24話 キャンピング馬車ホーム
ヌメリ湿地での討伐を終えた私たちは、再びロアンの荷馬車で帰っている最中。
陽の光が沈み茜色から暗闇へと変わるのを荷馬車の中から眺めていた。
私の隣では——
こくり。
こくり。
綺麗に結い直した髪が揺れ始めたかと思えば、轍でガタンと跳ねて目を覚ます。
「ふぁ……」
のの子ちゃんは限界みたいね。
くりくりの目は今にも寝そうなほどに閉じ掛けている。
そんなことはお構いなしに容赦なく揺れる荷馬車。
今日も頑張って疲れちゃったのね。
アイテムボックスにしまっておいたブランケットを取り出し、折り畳んで私の膝の上に置いた。
揺れるのの子ちゃんの肩を優しく抱き寄せ、膝の上に寝かせた。私にも妹がいたらこんな感じだったのかしら。もしそうだとしたら、きっと甘やかしていたに違いないわね。
役得という事で、寝顔を堪能しつつサラサラな髪に指を通す。
王都へ戻ってきた頃には、すっかり日が傾いていた。
「おはよう、大丈夫?」
「お、おはようございます……」
ふふ、気づいているわよ。途中で起きて事態が飲み込めずに狸寝入りしていたの。耳を赤くして恥ずかしがる姿も十二分に堪能させて貰いました。
それにしても、荷馬車は腰にくるわね。
いつかはマイカーも持ちたいけれど……こんなに辛いんじゃ乗らなくなりそう……。
いいえ。
乗りたくなるような凄いものを作るべきね。
日本の技術と魔法の真髄を融合させた魔改造馬車。
広くて。
揺れなくて。
二十四時間快適をご提供。
いいわね、最高じゃない。
出来れば中で寝泊まりもしたいわね。
料理も出来るとなお良いわ。
もうまさにキャンピングカーみたいにしましょう。
いやそれだけじゃつまらないわ。
どうせなら旅をしながら世界中を巡れる方が良いわ。
それなら最終的には家に変形する機構も必要になるわね。
キャンピング馬車ホーム。
完璧だわ。
世界を旅しながら良い土地を見つけたらその場で家になる。お引越しも楽ちん……。
老後の理想形じゃない。
……誰か作ってくれないかしら。
そんな壮大かつ大切な計画を考えているうちに、荷馬車は冒険者ギルドへと到着した。
討伐報告はグレーシアさんが手際よく済ませてくれる。
私は横でぼーっと眺めていただけ。
役得ね。
「それじゃ、飯食いに行くか!」
「まだ食うの?」
「当たり前だろ!」
ガードンが胸を張った。
凄いわね。
さっきまで肉を食べていた気がするのだけれど。
「ハノンちゃん達も来る?」
「私は遠慮しておくわ」
「わたしも今日はもう寝ます……」
のの子ちゃんは半分寝ていた。
流石に今日は限界らしい。
すると。
「ハノンさん」
背後から声が掛かる。
嫌な予感がした。
振り返ると案の定、満面の笑みのラーゼトだった。
思い当たる節は……。
「少しお時間を頂いても?」
そしてのの子ちゃんはギルドが貸してくれている部屋へ、私はラーゼトの部屋へ連行された。
ソファへ腰掛けた私の向かいで、ラーゼトは何とも言えない表情をしている。
「えーと、ハノンさん」
「なにかしら?」
「君、僕らに言ってない事はない?」
「あら」
私は首を傾げた。
「そりゃあるわよ」
「あるんだ」
「誰にだって秘密の一つや二つあるでしょう?」
「それはそうなんだけどね……」
ラーゼトが額を押さえた。
「言い忘れてる事とか無い?」
「うーん」
言い忘れてる事?
昨日の打ち合わせで段取りとかは全部話したはず……。
「そうね、言い忘れてる事は無いと思うわ」
「本当に? 本当にないのかな?」
「……多分」
「その多分が怖いんだよなぁ……」
何故か凄く疲れた顔をしている。
最近ちゃんと寝てるのかしら。どんなに忙しくたって三日に一度は寝るようにしないとダメよ。
「これから悪巧みをする仲じゃないか、隠してる事も教えてよ」
「人聞きが悪いわね」
「いや悪巧みだろう?」
否定できないのが悔しい。
「その悪巧みに必要な事とか無い?」
「そうねぇ」
少し考える。
「強いて言うなら、今、空間魔法の回路や錬金術の合成方法なんかを資料にまとめてる事ぐらいかしら」
「資料……あぁ、そんなぁ……」
ラーゼトが天井を見上げた。
「空間魔法なんて未だに解明出来ていない分野なんだよ……」
「そうなの?」
「そうなの!」
机を叩きながら立ち上がる。
「それを既知の技術として公開されたら世界中が大騒ぎだよ! 絶対根回し必要なやつじゃん!」
「あら」
それは大変ね。
「その……無理しないで頑張ってね」
「くっ……他人事だっ!」
ラーゼトが苦しそうに胸を押さえる。
でも仕方ないじゃない。
「ちゃんと利益は出るんでしょう?」
「出るよ、きっと想像できないぐらいの利益が!」
「なら良いじゃない」
「良くないんだよ! 眠れない日々が続くのが分かりきってる……」
大変そうね。
「三日以上の徹夜は体に悪いわよ?」
「誰のせいだと思ってるんだい……」
ラーゼトが悲壮な顔でこちらを見てくる。
でも私は悪くない。
多分。
「……まあ、僕が本当に聞きたかったのはそこじゃないんだけどね」
「あら、違ったの?」
「まったく違うよ」
ラーゼトは深いため息を吐いた。
「君、他にも持ってるよね?」
「なにを?」
「マジックバッグ」
ああ。
そっち。
「持ってるわよ」
即答した。
ラーゼトは目を閉じた。
何かを諦めたような顔だった。
「だよねぇ……」
何を今さら。
作れるんだから持ってるに決まってるじゃない。
そんな事を考えていると、ラーゼトは再びゆっくりと顔を上げた。
――どうやらまだ話は続くらしい。




