16話 二度目の呼び出し ★
半日も経たずに本日二度目の呼び出しである。
のの子ちゃんは何が原因で呼び出されたのか分からず、あたふたしながら一緒に歩いている。
もちろん原因は私。
今のマジックバッグ事情を知らず、余計な一言を口にしてしまったのが失敗だったわ……。
まさかマジックバッグが作れなくなっていたなんて知らないもの。
まぁ、そんな事言っていてもしょうがない。
この件の落としどころ、どうしようかしら。
隠し通した時のメリットは……無いわね。
ただ疑惑だけが残って、味方にはならず、潜在的な敵対勢力になる可能性がある。いたずらに敵を増やしても良い事はないわね。
部分的に話して味方に引き込むか。
上手く利害が一致する関係に持ち込めば、向こうも簡単には私たちを切れなくなるはず。それに、何かあった時の後ろ盾としても悪くないわね。
あとは、現物を売って資金調達したら逃げるか。まぁ、これは無しね。冒険者ギルドから追放なんてされたらめんどくさいし。
色々考えた所で、向こうのご要望次第か……。
今回はギルドマスターであるラーゼトの執務室に通された。喜ぶべきかはともかく、早くも呼び出し部屋のランクアップを果たしたわね。
それだけ重要案件だと認識されている証拠でもあり、こちらの要望が通しやすくなった可能性が高い。
私が呼ばれたようなものなので、後ろには立つのはやめた。のの子ちゃんと隣同士、座り心地の良いふかふかソファに座って大人しく待っている。
さほど待たされる事なくラーゼトが来た。昼よりもさらにくたびれた雰囲気をまといながらも足取りだけはしっかりしていた。
「やぁ、何度も待たせてごめんねぇ。それじゃあ、グレーシア、改めて呼ばれた理由を聞かせてくれる?」
アンニュイさんの名前はグレーシアさんと言うらしい。
「私の直感のみの為、確証はありません……が、今この場にいるお二人がマジックバッグの製法を知っている可能性が高いと判断し、独断で連れてきました」
「……それは……うーん、本当だとしたら大事なんだけど……そんな都合よく知ってるわけないんじゃないかな。もう分からなくなって二百年以上経つんだよ? 君たちも知らないよね?」
悩みながらも探るような視線で私たちに問いかける。
「ごめんなさい、わたしマジックバッグが何かすら知りません……」
律儀にも知らないと言い、期待に応えられない事にうな垂れるのの子ちゃん。
「覇音ちゃんは……もしかして知ってるの?」
ここまで連れてこられた以上、知らないって言ったところで、余計に疑われるだけの悪手でしかない。
それに、のの子ちゃんに嘘はつきたく無いし……だからといって正直に全部答えるのも危険な気がするし――。
頭の中で回答プランを次々と組み立てる。けれど、そのどれもこれもが即座に却下されていく。
一瞬の思考の結果――綺麗な白紙だけが残っていた。
……どうしよ?
「……え?」
ラーゼトが固まった。
グレーシアも静かにこちらを見ている。
待って。
三者三様な目で見つめないで。
のの子ちゃんは何も答えられない私に、なにか不味かったのかと不安そうな顔に変わる。
そんな顔しないでいいのよ。
のの子ちゃんは何も悪くないの。
きっとただ純粋な気持ちで聞いてみただけのはず。
でも今は、その純粋さが私を窮地に追い込んでいる事は内緒。
「えっと……覇音ちゃん?」
困り眉を作りながら首を傾げるのの子ちゃん。なまら可愛い。
そうね……いつかはのの子ちゃんにだって全部バレるかもしれないし、少しは秘密を知る仲間ってのを何人か作っておく方がいいのかもしれないわね。
それならまずは――
「のの子ちゃんに黙ってた事があるの」
私がそう言うと、のの子ちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「私に……?」
「ええ。私ね、実は前にも一度、この世界に来た事があるの。何年かってのは分からないんだけど、かなり昔みたい」
「前にも……来てたの?」
あまり理解していない様子で、私の顔をじっと見つめてくる。その視線を受け止めながら、私は言葉を続けた。
「そうなの。今までずっと内緒にしてたんだけどね、少しは戦えるし、魔法だって使えるわ。それに便利なポーチも作れるの」
私の腰に付けられた愛用のポーチを軽く叩く。いや、これは普通のポーチだけど。今度マジックバッグに加工した方が良いわね。
「じゃあ……覇音ちゃんって、本当はもっと凄い人なの……?」
「そんな大したものじゃないわよ。ただ、魔法のことをみんなより少し知っていただけ」
私が答えると、のの子ちゃんはそれ以上言葉を続けず、少し困ったような顔で私を見つめてくる。
「でも……内緒にしてたのに、どうして今教えてくれたの?」
「そうね……今は話すタイミングが無かったのもあるけれど、召喚されたばかりの時は、誰を信用していいのか、本当に分からなかったのよ。王様なんか特に胡散臭くてすぐに隠しちゃったの」
「そうだったんだね……あの、私のことも信用できなかった……?」
上目遣いで、泣きそうな顔で見つめられる。
「そんなことないわ」
私はのの子ちゃんの真っ直ぐな瞳を正面から見据えた。
「タイミングが無かっただけ。今はちゃんと話そうと思ったの」
のの子ちゃんがはにかむように笑ってくれた。
「……うんっ! 話してくれてありがとう!」
そう、全ては話せない。
過去に厨二病全開で暴れまくった恥ずかしい黒歴史は絶対に話せない。




