27話 知識を託して
質問に答えつつも、なんとか一通り説明を終えることが出来た。
話していて分かったのは、錬金術だけじゃなく細工技法や付与術も昔の技術が伝わっていなかった事。
秘伝だ、奥義だなんて言い張り、一子相伝が当たり前だと思っている。ただ、そうなったにも理由があるらしい。
「魔族じゃ、魔王が復活するよりもはるか前より儂らの技術を狙っているやつがおる。それは人も本も同様、殺すか焼くかの違いにすぎん。後世に継承する為には、目立たぬよう秘匿するしかなかったんじゃ……」
「そうだったのね……だからほとんどの技術が消失するか、劣化してるのね……」
「……言ってくれるじゃないか小娘よ。貴様の知識がどれほどかは知らぬ。だが、ここにいる全員が矜持を持って仕事をしておるのだよ」
他の三人も肯定するように力強く頷いている。
あぁ……失敗したわね。
技術の話をしていたつもりだったのだけれど、職人としての誇りまで否定したみたい。
「私の言い方が悪かったわ。ごめんなさい」
「……分かればいい。儂らとて失われた技術を取り戻したい気持ちは同じじゃ」
「そうね」
「だからこそ教わりたい。お前さんの知っている事を」
その一言を皮切りに、失われた知識への渇望からか止めどなく質問攻めが始まった。
魔石と素材の組み合わせによる出力の変化。
器の材質や形状による効率化や二個以上の配列による変化。
魔法回路の書き方や定着方法。
素材への付与の手順。
専門家だけあって、吸収は早い。知識欲も凄まじい。
脱線しながらも質問に答えているうちに、時間はあっという間に過ぎてしまった。もはや、説明会というより職人同士の議論になっていた。
細工師と付与術師が言い争いを始めたり、錬金術師が回路の強度について熱弁したり、裁縫師が機能美にもこだわれと主張したり。
——ああ、懐かしい。
目の前で繰り広げられる光景は、まるで昔に戻ったみたいだった。
親友と一緒に本を書いていた頃。
あれは毎日こんな調子だった。新しい発見があれば議論になり、思い付きがあれば実験になり、気付けば朝になっている。
親友でありライバル。
ありきたりな関係かもしれないけれど、それでも私にとっては唯一無二の存在だった。
だからこそ思う。
この熱く貪欲な人たちになら、親友が願った夢を託せるかもしれない。
失われた技術を踏み台に、誰かがまた新しい技術を生み出していく。そんな未来の芽吹きを、少しだけ見てみたくなった。
さらに数時間後。
ようやく話し合いが一段落し、解放された。
私は凝り固まった腰を摩りながらゆっくりと立ち上がる。
「あとは渡した資料を読んでね。素材も集めましたし、試作品くらいなら十分作れるはずよ」
机の上に昨日と今日で集めたヌメリ湿地の素材を並べていく。
「後は各自、試行錯誤して完成させて頂戴」
「簡単に言うのう、どれもが一筋縄じゃいかんぞ」
そう言い、偏屈じじいが鼻を鳴らした。
「職人なんだから頑張りなさいよ」
「この小娘……」
とは言うものの、その顔はどこか楽しそうだった。
他の三人も資料を抱えながら何やら話し込んでいる。
どうやら上手く協力出来るように相談しているようね。いい傾向ね、一人じゃ作れる物にも限度があるもの。みんなで作って良いものをじゃんじゃん作り出して欲しいわ。
もう大丈夫かしらね。
「私たちは近々聖都へ向かうわ」
「完成を見届けないのかい?」
ラーゼトが聞いてくる。
「なんで?」
「なんでって……」
「私の仕事は終わったわよ。そもそも、聖都に向かう様に言われてたのよ」
設計図は渡した。
素材も揃えた。
後はみんなの仕事。
「完成したら教えて頂戴。私もちょっとは気になるもの」
そう言うと、ラーゼトは深くため息を吐いた。
「分かったよ」
「ええ。それじゃ――頑張ってね」
そう言い残し、私たちは会議室を出ると、グレーシアが小さく笑う。
「上手くいきそうですか?」
「ええ。彼らなら大丈夫よ」
設計図も素材を揃えた。
彼らの知識欲をこれ以上にないぐらい刺激した。
後は職人たちの仕事。
私がやるべき事は終わったわ。
「それじゃ、次はいよいよ聖都ですね」
グレーシアさんの言葉に頷く。
王様から頼まれていた最初の目的地である聖都。
魔王軍との戦いに曝されて救援を求めている戦地。
そして、今代の聖女と合流する場所でもある。
「それじゃ行きましょうか」
「はい!」
元気よく返事をするのの子ちゃん。
その声に思わず口元が緩む。
聖都ラナティッヒ。
次なる目的地へ。
――さぁ、みんなとの冒険を再開しましょうか。




