかといえば賛成」と回答した者。


「このことから、この制度は、出生児の権利保障に関する政策としてだけではなく、出生提供者の経済的・心理的負担を軽減する政策としても受け止められていることが分かります」


AIの声は、相変わらず単調な読み上げ声だった。

画面は、子育て経験別の集計に切り替わった。


子育て経験なし:賛成・どちらかといえば賛成 71.6%

過去に子育て経験あり/現在子育て中:賛成・どちらかといえば賛成 58.4%

ゆりかご支援選択制度の利用経験あり:賛成・どちらかといえば賛成 89.2%


「家庭養育の経験がある方では、賛成率は全体平均を下回りました。一方で、ゆりかご支援選択制度の利用経験がある方では、制度への肯定的評価が高くなっています」


AIは、視線を正面に戻した。


「これは、社会養育支援を実際に経験した方ほど、専門的支援の有効性を実感しやすいことを示している可能性があります」


画面下部に、小さな注記が出る。


*本調査における「家庭養育」とは、出生提供者またはその近縁者が、出生児を継続的に私的居住空間で養育する形態を指します。


「一方で、反対、またはどちらかといえば反対と回答した方の理由としては、『出生児との分離に心理的抵抗がある』が最も多く、次いで、『国家による養育管理に不安がある』、『旧来型家庭環境にも発達上の意義があると思う』が挙げられました」


画面には、反対理由の一覧が表示された。


出生児との分離に心理的抵抗があるから:64.7%

国家による養育管理に不安があるから:51.9%

旧来型家庭環境にも発達上の意義があると思うから:45.2%

出生提供者と出生児の接触制限に抵抗があるから:39.6%

発達支援区分による分類に不安があるから:32.8%

宗教的・伝統的価値観に反するから:18.4%


AIはそこで、少しだけ表情を柔らかくした。


「出生児との分離に不安を感じることは、旧来型養育文化の中で生活してきた方々にとって、自然な反応です」


優しい声だった。


「政府は、制度移行期における心理的負担を軽減するため、出生提供者相談窓口、移行前説明プログラム、短期接触支援制度の整備を進めています」


AIの横に、新しい案内画面が表示された。


右下にURLが現れる。

その文字列の下には、淡い青色のボタンが表示されていた。


『制度移行期支援プログラムについて詳しく見る』


「また、社会養育制度に関する資料請求、現地説明会への参加、施設運営記録の閲覧申請は、国民番号を保有するすべての方が行うことができます。社会養育制度の透明性を確保しながら、国民の皆さまとともに、円滑な移行を進めてまいります」


AIは最後に、もう一度だけ穏やかに微笑んだ。


「すべての出生児が、出生環境に左右されることなく、安全で安定した発達環境を得られる社会へ。内閣府およびこども次世代庁は、国民の皆さまとともに、次世代の権利保障を進めてまいります」


画面は再び白くなり、内閣府の紋章と、こども次世代庁のロゴだけが残っていた。



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