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15話 ただのポーチ?

 トラウマに打ち勝ち、もはや別人と言っても良いぐらいの急成長だった。

 最初こそ恐怖で緊張していたのの子ちゃんだったけど、一匹、二匹とホーンラビットを倒してしまえば、元々お城で受けていた訓練の成果だろう、みるみるうちに余裕が出てきたらしい。

 その後も怪我一つなく、順調に討伐数を重ねていく。


「――そこだ、ノノコ! 構えが高い、踏み込みが甘いぞ!」

「はいっ……!」

 少し離れた場所から、ランレイがまるで教官かのように腕を組んで指示を飛ばす。

 のの子ちゃんは素直にその指示に従い、真っ向から突撃してくるホーンラビットへ向けて、流れるような動作でロングソードを振るった。

 まだ少し危なっかしさは残るけど、魔物の速度に視線が確実に反応しているわね。

 銀光が閃き、ホーンラビットが綺麗に地面へ転がる。

 

「やったぁ……!」

 一匹倒す度にびょんびょん跳ねながら喜んでいる。

 

「ナイスよ」

 すると、のの子ちゃんが嬉しそうに笑った。


「ノノコ、なんか吹っ切れたみたいだな」

 ランレイが感心したように言う。

「うん……もう大丈夫!」

「動きもずっと良くなったし、一撃で仕留められるようになったしな」

 そう言われて照れ臭そうに笑うのの子ちゃん。


 気付けば太陽は少し傾き始めていた。

 そろそろ戻って換金しないと。

 宿屋だってまだ決まってないからあまり時間に余裕がないわね。

 

 今日の戦果は――

 ホーンラビット六匹。

 途中で遭遇した、毒を持たないけれどやたら太くて長いブルースネーク二匹。

 さらには、ホーンラビットより二回りほど大きいファットボアも一頭。

 ランレイにコツを教えて貰い、急所に一撃を入れ、簡単に倒す事が出来た。

 

 それらの討伐部位と本体はすべて私のポーチに入れるフリをして、アイテムボックスへ収納済み。


 ……そう、私のこれはスキルであり、この世界で「マジックバッグ」と呼ばれている魔法具ではない。

 三百年前の時も、マジックバッグは沢山あっても、時間経過がなく、容量も魔力に依存して広がるアイテムボックスを持っている人は一人も居なかった。

 さすがは女神の特典スキルって事かしら。

 

 だからこそ、人前ではあくまで「ちょっと容量の大きいマジックバッグ」のフリをするようにしている。


「さて、そろそろ帰りましょうか」

「そうだな、これなら明日はもう一つ二つ上の狩場でも良いかもな」

「はい! ちょっとずつ慣れてきました。また明日もお願いします!」



 

 ランレイとは王都の門の前で「また明日」と手を振って別れた。そして、歩いてすぐの場所にあるギルドへ、のの子ちゃんと二人で戻ってくる。


 ギルドに入ると、昼間とは違い人が多く、受付に並ぶ人たちも何組かいる。ワイルドな男の人や実際にワイルドな獣人なんかも多くいて、中々にカオスだった。

 私たちは何となく面識のあるアンニュイな受付嬢がいる所に行き精算をお願いした。


「おかえりなさぁい。意外と早かったわねぇ」

 今も昼の時と変わらず、カウンターに寄りかかるように姿勢を崩して接客をしていた。

 

「ええ。今日は様子見ですので。討伐の確認をお願いしますね」

 そう言いながら討伐部位を腰のポーチから取り出す振りをして机の上へ並べていく。


 一つ、二つ、三つ……。

 まだまだ出しつづけ、全部で九体分を出し終えた。

 

「あら、あなたのそれ、マジックバッグなのね、羨ましいわぁ。どれぐらい入るのかしら?」

「ふふ、秘密です。マジックバッグ持ってる人少ないんですか?」

 

「覇音ちゃんのそのポーチ凄いんだね!」

 私が趣味で裁縫した()()()()()()を凄いキラキラした目で褒めてくれる。

 ふふ、手作りを褒められるってつい嬉しくなっちゃうわね。

「ええ、可愛いでしょ! 今度のの子ちゃん用に、もっと可愛くてたくさん入るやつを用意しましょうね」

 つい歳を重ねると、可愛い子には何でも貢ぎたくなっちゃうわ。この純粋に喜んでくれる仕草が、私のささくれ立った心を癒してくれるのよ。


 けれど、私のその言葉を聞いた瞬間、受付嬢の目がうっすらと細められた。

「そうねぇ、ここで活動している人では上位ランクのパーティが持ってるだけかしら。ちょっとやそっとじゃ買えないぐらい高いものねぇ」

「……意外と出回ってないんですね」

「もう新しいマジックバッグが見つかることも無いでしょうし、売りに出されることがあれば、争奪戦に変わりないわね」

「新しく作ったりはしないんですか?」

 昔は色んな工房で、職人たちがせっせと作ってたのに。あれ、材料も比較的獲りやすくて良いお小遣い稼ぎになったんだけどな、と私が内心で首を傾げていると。

 

「あなたねぇ……製法技術はもうとっくに途絶えたわ。ギルドとしても、作れるものなら作りたいものよ」

 

 あれ?

 もう作れない?

 まさかのロストテクノロジー?

 そうか、昔と違って作りたくても作れないのか……。

 ここでドヤ顔しながら製法を教えようものなら、今後に影響がありそうだし……ひとまずしらばっくれるのが良さそうね。

 

「な、ならこのポーチも大切にしないとですね」

 わざとらしくお気楽な声を上げてみせる。

 

「……はぁ。では、先ほど言っていた『もっと可愛くてたくさん入るやつを用意する』方法に大変興味があるので、場所を変えましょうか」

 小さくため息を吐いたアンニュイ嬢は姿勢を正し、キリッとした佇まいに。両手は前で重ね、()()()()()姿勢で否やも言えぬ雰囲気を漂わせている。


「えーっと、ただのポーチの作り方です……よ?」

「ええ、ただのポーチ(マジックバッグ)のお話をじっくりとしましょうか」


 

 ……まずったかしら。

 

 うん、まずった気がするわね。

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