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家族禁止法  作者:
第二部:2084年
10/14

資料③:

街頭インタビュー — 独身30代男性会社員


資料番号:2084-TBS-ST0502-M31

資料名:ニュース特集『子育ては誰が担うのか』街頭インタビュー抜粋

収録日:2084年5月2日

放送日:2084年5月3日

収録場所:東京都千代田区・丸の内駅前広場

資料種別:報道番組内インタビュー


映像は、2080年代の丸の内駅前広場を映したものだった。

まだ、現在のような超大型高層複合都市群が建設される前の東京である。とはいえ、当時としては十分に近代的な都市だった。高層ビルの谷間には歩行者用の空中通路が伸び、地上には自動配送ロボットと会社員が入り混じっていた。

昼休みの時間帯らしく、灰色や紺色のスーツを着た人々が、駅前広場を忙しそうに横切っていく。広場の中央には、報道番組の取材スタッフが立っていた。


画面の右下には、白い文字で次のような字幕が出ている。


子育ては誰が担うのか

~~出生児社会養育移行法案をめぐる街の声~~


取材スタッフは、三十代前半ほどの男性にマイクを向けていた。

男性は、濃いグレーのスーツを着ていた。ネクタイはしていない。襟元には社用の認証チップらしき小さなバッジがついている。手には紙のコーヒーカップを持っており、昼食を済ませた帰りなのか、少し急いでいるようにも見えた。


「すみません。TBSのニュース特集です。少しだけお話を伺ってもよろしいでしょうか」


男性は一度、腕時計型の端末を見た。


「少しだけなら」

「ありがとうございます。まず、お仕事は何をされているんですか」

「メーカーです。大手って言っていいのかな。まあ、上場企業の総合職です」

「職種としては?」

「企画です。事業企画。新規事業とか、海外案件とか、そのへんですね」

「お忙しいですか」


男性は、少し笑った。


「忙しいですね。まあ、忙しくない総合職なんていないんじゃないですか」


取材スタッフも軽く笑った。


「今日は、いま国会で審議されている出生児社会養育移行法案について、街の方にお話を伺っています。いわゆる、家族禁止法案とも呼ばれているものですが、ご存じですか」

「知ってます。ニュースでよくやってますよね」

「どう受け止めていますか」


男性は、すぐには答えなかった。


駅前広場の大型広告には、別のニュース映像が流れていた。


すべての子供に、等しい出発点を!


政府広報の短いコピーだった。


男性はそれを一度だけ見てから、言った。


「まあ、言い方はちょっと怖いですけど、方向性は分かります」

「方向性は分かる?」

「はい。子供を社会で育てるってことですよね。親だけに全部背負わせるんじゃなくて」

「その考えには賛成ですか」

「基本的には、賛成です」


取材スタッフは、少し意外そうに聞き返した。


「賛成なんですね」

「はい。だって、今のままだと無理じゃないですか」

「無理、というのは?」


男性は、そこで少し表情を崩した。真面目に語ろうとしているというより、普段から溜まっていた不満が自然に口に出たようだった。


「いや、結婚して、子供を作って、育てて、教育して、大学まで出して、家も買って、老後資金も貯めてって、普通に考えて無理ですよ。全部やれって言われても」

「経済的に、ということですか」

「経済的にもですし、時間的にもです。今、子供をちゃんと育てようと思ったら、親が相当コミットしないといけないじゃないですか。教育もそうだし、メンタルケアもそうだし、習い事とか、進路とか、ネット環境とか。昔みたいに、ご飯だけ食べさせて学校に行かせればいいって時代じゃないですよね」

「ご自身は、現在ご結婚は?」

「してないです」

「今後、ご結婚の予定はありますか」


男性は、少し困ったように笑った。


「ないですね」

「ない、ですか」

「はい。今付き合っている人はいますけど、結婚は考えていません」

「交際相手はいらっしゃる?」

「います」

「それでも結婚はしない?」

「しないと思います。少なくとも、今のところは」

「なぜでしょうか?」


男性は、コーヒーカップの蓋を指で押さえながら答えた。


「恋愛と結婚は、もう別だと思うんですよね。恋愛は楽しいですし、一緒に過ごすのもいいです。でも結婚となると、生活が一気に制度になるというか。相手の人生も背負うし、家計も組み直すし、親戚づきあいも出てくるし、住む場所も、働き方も、子供をどうするかも、全部セットで考えないといけない」

「それが重い?」

「重いです。正直」


男性はあまり迷わずに言った。


「別に、相手のことが嫌いとかではないですよ。むしろ、関係はいいです。ただ、関係がいいことと、結婚という形に入ることは別なので」

「では、お子さんについてはどう考えていますか」


男性は、そこで少し視線を横にずらした。それまでより、わずかに慎重な表情になった。


「子供については、話したことがあります」

「交際相手の方と?」

「はい」

「子供を持つことを、考えているということですか?」

「考えています。というか、かなり具体的に話したことはあります」


取材スタッフは、少し驚いたように聞き返した。


「結婚はしないけれど、子供は持つかもしれない?」

「はい。そこは別に、矛盾しないと思います」

「別に考えている?」

「そうですね。恋愛は恋愛ですし、結婚は結婚ですし、出産は出産ですし、養育は養育なので」


男性は、当然のことを整理するように言った。


「昔はそれが全部ひとつのパッケージだったのかもしれませんけど、今はもう、そうじゃないと思います」


「ご自身が育ったご家庭も、そういう感覚に影響していますか」


取材スタッフが尋ねた。

男性は、少しだけ目を細めた。考えているというより、昔の家族との記憶を思い出しているような顔だった。


「あると思います」

「ご家庭は、どんな感じだったんですか」

「普通でしたよ」


男性は、すぐにそう答えた。


「別に、虐待があったとか、親がひどかったとか、そういう話ではないです。むしろ、ちゃんとしていた方だと思います。父も母も働いていて、家もあって、ご飯も出てきて、学校にも行かせてもらって。必要なものは、だいたい買ってもらえました」


そこで、彼は少し笑った。


「だから、恨みみたいなものはないです」

「では、何が引っかかっているのでしょうか」

「薄かったんですよね」


男性は、短く言った。取材スタッフは、聞き返した。


「薄かった?」

「はい。関係が悪いわけじゃないんです。喧嘩が多かったわけでもない。でも、なんというか...家にいても、みんな別々の画面を見ている感じでした」


彼は、手に持っていた紙のコーヒーカップを少し回した。


「父は仕事の通知を見ていて、母は家計アプリとか、買い物とか、育児記録とか、たまに動画とか。僕は僕で、子供用の動画を見ていて。夕食の時も、完全に無言ではないんです。でも、会話が続かない。何か話しても、途中で誰かの端末が鳴って、そこで途切れる」

「寂しかった、ということですか」


取材スタッフが聞くと、男性は少し首を傾げた。


「うーん...寂しい、とは違うかもしれません」


彼は言葉を選んだ。


「その時は、それが普通だったので特に寂しさはなかったですね。周りの友達もだいたい同じでしたよ。親と仲が悪いというより、親が忙しい。親も画面を見ている。僕たち子供も画面を見ている。休日に一緒に出かけても、移動中はみんな端末を見ている。レストランでも、料理が来るまではそれぞれ画面。そういう感じです」

「それを、当時はどう感じていましたか」

「特に何も」


男性は淡々と答えた。


「だって、他の家庭もそうでしたから。親と長く話す家の方が珍しかったと思います。学校で聞いても、親と毎日ちゃんと会話している子なんて、あまりいなかった。家族仲が悪いとかではなくて、そもそも、家族という関係に使う時間が少なかったんです」


彼は、駅前広場を行き交う会社員たちを見た。


「親も必死だったと思いますよ。仕事もあるし、手続きもあるし、教育情報も見ないといけないし、補助金の申請もあるし。今思うと、親の方も余裕がなかったんだと思います」

「ご両親を責めているわけではない?」

「全然」


男性は、気楽に否定した。


「責める感じではないです。むしろ、あれ以上どうしろと言われても難しかったと思います。でも、結果として、親子の関係はかなり薄かった。悪い思い出ではないけど、濃い思い出でもない。家族っていうものに、そこまで強い実感がないんです」


取材スタッフは少し間を置いた。


「それが、社会養育制度への賛成につながっている?」

「ありますね」


男性は頷いた。


「だって、家庭で育てると言っても、実際には家庭の中で子供がずっと親と深く関わっているわけじゃないですよね。親は仕事をしているし、疲れているし、端末を見ているし、子供も子供で動画やゲームや学習アプリに入っている。だったら、最初から専門の環境で育てた方がいいんじゃないか、というのは普通に思います」

「家庭にしかないものがある、という意見もあります」


取材スタッフが言うと、男性は少しだけ笑った。


「あるとは思います」


その言い方は、反論というより、相手の立場を一応認めるという程度のものだった。


「でも、それを本当に受け取れていた人がどれくらいいたのかは、分からないです。少なくとも僕の周りでは、家庭にしかない温かさ、みたいなものを強く感じていた人は少なかったと思います。みんな、別に親を嫌ってはいない。でも、親との関係を人生の中心に置いている感じでもなかった」


彼は、少しだけ視線を落とした。


「だから、家族がなくなるって言われても、ものすごく大事なものを奪われるというより、もともと薄くなっていたものを、制度が別の形に置き換えるんだな、という感じです」

「冷たい考えだとは思いませんか」

「そう捉える人はいると思います」


男性は答えた。


「でも、僕からすると、家庭という言葉の方が、少し盛られすぎている感じがします。実際には、同じ住所に住んでいて、同じ冷蔵庫を使っていて、でもそれぞれ別々の画面を見ている。そういう家が多かったんじゃないですか?」


彼は、手元のコーヒーを一口飲んだ。


「それを家族の絆と呼ぶのは、ちょっと無理があると思います」


「では、もしお子さんを持つ場合、養育はどうされる予定だったんですか」

「ゆりかご支援選択制度を使うつもりでした」


男性は、はっきりと答えた。

画面下に、小さな説明字幕が表示される。


**ゆりかご支援選択制度:希望する親が、出生児を公的な社会養育施設に預け、育児のすべてをお任せする制度。2060年代に導入され、育児困難家庭やキャリア継続を希望する親を中心に利用が広がっている。現在では、生まれてくる子供の6割が、ゆりかご支援選択制度によって、行政が一から子育てする形となっている。現在審議中の法案では、出生児の社会による養育を原則義務化する方針。


「最初からですか」

「はい。出生後、必要な手続きが終わったら、公的な社会養育に移すつもりでした」

「ご自身で育てる予定はなかった?」

「なかったですね」


その答えは、冷たくはなかった。ただ単に、これからの予定を話す声だった。


「それは、なぜですか」


「僕も相手も仕事を続けたいからです。相手も専門職で、かなり忙しいですし、キャリアもあります。子供を持つために、どちらかが仕事を大きく削るというのは現実的じゃないです」

「仕事を優先したい、ということでしょうか」


男性は、少しだけ首を傾げた。


「優先というか、どちらかを犠牲にする話にしたくないんです。子供を持つなら、子供にはちゃんとした環境が必要です。でも、僕たちが自分たちでそれを用意できるかというと、正直、自信はないです」

「自信がない?」

「はい。子供の発達とか、教育とか、心理とか、栄養とか、安全管理とか、全部を素人がやるのって、かなり無理があると思います」


男性は、少し間を置いた。


「僕は企画の仕事をしていますけど、子供の発達の専門家ではありません。彼女も、自分の仕事では優秀ですけど、養育の専門家ではない。だったら、最初から専門機関に任せる方が、子供にとってもいいんじゃないかと思っていました」

「民間の養育支援サービスではなく、公的なゆりかご支援選択制度を考えていたんですね」

「そうです」

「民間サービスは検討しなかったんですか」


男性は、そこで少し大きく笑った。


「あれ、高すぎますよ」

「高いですか」

「高いです。高すぎます。普通の会社員が使うものじゃないです。富裕層向けですよ、あれは」

「大手企業にお勤めでも、難しい?」

「難しいです。もちろん、払えないわけじゃないですけど、それを払ったら他の生活が全部削られます。住宅、老後、親の介護、自分のキャリア投資。全部考えたら、子供のためにそこまで出せる人って、かなり限られますよ」

「では、公的な社会養育制度は、その代替になると?」

「代替というか、本来そっちが普通でいいんじゃないですか」


男性は、今度はかなりはっきりと言った。


「生まれた家庭の所得で、子供の教育環境が決まるのはおかしいですよね。富裕層だけが高度な民間養育サービスを使えて、普通の家庭は親が頑張るしかないというのは、かなり不公平だと思います」

「今回の法案では、出生後の子供は原則として公共の養育機関に移行することになります。つまり、これまでのように希望者が選択する制度から、社会全体の原則に変わる。その点については、どう思われますか」


男性は、少しだけ黙った。それまで流暢だった口調が、一瞬止まった。


「そこは、まあ...抵抗ある人はいるでしょうね」

「ご自身は?」

「僕は、全くないです」

「抵抗はない?」

「ないというか、もともと使うつもりだったので」


男性は、そう言ってから、少し言葉を選んだ。


「むしろ、原則化された方が楽だと思います」

「楽、ですか」

「はい。任意制度だと、使う側が説明しないといけないんですよ」

「説明?」

「周りから説明を求められるじゃないですか、『なぜ自分で育てないのか』、とか。『子供がかわいくないのか』、とか。『仕事の方が大事なのか』、とか。そういう話になるじゃないですか」


男性は、やや面倒そうに笑った。


「でも、社会全体の原則になれば、そういう説明はしなくてよくなる。出生した子供は社会養育に移る。それが普通になる。だったら、親だけが変な罪悪感を持たなくて済むと思います」

「罪悪感があるんですか」

「多少はあると思いますよ。僕はそこまで強くないですけど、彼女は少し気にしていました」

「交際相手の方が?」

「はい。自分で産むのに、自分で育てないのはどうなのかって」

「その点については、どう話し合われたんですか」


男性は少し考えた。


「子供のためにどちらがいいかで考えよう、という話をしました」

「子供のため」

「はい。僕たちが無理して家庭で育てるより、専門家がいる環境で育った方がいいんじゃないかと。感情としては別に、寂しいとか、不安とか、そういうのはあると思います。でも、それを理由に子供の環境を下げるのは違うよね、という話です」

「かなり割り切った考え方ですね」

「そうですか?」


男性は、不思議そうに首を傾げた。


「でも、仕事でもそうじゃないですか。知識がない人が気持ちだけで判断したら、普通に事故るじゃないですか。子育ても同じじゃないんですか」


取材スタッフは、少し間を置いた。


「一方で、自分の子供を自分で育てたい、手放したくないという声もあります」

「それは、分かります」


男性は、すぐにそう言った。


「分かるんですか」

「分かりますよ。そりゃ、自分の子供だったら可愛いでしょうし。生まれた子を手元に置きたいと思う人がいるのは、分かります」

「では、そうした親の気持ちは、制度の中でどう扱われるべきだと思いますか」


男性は、そこで少し困った顔をした。


「難しいですね」

「難しい?」

「はい。気持ちは分かりますけど、子供のためになるかは別ですよね」


広場の奥を、ベビーカーを押した女性が通り過ぎていった。


男性は、その方を見たわけではなかった。けれど、画面は一瞬だけ、そのベビーカーを映した。中の乳児は眠っていた。カメラは、再び男性の顔に戻る。


「親が手放したくないからっていう理由で、子供にとって最適じゃない環境に置くのは、やっぱり違うんじゃないですか。そこは、社会が介入してもいいと思います」

「親の権利よりも、子供の権利を優先すべきだと」

「そうですね。まあ、言い方は強いですけど」

「では、いわゆる家族というものについては、どう考えていますか」


男性は、少し笑った。


「大きい質問ですね」

「率直にお願いします」

「率直に言うなら、重いです」

「家族が、ですか」

「はい。家族って、温かいものでもあるんでしょうけど、同時にかなり重いものでもありますよね。親の期待とか、家の事情とか、介護とか、相続とか、結婚しろとか、子供を持てとか。良い面だけじゃないと思います」

「ご自身の家庭環境に、何か問題があったということですか?」

「いや、特にないです。普通です。両親とも仲良くしていますし、優しい良い親です」

「それでも、重いと感じる」

「感じますね」


男性は、少し肩をすくめた。


「別に、親が悪いとかじゃないです。でも、家族だからっていう理由で、いろんなことが当然みたいに発生するじゃないですか。会いに行くとか、心配するとか、支えるとか、期待に応えるとか。それを子供にもまた背負わせるのかって考えると、ちょっとしんどいですね」

「ご自身の子供にも、そういう関係を背負わせたくない?」

「そうですね」


男性は、そこで初めて少しだけ考え込んだ。


「子供が生まれた瞬間から、誰かの期待とか、家庭の事情とか、親の人生設計とかに組み込まれるのは、重いと思います。もちろん、全く関係がないわけではないです。遺伝的には僕と彼女の子供ですし。でも、だからといって、その子が僕たちの生活の中に入らないといけない理由にはならないと思います」

「それは、少し寂しくはないですか」

「寂しいかもしれません」


男性は、あっさり認めた。


「でも、寂しいから自分で育てる、というのも変じゃないですか」

「変、ですか」

「はい。親が寂しいから子供を手元に置く、という話になると、それは子供のためなのか親のためなのか、分からなくなるので」


取材スタッフは、少しだけ黙った。広場の背景では、昼休みを終えた会社員たちが、次々とビルの中へ戻っていく。


「今回の法案によって、そうした家族のあり方は大きく変わることになります」

「でしょうね」

「それは、良い変化だと思いますか」


男性は、すぐには答えなかった。風が吹き、マイクに小さな雑音が入った。


「良いかどうかは、まだ分からないです」


男性は、ようやくそう答えた。


「ただ、今のまま続けるのも無理だと思います」

「無理だと思う?」

「はい。子供を持てない人が増えてますよね?出生率だって前までは、1.0とかだったのに、今じゃ0.6ですよね?それに、子供を持つ人もしんどくて、教育格差も広がって、親の責任だけがどんどん重くなっている。しかも、民間の高度養育サービスを使える人と使えない人で、出生直後から差がつく。だったら、社会で育てる方向に行くのは、自然なんじゃないですか?」

「自然、ですか」

「自然というか、現実的です」


男性は、ふと端末で時間を見た。


「すみません、そろそろ戻らないと」

「最後に一つだけ。もし法案が成立した場合、ご自身と交際相手の方の予定には、何か影響がありますか」


男性は、少しだけ笑った。


「むしろ、話はしやすくなると思います」

「話しやすくなる?」

「はい。今は、ゆりかご支援選択制度を使うと言うと、まだ少し説明が必要なんです。でも、法案が通れば、それが社会の標準になるわけですよね。だったら、子供を持つことについても、前より現実的に考えやすくなると思います」

「結婚ではなく?」

「結婚は、たぶんしないです」

「子供を持つことと、結婚は切り離して考えている?」

「はい。恋愛は恋愛で、子供は子供で、養育は社会で。そういう形の方が、僕には分かりやすいです」

「ありがとうございました」

「はい。すみません、会議があるので」


男性は軽く頭を下げると、足早にビルの方へ歩いていった。

取材スタッフは、去っていく男性の背中を少しだけ映したあと、カメラに向き直った。


「都市部の未婚就労者からは、法案に対して一定の理解を示す声も聞かれます。背景には、子育て費用の高騰、教育責任の重圧、民間養育サービスとの格差、そして結婚や家族に対する価値観の変化があるようです」


映像はそこで切れた。


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