Rati 29. 絞られた一本道
「お前の負けだ」
俺は……諦めない!
「召喚【風魔ノ大妖狐】!」 パワー4000
「何が来ようと、俺の切り札は突破できねぇ。 だが悔やむ必要はねぇ、お前は俺が戦った子供の中じゃ一番強いだろうな」
俺は、まだまだ強くない。
カゲミツはこんなものじゃなかった……!
修行の成果をここで出すんだ。
カゲミツに追い付くんだ……!
「妖術・鬼火を発動! これでパワーは+1000される」
「鬼火の効果で供物からデッキに戻して再発動! 更に+1000」
「模造品の勾玉! これを装備してパワー+500」
俺のコンボを見たモナカの声が大広間に木霊していく。
「風魔ノ大妖狐を強化するヤマトのコンボだ! 低コストのスペルカードで一気に強化した……けど、相手の効果で吸収されちゃうよ!」
心配するなよ、モナカ。
大妖狐は地属性スペルを発動する度にパワー+2000。
そしてスペルカードの効果を総計し+2500。
「……これで合計パワーは12500だ」
「そんなものは究極の力に通用しない。 影に潜む支配者の効果。 再びパワーを5000奪い吸収する!」 パワー15000
妖狐のパワーが相手のパワーを下回り7500になった。
今だ……!
こちらが相手のパワーを上回る事で、相手が効果を使ったこの瞬間。
相手は2度目の効果の使用はできない。
それが勝機。
「俺は、手札からスペルカードを発動するぜ。 【神話大全形見矢倉】!」
今まで100%の力を使いこなせなかったこの一枚、今の俺なら扱える……!
「ヤマトの切り札の一枚。 神話大全形見矢倉だ……! 今まで戦闘で散っていった供物に在る神の装備品を、全て発動し装備させる超強力なカード!」
そう、これにより風魔ノ大妖狐はパワーを急上昇させることができる。
「俺は供物の【神器】を全て装備させる……!」
「妖狐のパワーが7500から……21000だとぉ!?」
出てるぜ、修行の成果……!
――――――
Rati 29. 絞られた一本道
――――――
「ゴクラクさま……俺の勝ちだ!」
決着のついた大広間には、応答がなく。
外の風の音だけが吹き渡り響いていた。
「あ、あの。 大丈夫ですか……?」
「サクヤ、離れてろ……!」
サクヤは、反応のないカードギャング……【Renatus】の一員を心配し近寄ろうとしたが、モモちゃんがそれを静止していた。
代わりに男に近づいたモモちゃんは肩を揺らし意識の有無を確認し続ける。
「ちょっと、勝負は終わったっすよ! どうしたんすか!?」
「……」
問いかけへの返事はなく、風に揺れる草木のように男は体を揺らされ続けてる。
どっか、体調でも悪いのか……?
「おにーさん。 勝負は終わりましたよ!」
「……倒れた」
俺が声をかけた直後、男は……目を閉じたまま倒れた。
とんでもないことをしでかした時のように、胸の鼓動の音が自分の耳の奥を叩く感覚がする。
「お、俺のせいか……? まさか、俺がバトルで勝ったから……?」
「バカ! 滅多なこと言うんじゃねぇ! きっと、体調がわりぃだけだ……!」
俺たちは動揺し思考が空回りしてしまう。
ど、どうしよう……。
「……っ!」
「良かった、目が覚めた……!」
「おめーら、無事か……!?」
男は目を開け目覚めた途端、俺たちの安否を尋ねてきた。
お、俺達より自分の心配をした方が良いんじゃ……。
「おにーさんこそ、へーきすか? 急に倒れちゃったけど……」
「あぁ……お前らはもう帰った方が良い。 二度とここには顔出すんじゃねえぞ」
「……なんかやばそうですね。 もう帰ります」
「早く帰れ」
……俺たちは廃墟マンションを後にして、暗くなっていく空のもと帰路についていた。
「結局よ、さっきのなんだったんだろうなぁ」
「あの人、片付けって言ってたよ。 あの魔法陣を片付けていたのかな?」
モモちゃんとモナカが話し合う中、俺はさっきのソウルゲームを思い返していた。
もし、俺が負けたら俺が倒れていたのか?
それともあの人が倒れたのは、たまたまなのか……?
「ヤマトは、大丈夫なの……?」
「え? 俺は全然へーきだよ! この通り!」
心配そうな表情を吹っ飛ばすようにサクヤへと応え、俺は自分の不安も振り払った。
前へと向き直ると、道は既に暗く、遠くが見渡せなくなっていた。
果てのない空の深い蒼が世界へと溶けていくさまが、まるで俺たちの未来への道を絞っていく景色のように思えてしまう。
けどそれも、おかしな状況に出くわしたから不安になってるだけだ。
そう。
きっと……気のせいだ。
しばらく歩き、俺たちは別れ道でそれぞれの帰路へと付いていく。
「ねぇ、話があるんだけど……」
「おう、上がってけよ。 今夜はじーちゃんはいねーみたいだな」
サクヤの家へと到着する前にウチの神社へと付いたので、とりあえず招き入れて冷たいお茶を淹れる事にする。
色々あって一息つきたいし、きっとサクヤも同じ気持ちだろう。
注がれるお茶を眺めているとおかしな違和感が胸の内に広がっていたことに気付いた。
おかしいな……何か忘れてるような……。
「あの……笑わないで聞いてくれる?」
「あぁ、今度こそ笑わないぜ」
前に一度サクヤの悩みを聞いてぶたれたからな。
もう、同じテツは踏まないぜ。
「今日さ、廃墟で探検してるときに……」
……。
「おかしな声、聞こえなかった……?」
「聞こえた!! サクヤも聞こえてたのか!?」
廃墟を探検してる途中に、時折、謎の声が俺に語り掛けてきたような気がしていた。
今まで生きてきてほんの微かに聞こえるその声は、気のせい……空耳かと思っていた。
だけど、今日ハッキリ聞こえたあれは、気のせいじゃなかったんだ……!
「やっぱり……! あれってなんなの?」
「俺も、分かんねぇ……」
その声の主もなんで聞こえたのかも、俺たちにはまるで見当がつかない。
「やっぱりあの廃墟って噂じゃなくて、ホントに何かおかしな事をしていたんじゃ……」
「確かに、言われてみれば俺もそう思う……」
またあの場に行けば、何かわかるのかな……?
でも、倒れたお兄さんがもう来ない方がいいって言っていたし……。
「それに、ウララくんのことなんだけど……」
「カゲミツがどうかしたのか?」
サクヤは話し始めた。
肝試しと言う名の探検会に、カゲミツは顔を出さなかった。
けど、廃墟マンションの事を伝えると、今からすぐに行くとメールが来ていて、サクヤはそれにさっき気付いたらしい。
「今はもう、私たちも帰ったって伝えたから、もう行ってないと思うけど……」
「カゲミツは何か知っていて、俺たちに隠しているってことか……?」
……カゲミツ、お前。
一体、何者なんだ?
あいつの顔が思い浮かんだあと、ソウルゲームを行い倒れ伏したお面をつけたお兄さんが脳裏をよぎった。
カゲミツ……俺達に、あの廃墟マンションで、何かするつもりだったのか……?
「やっぱり、この写真……」
サクヤは道場の集合写真をテーブルに出した。
それには、サクヤに俺とウララが3人で並び、しゃがみ込み映っている姿がある。
後ろにはウララの姉貴が俺達を抱きしめるように映っている。
「二人は……」
そして、俺とウララの手は神社に住み込んでいる一頭の狐に添えられている。
「そうだ、ハク! ハク!! いないのか!?」
呼びかけの声はハクに届かなかったのか、静寂に飲まれて消えてしまった。
俺はいつも神社に帰るとハクに出迎えてもらっている。
どんなに早い日も遅い日も、ハクは俺が鳥居をくぐればすぐに迎えに来てくれる。
なのに、今日はハクに出迎えて貰ってないんだ。
何か忘れてると思ったのはこの事だったのか。
「ねぇ……ハクって、誰なの……?」
「え……?」




