表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/35

17話 マジックバッグ

 そう、全ては話すつもりはない。

 過去に厨二病全開で暴れまくった恥ずかしい黒歴史は絶対に話せない。

 のの子ちゃんに私が厨二病を拗らせてたなんて知られたら悶え死ぬわね。


「えーっと……つまり、覇音ちゃんは前にこの世界に来た事があって、その時に色々覚えたって事?」

「そうね、大体そんな感じよ」

「そうだったんだぁ……」

 

 のの子ちゃんは納得したように頷いた。

「ふふ、わたしは話してくれて嬉しいよ、覇音ちゃん」


 そう言ってにへらっと笑う。

 あらやだ可愛い。危うく抱き締めそうになったじゃない。


「さて、そろそろ話を戻すわね」


 咳払いを一つ。


「私はマジックバッグの作り方を知っているわ」

「本当かい!?」


 食い気味に身を乗り出すラーゼト。


 さっきまでの疲れた様子はどこへやら。

 完全に目がキマッている。


「ええ」

「教えてくれるのかい!?」

「ふふ、それは条件次第よ」


 ぴたりと動きが止まる。

 ラーゼトがごくりと唾を飲み込んだ。

 グレーシアも静かにこちらを見ている。


「まず確認だけど、今のマジックバッグってそんなに貴重なの?」

「貴重なんてもんじゃないよ」

 即答だった。


「さっきも言ったけど、上位の冒険者パーティや一部の貴族しか持ってない。売りに出されれば争奪戦だ」


「そう……あまり残らなかったのね」

 みんなせっせと作ってたと思ってたんだけど、何か残らない理由でもあったのかしら。

 まぁ、考えても仕方ないわ。


「そうね、それなら製法を売るつもりはないわ」

「……え?」

 私の否にラーゼトが固まる。


「えっ? 売らない? ほんとに?」


「ええ。もともと売るつもりはないの。そもそも人の生活を便利にするために作ったものだもの」


 正確には私一人じゃない。旧友と一緒に作ったものだ。

 それを私欲の為に利用する気はないの。

 

「誰かに独占させるつもりはないわ」


 グレーシアの目が少し細くなる。

 この人、勘がいいわね。


「では公開すると?」

「ええ、ギルド主導で公開して貰いたいの」


 当然のように答える。


「そうね、準備期間はあげるわ。その間に多少なりとも職人を囲ったり、素材を買い集めてもいいわ。それでも時間が経てば個人制作者も現れるだろうし」


 ラーゼトが頭を抱えた。


「普通そこはがっつり独占して儲ける流れじゃないかなぁ!?」

「嫌よ」

「なんで!」


 必死な声が返ってくる。

 のの子ちゃんがくすくす笑っていた。


「友達と約束したの。みんなの暮らしを良くしたいって。それに、私はここに長居するつもりもないしね」


 肩を竦める。


「そうね、一つお願い。ここにいる間だけでいいから、少し便宜を図って欲しいの」

「たとえば?」

「そうね、今日の宿と晩御飯は是非ともお願いしたいわ。あとは……そうね、困った時の相談とか」


「そんなので良いのかい?」

「ええ」

 むしろそれ以上は要らない。

 説明が面倒だから出していないだけで金なら持っている。


「……君、無欲は時として身を滅ぼすよ?」

「その時はギルドが返り討ちにしてもらうから大丈夫よ」


 ラーゼトが深々とため息を吐いた。

 しばらく考え込んだあと、ちらりとグレーシアを見る。


「なら一つ、僕からのお願いを聞いてもらいたい」

「内容次第ね」

「グレーシアを連れて行ってもらえないかな?」

「……あら?」

 いきなり指名され、珍しくアンニュイな表情が崩れる。


「私、追い出されちゃうのかしら?」

「違う違う! そうじゃなくて」

 ラーゼトが慌てて手を振る。


「グレーシアだからお願いしたいんだよ」

「そうなの?」

「王都周辺にも詳しいし、腕も立つ。何より面倒見がいいからね」


「あらぁ、うたた寝してたのもバレちゃってたのねぇ……」

 グレーシアが頬に手を当て悩む。

 

「そうねぇ……最近は受付と書類ばっかりだったものね。たまには外の空気を吸うのも悪くないかも」

「おっ、行ってくれるかい?」

「いいわよ、任されたわ」

 その返事に、ラーゼトがぱっと顔を明るくした。

 

「助かるよ」

「あら、そんなに嬉しそうな顔しちゃって。もしかして私、結構頼りにされてる?」

「今さら気付いたのかい?」

「うふふ、頼られるのも好きよ」

 

 グレーシアは楽しそうに笑う。

 昼間の気だるげな受付嬢とは少し印象が違うわね。

 

「えっと……グレーシアさんも冒険者だったんですか?」

 のの子ちゃんがおずおずと尋ねた。

 

「昔ねぇ。今はただの受付嬢よぉ」

「元Aランクだけどね」

 ラーゼトがさらりと言った。

 

「えっ!?」

 のの子ちゃんが目を丸くする。

 

「あら、余計な事を言うのねぇ」

「事実だろう?」

「昔の話よ」


 なるほど。だからあの観察眼だったのね。

 私のポーチに気付いたのも偶然じゃなさそうだわ。

 

「それじゃあ決まりねぇ」

 グレーシアはゆっくり立ち上がる。

 

「私も久しぶりに頑張っちゃおうかしら」

 そう言って微笑む姿は、どこか楽しそうだった。

 

「それじゃあ、改めてよろしくお願いするわ」

 そう言ってグレーシアは優雅に一礼した。

 

「よろしくお願いします!」

 のの子ちゃんも慌てて頭を下げる。

 こうして私たちの旅に、新たな同行者が加わる事になった。


 話は脱線しながらも、マジックバッグの技術公開に向けて動き出すことが決まった。

 私は製法を書き起こし、実際に使える素材を探す。ギルドは加工に必要な技能者を集める。

 

 明日からの予定も決まり、気付けば時間はすっかり遅くなっていたので今日はここまで。

 討伐報酬も受け取り、さらにギルドの一室を貸してもらえることになった。おかげで宿代が浮いたのはありがたい。

 二人を晩ご飯に誘ったのだけれど、ラーゼトはまだまだ仕事が残っているらしく辞退。

 結局、のの子ちゃんとグレーシア、そして私の三人で食べに行くことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ