20話 出発前の顔合わせ
身支度を整えた私たちは部屋を出て、一階の受付ホールへと向かった。
朝のギルドは昼間来た時とは比べ物にならないほどに活気に満ちている。依頼を選んでいる人たちや仲間を募集している人。それに対応する職員たちが慌ただしく動き回っていた。
良かったわ、きっとまだ寝坊と言われる時間じゃないはず。
そう自分に言い聞かせながらロビーに集まる人達を見渡すと、武装したグレーシアと四つ風のランレイたちがいた。
グレーシアが四人に何やら説明をしていた。
うーん、やっぱり待たせてしまったかしら。
「みなさん、おはようございます」
声を掛けると、全員の視線がこちらへ向く。
「おっ、ノノコ、ハノン! おはよう!」
真っ先に声を上げて手を振ったランレイが、のの子ちゃんの顔を見て「お?」と目を丸くする。
「なんだよノノコ、今日の髪型、昨日と違ってなんかすごく可愛いじゃねえか。気合い入ってんな!」
「へへ、そうなんです! 今朝、覇音ちゃんに可愛くしてもらったんです!」
のの子ちゃんがぴょこぴょこと嬉しそうに髪を揺らす。
「あらぁ、二人ともおはよう」
グレーシアさんが大人の余裕たっぷりにひらひらと手を振った。普段は受付しながらうたた寝ばかりしているお姉さんだけど、今日は背中に一振りの細剣を帯びており、どことなく纏う空気が鋭い。
「ちょうど良かったわぁ。今、四つ風のみんなに説明していたところなの」
「説明?」
「昨日話した素材集めの件よぉ。でも、それ以上詳しい事はまだ秘密にしてねぇ」
グレーシアは悪戯っぽく唇に人差し指を当てる。そのまま、その指を反対の手に持つ地図のとある場所を指差した。
そこは昨日の打ち合わせで必要となる素材が取れる場所を指し示している。
「まずはここ、街の南にある『ヌメリ湿地』ね。そこに生息するビッグフロッグの皮が必要なの。今日の素材集めはそこから始めましょう。でもその前に……まずは改めて自己紹介をしておきましょうか」
グレーシアさんの言葉に、ランレイが腕を組みながら一歩前に出る。
「ギルドから直々に護衛兼案内役を頼まれた、四つ風のリーダーのランレイだ。昨日の今日だからまだ覚えてもらえてるよな?」
私とのの子ちゃんが黙ってコクコクと頷くと、彼は「あはは……」と苦笑いで頭を掻いていた。
「おう! 次は俺だな! 俺の名はガードン、この頑丈な盾と体で仲間を守るぜ!」
そう言って背負った大盾を親指で指し、勢いよく自分の大胸筋をドンッと叩いた。
役割で言えば、前衛のタンクね。身長はパーティの中で一番高く、筋肉もこんがり日焼けしていて逞しい。あの重そうな盾を軽々と扱うあたり、かなりの力持ちさんだわ。
「僕はラッツェ。偵察や索敵がメインで、弓やナイフで戦うよ。……二人とも、よろしくね」
少し気恥ずかしそうに笑うのは、小柄で癖毛が特徴的な獣人の男の子だ。パタパタと動くケモ耳と尻尾が可愛らしいけれど、人族より遥かに優れた天性のスカウトね。
「最後は私ね! ファラリス・ロービースよ、中位魔法までなら大体は使えるわ。よろしくね」
そう言うのはまさに魔法使いって風貌の女の子。歳は……私と同い年ぐらいかしら?
腰まであるウェーブがかった黒髪が綺麗な美人さんだ。同じ魔法使いとしての同志ね。
「一応私もぉ、グレーシアよ。現役時代は索敵と攻撃を担ってたわ。基本はラッツェくんと同じねぇ」
グレーシアさんが微笑むと、四つ風の面々は「よろしくお願いします、姐さん!」と一斉に頭を下げた。本当に慕われている……というか恐れられているみたい。
さて、続いて私たちの番だ。
「わ、私の名前はノノコ、剣士です! まだまだ新米で、皆さんにご迷惑をお掛けすることも多いかと思いますが、一生懸命頑張りますので、よろしくお願いしますっ!」
勢いよく直角にお辞儀をするのの子ちゃん。その健気すぎる姿に、四つ風のメンバーはなんだか新入社員を迎えた先輩たちのような、微笑ましくも少し困惑した表情を浮かべている。
ふふ、のの子ちゃんは可愛いわね。
さあ、続いては大先輩である私の、完璧なお手本のような自己紹介を見せてあげるわ。
「私はハノン、侍女よ。アタッカー兼料理を担当するわ。よろしく」
一同が顔を見合わせ、困惑から不安そうな表情に変わる。私の完璧な自己紹介だったはずなのに解せぬ。
「あー、すまん、多分みんなは侍女がなんでアタッカーを自称してるか分からないんだろうよ。昨日の戦いを見た俺からすればすんなり納得できるんだけどさ」
「た、確かにそうね。説明が足りなかったわ」
私は腰のポーチから銀色に磨かれたナイフとフォークを一本ずつ取り出した。
「主武器はこれよ」
「…………」
「覇音ちゃん、そのナイフ……本当に食器だったんだね……」
最初に沈黙を破ったのはのの子ちゃんだった。
「ええ、そうよ。ちゃんと使ったら洗ってるからいつも綺麗よ、安心してね」
「そういう問題じゃないと思うんだけど……」
ラッツェが引き気味に呟く。
「衛生面の話だけじゃないわよ!? どういう耐久してんのよ!」
ファラリスも突っ込んだ。
「ガハハハハ! 食器で戦う侍女だと!? 面白い、俺はそういう尖った奴、嫌いじゃねぇぞ!」
対照的に、ガードンだけはガハハと豪快に大声で笑って私の武器を歓迎してくれたのだった。




