Rati 33. 新境地の世界……!
もしお待ちしてくれていた方々がいましたら、本当にありがとうございます。
そして、遅くなってしまい申し訳ありません。
2巻に相当するDeck 02.の始まりです。
予定では、時間は不定期に1日5話分ほど【早朝、昼、夕方、深夜】のいずれかに分けて投稿予定です。
よろしくお願いします!
Rati 33. 新境地の世界……!
ビルの屋上で吹き渡る夜風が汗を冷やし、俺の髪をかき上げ任務の緊張を落ち着けてくれている。
頂上から見えるターゲットの店は、電気が消され月明り以外に照らすものは何もない。
しかし、その店の前にはカードギャング……Renatusの構成員であろう人間が見張りについているようだ。
「おそらく、中にも店の見張りがいるだろう。 用心しろ」
相棒のハクが店内の気配を感じたのか、気を引き締めるように促してくれる。
けど、俺たちなら大丈夫だ。
なんせジュニアチャンピオンと伝説の守り神様だからな。
「俺たちならへーきだって」
「言っておるだろう。 油断は禁物。 仮に儀式ともなれば足元を掬われ命を落とすぞ」
「わかってるよ」
こうしてしばらく待っていると、突入の知らせが無線を装着した鼓膜へと響いてきた。
『陽動の準備が完了した。 ヤマトは隙を見て潜入し、カードを奪還するんだ。 こちらの事は気にしなくていい』
「カゲミツ、了解……!」
これから潜入するのは賭けデュエルを流行らせ、Renatusとも繋がりのあるという闇の市場の一つ。
子供たちのカードを取り返して、持ち主の元へ返すんだ。
「ハク、行くぜ!」
「御意!」
一時的に大きくなったハクの背へと乗り、屋上から飛び降り店の裏側へと降り立つことができた。
陽動として店の前で門衛とソウルゲームを行うカゲミツを横目に……店内へと侵入成功だ。
中は、思ったより広いな。
周囲を物色するが、取られたと思しきカードは見当たらないな。
「ヤマト、地下への通路を発見した」
「サンキュー、ハク。 これか……!」
装置のレバーを起動させると、地下通路へ繋がる階段が現れた。
「……誰かいるぞ。 2人だ」
「2人……」
ハクの優秀な鼻先が、この先に存在する人の匂いを嗅ぎつけた。
複数人の見張りがいた場合は、俺は退散するように言われてる……けど……。
目を閉じれば、無邪気にレヴルナを楽しむ子供たちの顔が浮かび上がった。
答えは決まってる。
「俺は行くぜ」
「待て……」
「柚鬼……!」
芯の深い落ち着いた声に振り向けば、カゲミツの相棒である長身で筋肉質な青年の姿が視えた。
雄々しい一本角を額に持つ彼は、名を【柚鬼】という。
今までカゲミツが色々な場所に早く移動していたのも。
俺を壁へと押し込んで凄まじい怪力を持つと錯覚していたのも、ユズキがいたからなんだよな。
ハクやユズキ、彼らは普段、人の目では視ることのできない存在だったんだ。
だけど、あの時の儀式を通してから……俺はハクが神社の敷地外にいる時も、視認できるようになったし柚木の存在も視えるようになったんだっけ。
「我が主君からの命だ。 拙者が護衛につく、安心しろ」
「カゲミツはへーきなのか?」
「近くにはハジメ殿や彼の率いる小隊もいる。 心配はない」
子供たちの笑顔が溢れるカードショップ【楽市楽座】。
そこの店長である【享楽 一】さんは、特異な力を持ったカゲミツをバックアップするためのバディのような存在。
何も知らなかった以前の俺は、どんな関係なのかとは思っていたけど。
2人は同じ組織に属し、そんな繋がりがあったんだ。
「それに……我が主君はたとえ一人でも負けはせん」
「どうやら、カゲミツにはヤマトが何をするかお見通しであったようだな」
柚鬼とハクが言葉を繋げて、俺の視線と同じ方向を見据えた。
この地下へと続く暗がりに……普通の人間か、若しくは、あの時のような儀式が待っているのか?
俺も気を引き締めよう。
「拙者が前を行く、ハク殿は後方を頼む」
「あいわかった」
二人に守られる形で階段を下っていくと、そこにはそこそこな広さの地下空間があった。
そして視線の先には……倒れた人間と、面をしたもう一人の男が立っていた。
「……貴様、何者だ?」
「運が悪いなぁ、今日がちょうど君たちの作戦日和だったとはね」
ユズキの厳格な問いを川のせせらぎで流すように応え、面の男は肩をすくめている。
俺やカゲミツよりは明確に年上だけど、世間でいえばまだ子供の年齢だろう。
倒れてるショップの見張りであろう人間は大人だ……この人がやったんだろうか?
それに……この人、どこかで会ったか?
「あれ? ジュニアチャンピオンのヤマトじゃないか」
「俺を、知ってるのか!?」
やっぱり、会った事が……?
「レヴルナの世界に踏み込めば踏み込むほど君を知らない人はいないさ。 朱鳥ノ宮の高等部でも話題になってるよ」
「朱鳥ノ宮の、生徒……?」
「まぁ、どうでもいいけどさ。 まさか君までこっち側に来るとはね、あの人の見立て通りって事か」
……得体の知れないこの感じ。
それに、面をし飄々とした態度……。
まさか、公園で……俺達がカードギャングに挑もうとしていた時に出会った面の男なのか……?
カゲミツと彼がおかしなやり取りをしていたのは今でも覚えている。
あれはきっと、儀式をするかしないかの問答だったんだ。
カゲミツは俺達を巻き込まないように儀式から遠ざけていたんだ。
あの時、俺は負けた。
もしあれが儀式だったなら、俺は死んでいたんだ。
全く、カゲミツには感謝してもしきれないぜ。
「後の話はまたゆっくり聞かせてもらおう……!」
ユズキはそう言って、俺達が瞬きした瞬間。
彼の踏み込みは間合いを殺し、面の男へと刀を振り下ろしていた。
面の男の精神を斬り疲弊させ、捕らえようとしているんだ。
「うわっ、せっかちだなぁ」
「ムっ……!?」
薄いバリアが面の男の前に展開されて、ユズキの攻撃を防いだ……!
これが、結界術……!?
「何を驚いてるんだい、ヤマト。 まさか魔術を見るのは初めてかい?」
「……」
俺は面の男の返答に対し、生唾を飲み込むことしかできなかった。
「君が足を踏み入れたのはこういう世界さ。 今までのようにお遊びをしていた方がいいんじゃないか?」
「う、うるさい! 俺は……カゲミツを一人で戦わせないって決めたんだ!」
「やれやれ……」
面の男は俺達へと手の甲を向けた。
すると、何かが浮かび上がり輝き始め、辺りの暗がりを照らしていく。
その紋章は……!
「そうさ、僕も古代の一族の【適性者】。 はじめようか、ソウルゲームを」




