23話 みんなで昼食
ロアンさんとの会話を続けながら私は、湿地にいるみんなの状況も感知魔法で捉え続けている。
今の所、順調そのもの。
途中からは二手に別れて狩り始めたみたい。
ビッグフロッグはあまり強くないモンスターとは言え、足元がぬかるんでいたり、草に隠れた水溜りがあったりと、慣れていないと苦戦しそうな地形ね。
グレーシアには事前に麻袋に偽装したマジックバッグを渡してある。ビッグフロッグを数十匹放り込んだところで満杯にならない優れものよ。
そのおかげで彼女は湿地のあちこちを飛び回りながら獲物を回収している。
便利屋みたいになってるけれど……頑張って貰いましょう。
こちらは下拵えが終わり、ロアンさんとまったり将来の話をしていた時、散らばっていた反応が一箇所に集まったのに気がついた。
どうやら素材集めは無事に終わったらしい。
それじゃ私も——
「そろそろ焼きはじめますね」
「ええ、私にも手伝わせてください」
紳士的なロアンさんにありがとうと応え、私たちはよく焼けた火種を広げていき、新しい薪を足していく。燃えやすいように空気の通り道を作ったので、次第にパチパチと音を立てながら火が勢いを増していく。
続いてアイテムボックスから取り出したのは、黒く艶のある長い串。
ブレイズニードルというモンスターのトゲ。
見た目は巨大なヤマアラシだったのに、興奮すると背中のトゲが燃え始める変わった魔獣。
耐熱性が高そうだと思って回収しておいたのだけれど、案の定当たりだった。焚き火ぐらいの熱だといくら炙っても燃えないし折れない。
今じゃ立派な串として活躍してくれている。
そんな使い勝手のいいトゲに下拵えを終えたファットボアの肉を一つずつ丁寧に刺していく。
筋を切り、塩と胡椒、それに乾燥ハーブを擦り込んであるから後は焼くだけ。それだけでご馳走の出来上がり。
やっぱり焚き火と言えば串焼きか焼き芋ね。
ロアンさんと二人、るんるん気分で肉を刺した串を焚き火の周囲へ並べる。
じゅうっと脂が落ち、香ばしい匂いが辺りへ広がった。
うん、いい感じ。
これならみんなが戻ってくる頃には丁度食べ頃になりそうね。
そんな事を考えながらよく焼けるようにくるくると肉を返していると、感知魔法に捉えていた反応が斜面を登り始めた。
そして――。
「うおおおおお! 肉の匂いだぁぁぁ!!」
ガードンの大声が聞こえてきた。良い匂いが離れている斜面のところまで届いたのね。
予想通り、一番最初に登り終え姿を見せたのはガードンだった。
戻ってきたその姿は朝よりもずっと泥だらけだ。膝下なんてほとんど茶色に染まっている。
「おかえりなさい」
「おう! ただいま! いやぁ、腹減ったぜ!」
そう言いながら、焼き途中の串焼きを凝視している。
「それはもう少しね。みんなが戻るまで手にとってよく焼いてても良いわよ」
そう言うとガードンは嬉しそうに地面から串を引き抜き、直接火に当てはじめた。やっぱり最後は自分の好みまで焼くのが醍醐味よね。
その後ろからランレイたちも姿を見せる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
ラッツェは尻尾まで泥だらけだった。
ファラリスは比較的綺麗だけれど、ローブの裾がびっしょり濡れている。
そして最後にグレーシアさんとのの子ちゃんが斜面を登ってきた。
のの子ちゃんは少し疲れた様子だったけれど、どこか誇らしげな顔をしている。
「どうだった?」
私が尋ねると、のの子ちゃんの顔がぱっと明るくなった。
「わたしは三匹倒しました!」
「あら、凄いじゃない」
胸を張る姿が可愛らしい。頬や髪にまで泥が付いてるから結構頑張ったようね。
昨日はホーンラビット一匹で大騒ぎしていた子が、もうそこまで出来るようになったのね。
するとランレイも頷いた。
「最後の一匹は一人で仕留められたな」
「へへ、わたしだってちゃんと倒せるんです」
嬉しそうにしていて可愛いから頭を撫でると、照れ臭そうに頬を掻いた。
「えへへ……」
昨日のホーンラビットの時よりもずっと良い顔をしている。
ちゃんと前に進めているみたいで良かった。
それはそれとして……頑張ったご褒美のご飯なんだから、綺麗な状態で食べたいわよね。
「みんなお疲れ様。まずは綺麗にしましょうか」
「ん?」
ラッツェが耳をぴこぴこさせながら首を傾げる。
「せっかくのお昼ご飯なんだもの。泥だらけのままじゃ勿体ないわ」
私は軽く手を振った。
「《浄化》」
淡い光がみんなを包み込む。
すると服や髪に付いていた泥が消えていった。
「凄いわっ!?」
ファラリスが自分の腕を見て目を丸くする。
「ぼくの尻尾が綺麗になった……」
ラッツェも感心している。みんなも急に綺麗になって驚いているけど、もしかして、これも失伝したのかしら……? なにやら聞きたそうにしている人がいるけど……それよりご飯が先よ。だから質問は受け付けられないわ。
「さて、それじゃせっかくのお肉が焦げちゃう前に食べましょうか」
「はーい!」
全員で「いただきます」と声を揃えた瞬間、焚き火の周りに並ぶ串焼きへ一斉に手が伸びる。
みんなよほどお腹が空いていたらしい。美味しいと言いながら思いおもいに食べている。
そんな中、グレーシアさんが私の隣へやってきた。
「これを」
例の麻袋を差し出してくる。
袋の中を覗き込んで確認する。
討伐したビッグフロッグの数々は……しまったままにしましょう。触った感じ、皮の品質も良いわね。
取り出されていた魔石を手にとって確認する。
小指サイズだけれど、品質は十分。これなら使えそうね。他にも色々と詰め込まれているみたいね。
「どうかしら?」
小声で尋ねるグレーシアに私は頷いた。
「ええ、これなら十分よ。素材集めはここだけで十分そうよ」
あまり大きいのは作れないけど、元の容量から数倍には広げられそうね。
その一言に、グレーシアさんも小さく口元を緩めた。
「それは良かった。みんなが作れるようになったらここも賑わいそうね」
「その頃には湿地のカエルたちが絶滅を心配しそうだわ」
「ふふ、それはあり得るかもね」
泥遊びだと思えば楽しいかもしれないけど、命掛けて狩りしにくるなら勘弁してほしいのが正直な所ね。
さて、素材も揃ったことだし、食べ終わったら帰りましょうか。




