26話 錬金術
ラーゼトから夕方に職人を集めるから説明してほしいと依頼された。
よって、夕方まで私一人、別行動を取る事になった……。
のの子ちゃんとグレーシアと四つ風は再びヌメリ湿地へ行き、素材の回収と戦闘訓練に。
私はギルドが貸してくれている部屋に籠もり、マジックバッグの設計図や資料作りに追われていた。
幸いにも必要な素材は揃っている。
ビッグフロッグから取れる素材。
以前作った魔石を入れる金属の器。
そして、三百年前に一緒に研究していた親友のマリーと私が作り上げた回路図もある。
後は職人たちに分かる形へ落とし込むだけだった……だけだったのだけれど。
「うーん……」
机に向かいながら唸る。
知っている事を説明する場合、知らない人に理解出来るよう説明するのは今も昔も苦手だった。だって、どこまで説明したら伝わるか分からないじゃない。全員が同じように知識な持ってる訳じゃないし……。
三百年前では当たり前のように使っていた技術も、今じゃ常識ではないし。
そもそもよ、マジックバッグがなんで失伝するのよ。手広く伝えたつもりだったのに、まさかロストテクノロジー扱いだなんて……。
まぁ、出来る限り説明するべきか。
そして夕方。
私はのの子ちゃんと四つ風をお供に連れ、ラーゼトに連れられて向かった先はギルドの会議室。先日呼び出された応接室よりもずっと広い。
それでいてシンプルに長机が並び、既に今回の協力者である四人が席についている。
部屋へ入った瞬間、何人かと視線が交差した。
四人の年齢は様々。
白髪混じりの老人、まだ三十代くらいに見える小柄な男性。私より少し年上くらいかしら、まさにインテリっぽい男性がいる。少々派手な女性は間違いなく裁縫師ね。
「集まって貰えて助かるよ」
ラーゼトが立ち上がる。
「紹介しよう。彼女が今回の発案者、ハノンさんだ」
その言葉に、部屋にいる四人の表情が怪訝なものに変わった。まぁ、無理もないわね。だって今日も侍女服ですもの。
そんな私がマジックバッグの製造方法を説明すると言われても信じ難いでしょうね。
なので、気合いを入れる為、普段よりもフリル多めで真っ白なエプロンを付けてきたの。
まさに、侍女としての勝負服よ。
「本当にこのお嬢さんが? ふざけているなら儂は帰るぞ」
白髪混じりの老人が眉をひそめる。それに釣られ周りも口々に不満を吐く。
「いやぁ、僕は真面目も大真面目さ。もし聞く気がないなら……帰りな」
ラーゼトが場の空気を一瞬で制圧した。
「僕も同じ立場ならそう思うだろうさ、だが事実だ。黙って聞け」
何とも失礼な職人たちね。
ラーゼトが何も言わなかったら私が先に帰ってたわね。
「まぁ疑うのは後でも出来るよ。今は有意義でおとぎ話のような楽しい時間へとみんなで洒落込もうじゃないか」
ラーゼトと他のみんなは空いている席へ腰掛けながら私へとみんなの意識を誘導する。
「はい……じゃあ、気を取り直して始めましょうか。まずは全員、実演するから前に来てください。あと資料も受け取ってね」
そう言って私は教壇といってもいいような机の前に立ち、分厚い資料を取り出した。
部屋の視線が一斉に集まる。
さて、お勉強を始めましょうか。
「いま渡した資料はまだ見ないでいいわ。いまから実演をするからよく見てて」
まずは本物のマジックバッグから色々取り出す。
小皿の上に魔石を置く。さらに見やすいようにビックブロッグの血が入った小瓶とインクの小瓶を並べる。
「ここにビッグフロッグの魔石と血が有ります。それと一緒に自分の血を混ぜて……」
そう説明をしつつ、魔石を片手で握り、錬金術『粉砕』を使って細かく砕く。
そこにバシャバシャと小瓶から血を振りかけ。仕上げに自分の指先の血を一滴。
そうして錬金術『液化』を発動する。
まるでお湯に入れられたドライアイスのように真っ赤な煙が溢れ出た。
真っ赤な煙が収まると、小皿の上には先程まで砂状だった魔石が跡形もなく消えていた。
残ったのは粘度のある深紅の液体だけ。
うん、良い感じ、久しぶりだったけど、成功して良かったわ。
「なっ、なんだその反応は!? 魔石が、溶けただと……!?」
絶句する老人に、私は涼しい顔で言い放つ。
「配合と手順は配った資料を見なさい。ざらついた粉末のまま混ぜるより、液体にした方が魔力伝導効率が跳ね上がるわ。後はこの魔溶液をインクと混ぜれば完成よ」
錬金術師っぽい老人はずっとまじまじと見つめていた。
他の三人は特に興味が無いようで傍観しているわね。まぁ自分の専門分野以外は分からないものね。
「あとは伸縮性に優れた素材——乾いたビッグフロッグの鳴き袋に空間魔法の魔力回路を直接書き込むか、転写してここの部分は終わりね」
「空間魔法だと……それだって百年以上前に失われた秘技じゃぞ……どうなっておるんだ、お主は一体……」
「見ての通り、ただの侍女よ」




