Rati 48. 泣いてる場合じゃない
ユリネさんからの最後の別れの挨拶とも言えるような手紙を発見して、一晩が経った。
カゲミツの目元は泣き腫らした跡が残り、睡眠を取れていないのが一目でわかりまるで別人とも思えてしまうような表情だ。
「カゲミツ……へーきか?」
「正直、あんまり平気じゃないかも……」
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Rati 48. 泣いてる場合じゃない
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そりゃそうだ。
あれだけ探していた、生きているかもわからないユリネさんを探し続け……。
初めて確定的な手掛かりを得たと思ったら、それは別れの挨拶のようなモノだったんだ。
きっと今のカゲミツは……俺にも想像できないような心の痛みに耐えているんだ。
「とりあえず今は休めよ。 Renatusは俺達がなんとかすっから」
「いや、そういうワケにはいかないよ」
「なんだよ。 こんな時くらい素直に休めって」
「今、何もしていないと……姉さんの事ばかり考えてしまいそうで……」
そう言う事か。
だったら、俺はカゲミツの負担が少なくなるように動こう。
いつもは俺が足を引っ張る事が多いけど。
……こういう時くらい、俺がカゲミツを診ててやんねーとな。
「それに……僕はまだ希望を捨ててない。 姉さんは近いウチに僕らがここへ来ると分かっていたと思うんだ」
確かに、カゲミツの言う通りだ。
一連の流れを考えれば、俺がオープンキャンパスに来てから、ユリネさんはすぐにあのお茶会の部屋を片づけて手紙を書いたって事になる。
カゲミツが自分を探してここに来ること、俺が協力して一緒にいる事もユリネさんはお見通しだったんだ。
「でも、それがなんなんだ?」
「つまり、姉さんはRenatusが学園で何かしている事を知っていたかもしれないって事さ」
「そ、そうか! この事件を解決すればユリネさんに繋がる新たな手掛かりがあるかもって事だな!」
「うん……だから泣いてる場合じゃないのさ」
やっぱりカゲミツはすげぇ。
ずっと探していた姉貴に別れを告げられても、自分で、この目で真実を確かめようとしてるんだ。
この心の強さを俺も見習わないといけねーな。
「それじゃ、今日はあの手掛かりからか」
ユリネさんがカゲミツへと書いていた手紙。
それとは別にもう一枚。
俺達に向けたメッセージが、あの缶の中に入っていたんだ。
その内容は【イシガミとヨシュアに気を付けて】。
イシガミって人は不明だけど……ヨシュアさんは、俺がジュニア大会で戦った学園の首席。
今日はこの二人について調べる予定だ。
「でも、ホントにへーきか? 今日くらいは……」
俺が心配しすぎたのがおかしかったのかカゲミツは軽く笑った。
「へーきだよ。 ふふ、いつもは僕が心配するのにね」
「俺だってなぁ、人を心配する優しさくらいもってんだよ!」
「知ってるよ。 ありがとう」
ったく。
カゲミツが転校生として帰ってきてから、また打ち解け合って再び仲良くなったけど……。
一緒にいると相変わらず俺のペースはよく崩される。
幼い頃のカゲミツ……ウララともこんな感じだったっけな。
「んでさ、あの手紙に書かれてたなんとかかんとかってやつは、どーゆう意味なんだ?」
「最初にLilium meum carissimum. 最後にValete. だね。 あれはね……」
折りたたまれた手紙の表面に書かれていた【Lilium meum carissimum.】。
これは【私の愛しい百合の花】へ。
そして、締めくくりの挨拶のような言葉の【Valete.】。
あれは【元気でね。 さようなら。】といった意味の言葉らしい。
やっぱり、ユリネさんもカゲミツを大事に想ってるんだ。
何か事情があって、カゲミツに別れを告げなければならなかったのかな。
それを確かめるためにも、ぜってー見つけ出さないとな。
「モモちゃん、待たせてごめんね」
「兄貴! もう大丈夫なのか!?」
ユリネさんの真実を確かめるために泣いている場合じゃない。
それをモモちゃんへと伝えれば、続けて協力してくれると意気込んでくれた。
「それじゃ、今日は【イシガミとヨシュア】。 この二人について調べたいんだけど……」
「そうか。 それじゃ早速、名簿の件からいくぜ」
ヨシュアは学園主席のリングネーム。
という事はイシガミもリングネームの可能性も高い。
この事から、モモちゃんはリングネームの名簿検索をしてくれていた。
「ヨシュアはもちろん学園主席のリングネーム。 名簿にも載ってるし学園生なら全員知ってる名前だろうな。 学園最強の男だ。 噂では帰省の申請をしていたっていうから今は学園にはいねぇかもな」
ヨシュアさんは俺とジュニア大会で戦い、手加減していたとユリネさんが言っていた。
いつか、全力のヨシュアさんと戦ってみたいぜ。
「そして、イシガミ……この人は名簿には載ってるけど、所属する部活も戦績も、学年とクラスも不明だ。 謎に包まれているだけに怪しいな」
イシガミという人は名前以外の素性が知れない。
ユリネさんの忠告にもあったし、イシガミは怪しいな。
やっぱりRenatusなのか?
「そして最後。 【リリム】ってリングネームは前と同じで存在しなかった。 だけど……」
……。
「【ライラ】のリングネームを見つけたんだ。 確か、儀式のときにタケルが聞いた名前だったよな?」
そうだ。
港の倉庫でLupinusと戦った日。
俺やサクヤを気遣ってくれた女性……ライラと呼ばれていたあのお姉さんは、やっぱりユリネさんだったんだ。
「おそらく、ライラが姉さんなのは確定だろうね。 何が目的かは分からないけど、学園に潜入していたんだ」
ライラがユリネさんなら、百合の意味を模したリリムと名乗った事も。
俺達の事を知っていたことも納得がいく。
「それじゃ、ヨシュアさんが帰省しているのを確かめてから、イシガミっていう人の情報を探さないとね」
「あぁ、今日は聞き込みからだな!」
「二人とも、よろしく頼むよ」
カゲミツは俺達へと頭を下げた。
ったく、いつもは偉そうなのにらしくねーじゃねぇか。
「んなかしこまんなって。 な、モモちゃん」
「おうよ! カゲミツの兄貴、ぜってーRenatusの尻尾を掴んでやろうぜ」
「ありがとう……」
カゲミツはいつもの顔つきに戻ったな。
まだ心の中では不安があるかもしれないけど、やっと見つけたユリネさんと会うための手掛かりなんだ。
絶対にこの任務を成功させてやるぜ……!!
「よっしゃ、円陣でも組むか!?」
「いや、それはいいや」
あ、そうですか。




