Rati 62. 二重苦の中の活路
俺達は負けた。
カゲミツへと別れを告げるユリネさんと、味方だと思っていたはずの父さん。
二人の背中を見送る事しかできなかった。
胸の奥が、痛い。
父さんと会えて嬉しかったはずの気持ちと、父さんの裏切りのせいでユリネさんを取り戻せなかった悲しみが混ざり合って泥水の様に濁っていく。
もし、俺が判断を間違えなければ、あの時、全てを取り戻せたんだろうか?
濁った泥水は、どうにもならない無力感となって胸の中に広がり続けていく。
――――――
Rati 62. 二重苦の中の活路
――――――
「二日間寝たきりだな。 いつまでそうしている」
「ハク。 もうユリネさんは取り戻せないんだ……父さんだって……」
俺の事を心配してくれたのか。
けれど、俺達の目標だった父さんとユリネさんは取り戻すどころか、自ら進んで向こう側に行ったんだ。
「俺に、どーしろってんだよ」
「カゲミツはまだ諦めていない。 お前は、あの子を一人にするのか?」
カゲミツは、ユリネさんを取り戻せると信じ修行を続けているという。
儀式の痕跡が見つかり、ユリネさんが消えてしまったと確定するまで絶対に諦めないつもりだそうだ。
「それは……でも、父さんが……」
父さん……ずっと信じていたのに。
また笑って話せるって思っていたのに、父さんはG(Golden).D(Dawn).だったんだ。
「ともかく、少し外に出て気分転換した方が良い。 ついてこい」
「けど、俺はカゲミツの足手まといだ……」
そうだ。
俺が足手まといなせいで、カゲミツは……。
「つべこべ言うな。 行くぞ」
ハクについていくと、道場でカゲミツとじーちゃんが組手をしていた。
カゲミツ……ユリネさんが去っていく日のように声を荒げる姿からかけ離れ、いつものように澄ました顔で鍛錬を積んでいる。
その表情からは必ずユリネさんを取り戻すという強い意志を感じる。
本当に諦めてないんだ。
「カゲミツくん、休憩にしよう。 寝坊助が起きたようじゃ」
「ヤマト……もう疲れは取れたかい?」
……。
何やってんだよ、俺は。
「……」
互いに無言のまま俺はカゲミツに連れられて、二人で水道の前にある石のベンチに座り込んだ。
冷えた石の温度が尻に伝わって、それが自分の不甲斐なさを掻き立てていくようだ。
「ヤマト。 この前はありがとう、一緒に戦ってくれて」
「え?」
……。
「いつもの僕だったら、きっと……姉さんを失ってしまったと思い込んで、また立てなかった。 ヤマトがいつも隣にいてくれたから、希望がある事を教えてくれたから……僕はまだ諦めないで立つことができたんだ」
「そんな、俺なんて……強くなったと思い込んで、お前の足手まといで……」
「ヤマトは、ちゃんと強くなってるさ。 あの日、お父さんもそう言っていたじゃないか」
「父さん……父さんは、裏切って……」
そうだ。
俺が強くなったと認めてくれた父さんは……裏切ったんだ。
成長したと認めてくれた事は、いつもだったら嬉しかった。
けどやっぱり、素直に喜ぶことなんてできねーよ……。
「ヤマト。 僕とギクシャクしていた頃を憶えてる?」
「あぁ、エキシビションマッチで……なんか、懐かしいや」
今は当たり前に隣にいるカゲミツだけど、Lupinusとのエキシビションでギクシャクしていたんだっけ。
思い返せばあれは、生贄の儀式の可能性があるから俺を止めようとしてくれたんだよな。
あの日、父さんはミスターTとして解説席にいて……俺を、Lupinusと共に生贄にするつもりだったのか?
「その後、仲直りのキッカケをくれたのは、お父さんの手紙のおかげだって言っていたよね」
「……」
父さんの手紙……。
あの時の俺はカゲミツを憎たらしいとしか思えなかった。
だけど、父さんの手紙が考え直させてくれたんだ。
そのおかげで俺はカゲミツと仲直りして、今もこうして友達で、ライバルでいられる……。
「その手紙を思い出してみて。 僕は君のお父さんが本当にあっち側に行ってしまったなんて思えないんだ……」
あの頃貰った父さんの手紙には……たしか俺には思いもよらない事情をカゲミツが抱えているかもって、人生には目的が違えばすれ違う事があるって教えてくれて……。
……!!
「まさか!!」
「うん。 君のお父さんはおそらく、裏切ってなんかいないよ」
俺達の知らない事情を抱えて……一人で戦っていたってのか?
あの日、俺達と戦う事が父さんにとって、最善だったとしたら……。
本当に裏切っていたとしたら、別れ際に【また会える日を楽しみにしてる】なんて言わないはずだ……。
カゲミツもずっと一人で戦ってきて、諦めずに鍛錬してるってのに……。
ユリネさんを取り戻す好機を逃して悲しいはずなのに……。
それなのに俺は、あの時と同じ過ちを……。
ったくよ。
何やってんだ俺は。
いつもより気合を込めて、自分の頬を叩けば威勢の良い音が響き渡った。
胸の奥底に溜まっていた嫌な気持ちが、少しは晴れた気分だ。
「……わりぃ、カゲミツ。 俺、どうかしてた」
カゲミツを一人で戦わせないってサクヤと誓ったのに。
このままじゃ、また一人にしていた。
これからは、例え何があっても……俺が一緒に戦う。
「いつもの調子に戻ったようだね。 また、一緒に戦ってくれるかい?」
「あぁ。 天村 大和。 今日から復活だぜ!!」
頭から水道の水を被りさっぱりしたところで、ハクが何らかの手紙を咥えていた。
「気を取り直したところで、二人への手紙を預かっておる」
「それって……!」
まさか、父さんとハクが接触した時に……!?
「あの時、テルヒコから預かったものじゃ」




