Rati 50. 千載一遇のチャンス
朝練で体を温めてほぐした後。
部活の一環として学園の裏山にある神社を目指す。
道中にある林の中には、ユリネさんが俺を招待してくれた旧校舎が見えた。
つい先日も、3人で調べたばかりの場所だ。
「あそこでは、カードギャングが集まってるかもって噂があんだよな。 お前らも気を付けろよ」
「へ、へ~」
旧校舎の前を通り過ぎて、レッドが呟いた。
俺達がそのカードギャングを探している事を悟られないように振舞い、山へと昇っていく。
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Rati 50. 千載一遇のチャンス
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山道に入ると、始めて朱鳥ノ宮に来た時にも感じた爽やかな空気が肺を満たしていくのを感じる。
それに、ささやかな鳥の鳴き声、心地の良い風。
これなら山登りも楽しめるってもんだ。
「それで、今日は何をするんだ?」
「朝に部長が説明したろ。 聞いてなかったのか?」
「そ、そうだっけ。 考え事してて上の空だったぜ」
モモちゃんは俺へと注意を促してきた。
タカヒコ部長には、俺とカゲミツが本当は小学6年生だって知られているからそれを考慮しての振る舞いかもしれない。
先輩としての威厳を一応示したモモちゃんは、今回の部活の目的を説明してくれるみたいだ。
「まぁ、初日から色々あったからな。 簡単に説明すんぜ」
この山には、女神さまが祀られているらしい。
そしてタカヒコ部長はこの山と女神様を守護する一族の家系の産まれ……。
「つまりは、俺たちは部長のお手伝いだ。 修験部の一環として女神様のいる神社を綺麗に。 そして挨拶をさせて頂こうってこった」
「そうだったのか……やっぱり部長はただものじゃないんですね!」
タカヒコ部長は立ち振る舞いからも、常人とは一味違うような仕草が見て取れる。
儀式に注力してるカゲミツとは違うような……。
言うなればじーちゃんみたいな、年季の入った達人というか。
日常の動作に自然への敬意や、戦いに身を置く人間の心構えというか……。
俺も最近気づいたんだけど、そういった特殊な世界に身を置く人間の動作や振る舞いが部長には身についているように見えるんだ。
「僕はただ、産まれに胡坐をかいただけの一族の端くれさ。 朱鳥ノ宮に入ったのだって、修験部を経て落ち着いた活動ができるからだしね。 レヴルナだってそんなに強くないんだよ」
こんな風にタカヒコ部長は流して言うけど、きっと陰で人々を守るための戦いを経験してるんだ。
俺はレヴルナの世界しか知らないけど、本当はじーちゃんやハジメさんのように、日常に紛れて怪異を解決したり、妖怪と戦ったり交渉したりする人間がいるって聞いた。
その話を聞いて一瞬だけ信じられなかったけど……あの現実離れしたレヴルナの儀式を思い返せば、あの時の俺の心もその話を信じるしかなかったんだ。
タカヒコ部長もきっと、そういった人間の一人なんだと思う。
ってカゲミツが言ってた。
なんだか、カッコイイぜ。
「さ、ついた」
賀夜奈流美命……?
「カヤナルミノミコト……古代日本にいた賢王の御子神。 この国の守護神の一柱で、そして今では朱鳥ノ宮も守ってくださっているんだ」
「どんな神様なんですか?」
「……古代賢王の血筋を守護する、霊魂を運びし神。 もしもこの世界が闇に飲まれた時、古代の英雄の血を引いた救世主を導いてくださる。 そう言われてるんだ」
……説明をしてくれたタカヒコ部長は無言で俺を見つめていた。
その瞳の奥には、先の見えない希望と絶望が入り混じっているように見えた。
「さぁ、皆。 挨拶しよう」
俺達は目を閉じて両の掌を合わせて、女神さまに挨拶を終えた。
すると、爽やかな風が頬を撫で、木々の揺らめきがささやかに響き渡っていく。
もしかして、神様が歓迎してくれてる……?
「君か、カゲミツくんか……。 髄継さんの下にいた君達の成長が楽しみだね」
こうして、俺たちは神社周辺の掃除やお祈り。
修行の一環としての瞑想を終えた。
心身ともに晴れやかになり、下山をして軽く鍛錬をし、その日の部活は終了。
これから……イシガミさんの情報収集だ。
ついでにヨシュアについても新しい手掛かりがあれば御の字って感じか。
「おい、お前たち。 面貸せよ」
俺達がそのまま情報収集のために別の部活動を見に行こうとしたとき、レッド達が声をかけてきた。
人目につかない場所に移動させられて、俺たちは3対3で向かい合う。
こうしてると対抗戦の日を思い出すぜ。
「単刀直入に言う。 お前ら……カードギャングの情報を探ってんだろ?」
「な、なんでそれをっ!?」
「丸聞こえなんだよ。 皆が寝静まった後に話してたからな」
俺とモモちゃんが深夜に話していたことはレッドには聞こえていたんだ。
……か、カゲミツの視線がいてぇ。
「安心しろ。 他の誰にも話してねぇし、俺達以外には知らねぇはずだ」
「それで、俺達に用ってなんなんだ?」
生唾を飲み込み、俺たちはレッドの言葉を待った。
「あぁ。 噂のカードギャングかもしれない男との密会の場を取り付けた」
「う、うそだろ!?」
「うそじゃねぇよ。 お前たちに復讐したいと嘘をついてなんとかな」
「行方も掴めなさそうでどうしようかと思ってたんだ。 助かるぜ……!」
これでカードギャングを捕まえれば、ユリネさんの行方が分かるかもしれない!
俺達の役割は情報収集だけど、何としてもこの好機を逃がしたくない。
カゲミツもそう言うはずだ。
「それで、条件は何だい?」
と思っていたら、カゲミツは俺が思っていたのと違う答えを口にした。
レッド達にも何か条件があるって事か。
やっぱりこういう場面でさえ、カゲミツは俺の何歩も先を行っているのを実感するな。
「やっぱりお前は、ただ者じゃねぇな。 ……俺達にも一枚噛ませろよ。 何が起きてるのか教えてくれ」
……。
「……いいよ」
「いいのかよ、カゲミツ」
「僕は……今まで姉さんを見つけるために、戦ってきたんだ。 今まで一切手掛かりも見つからず……これは千載一遇のチャンスなんだ」
そうだったな。
じーちゃんや組織の人にこっぴどく怒られるかもしれねー。
だけど、これを逃せば二度とユリネさんに会えないかもしれない。
答えは決まってるよな。
「んじゃ、一緒に怒られっか!」
「ありがとう……ヤマト……」
……ったく。
いつもこのくらい素直なら可愛いげがあるっつーのによ。
「やっぱヤマトじゃねぇか!!」
ツッコミの声が響き渡り、レッドにも俺達の事情を説明する事にした。




