Rati 56. 仲直りのための全力ダッシュ
「ヤマト、久しぶりだな!」
会えるはずのなかった父親の姿。
自分と向かい合って笑顔を向けていた父さんの姿が、大和の瞳へと映っていた。
「父さん……! なんで!?」
――――――
Rati 56. 仲直りのための全力ダッシュ
――――――
「報告通り会えないはずだったんだが、予定がまた急変したんだ。 だからサプライズでもと思ってな」
急変、サプライズ。
幼き大和にとって言葉の意味はよく分からなかった。
だけど、予定が元に戻って会えるようになった。
そして、自分へと会うために戻ってきてくれた事は理解できた。
「聞いてよ! 新しい友達ができたんだ!」
最近ようやく祖父の許可が出て近所を一人で出歩けるようになったこと。
咲夜がよく一人でウチに来るようになった事。
まだ道着の帯が結べない事。
新しい友達ができた事。
大和は父親へと最後に会ってから経験した事、嬉しかったことなど様々な話をしていく。
夕食を終えて、久々に共に風呂に入り、親子の絆を深めていく。
そして、二人が風呂で火照った体を風で冷やすために縁側へと座り込めば、夕焼けは既に夜闇に染まる一歩手前となっていた。
「ヤマト。 まだ何か言いたいことがあるんじゃないか?」
「え? なんで分かったの?」
「父さんはヒーローだからな。 正義の味方は人の心に寄り添う事ができるんだ」
「すげーー! 俺もいつかそうなりてー!」
「さ、話してみろ」
父親に促されて、大和は再び口を開く。
最近仲良くなった友人、ウララへ酷い事を言ってしまった事。
本当はウララを傷つけたい訳じゃなかった事。
咲夜にも怒られてしまった事。
そして、寄り添ってくれる二人を遠ざけてしまった事。
「そうか……」
「おれ、仲直りしたいよ……どーすればいいんだ?」
「正直に言うとな……」
「……」
「父さんにも分からん!」
「ズコーーーー!」
大和はずっこけた。
風呂上がりの顔を砂まみれにしつつ、立ち上がると父親は優しくも真剣な表情で大和を見つめていた。
「けどな、一つ確かなことがある」
「確かな事……?」
「行動で示すしかないって事さ」
二人は自分を元氣づけようと行動で示してくれた。
ならばこちらも誠意をもってその行動に返す事。
自分から動いて、しっかりと謝罪し、誠意を大事にする事。
自分なりの答えを見つけて、相手に贈る事を大和へと伝えた。
「そうやってお互いに色んな事を乗り越えていけば、結ばれた絆は切っても切れないモノになっていくんだ」
「よく、分かんない……」
「まだ少し早かったか。 ともかく大事なのは、仲直りしたいという気持ち。 相手は行動を以てお前を心配してくれた。 ならこちらから行動して仲直りするんだ」
頭をうねり考え込む我が子の姿に心を痛める父親の姿があった。
我が子の未来を案じ目を閉じれば、夏の夜風と共にささやかな歌声が思い出の奥から耳へと響いていた。
「ヤマト。 今日はプレゼントがある」
「プレゼント!?」
「とても大事なものだ。 俺達に残された、母さんとの繋がりの一つ……」
父親から大和へと手渡されたのは1枚のカード。
ヤマトが赤子の時に亡くなってしまった母親が残した、狐のような姿をした生き物が描かれているように見える絵がぼやけたカードだった。
「これは、母さんの形見。 お守りだ」
「母さんの……。 いいの?」
自分より世界を飛び回っていた父親が持っていた方がいいんじゃないか?
そんな想いが言葉になった疑問だった。
しかし、父親の言葉は変わらず。
優しいモノだった。
「これから、それがきっとお前を守ってくれる。 大事にするんだぞ」
「分かった……! 大事にする!」
顔さえも記憶にない母親との繋がりに、大和の胸に心からの喜びが湧き出た瞬間。
ウララの悲しそうな表情が脳裏へと浮かんだ。
それは、咲夜の言葉の意味をなんとなく理解した瞬間だった。
(そうか……ウララにはこうやって父さんと過ごす時間さえないんだ……)
「……明日、おれの一番好きなお菓子をあげて、仲直りしよーと思う」
「いいんじゃないか? 仲直りできるか楽しみだな」
「楽しみだ!」
明日仲直りするのが楽しみだな。
そんなささやかな期待に大和が心を躍らせていると、一本の電話が家に鳴り響いた。
「照彦。 少しいいか?」
「義父さん。 どうかしましたか?」
再び父親と話していた大和は、電話を終えた祖父から話を中断させられて部屋に戻るように言われた。
二人はヤマトが部屋へ戻ったのを確認し、道場に向かっていた。
「こっそり聞いちゃお……」
大和はこっそりと部屋から抜け出して、二人の跡を付けた。
道場へ入っていく二人は電気を付け座り込んだ。
「孤児院から素質のある子を道場へ迎え入れた話は聞いておるな?」
「はい。 今後の儀式のために戦力を強化すると……確か、二人……ウララの孤児と聞いています」
「その二人が、稽古を終えてから戻ってないらしい」
(!?)
「県外でもこの手の報告が増えておる。 多発している誘拐事件かもしれん」
胸の中の五臓六腑が鷲摑みにされたかのような悪寒が大和の胸に広がっていく。
二人は続けて何かを話していたが、ショックを受けた大和の耳には続きの話の内容など届いていなかった。
(おれのせいか? おれがあの時、あんな事言って……だから……)
『うるせー! 父親がいなきゃ、おれの気持ちなんて分かんねーだろ!!!』
目を閉じた大和の脳裏に、さきほどの後悔が再び思い起こされた。
もう二度とウララと会えないかもしれない。
もう二度と仲直り出来ないかもしれない……。
(そんなのは嫌だ……!)
脳裏へと浮かぶ暗い未来を振り切り、大和は走り始めた。




