Rati 27.謎の声
「ねぇ、こんな噂知ってる?」
夏休みに入って一週間。
モナカ、モモちゃん、サクヤと共に鍛錬中の休憩をしていると神妙な面持ちでモナカが口を開いた。
「どんな噂?」
「最近……近くの廃墟マンションで出るって噂……」
――――――
Rati 27.謎の声
――――――
「出るって何が?」
「もちろん、幽霊~……」
モナカは急に変な顔をし出して、俺たちは思わず吹き出した。
「ははは! 変な顔!」
「怖い顔のつもりだったんだけど……」
「そんで、ホントに出るのかよ幽霊なんて」
俺の問いに対しモナカは、おどろおどろしい雰囲気を出しながら語っていく。
「噂の発端はこうさ」
「ある時、カードギャングがその廃墟に入っていったところを見た小学生がいたんだって」
「その子は取られたカードがそこに隠されているかもって考えたんだ……夜も近づき、夕日も黒に染まりかける頃……」
「友人と共にその子達は廃墟へと入っていった……そこで見つけた不自然に開きかけていた扉。 その奥に進んだ瞬間……」
……。
「うぁああああああああ!!! やめろ!!!」
「なんだよモモちゃん、いいところだったのに」
モモちゃんは片隅で縮こまり急に叫び出した。
「そ、そんなもん俺は信じねぇぞ!!!」
「ま、まだ何も出てきてないよ」
半分発狂してるモモちゃんに、モナカは少しばかり引いた反応をしていた。
そして手足をバタつかせていたモモちゃんを見たサクヤは、ニンマリしている。
「はは~ん。 さてはモモちゃん、怖い話が苦手なんだ~」
「ち、ちがわい! 科学的根拠がねえっつってんだ」
サクヤは後ろからモモちゃんを羽交い絞めにして、モナカへ呼びかけていく。
こういうとこあんだよな、サクヤは。
「続き気になるでしょ、ヤマトも手伝って」
まぁ、続きは俺も気になるな。
「しょうがねぇなぁ!」
「おい! お前ら、HANASE!」
「モナちゃん! 早く続き話しちゃって!」
流石に、モモちゃんは力が強いぜ。
俺とサクヤの二人がかりでも振り払われそうになる。
「盛り上がってるところ悪いけど、怖い事は何もなかったんだ」
「へっ、脅かせやがって……」
安堵のため息が年長者から聞こえるとともに、俺たちのテンションは華麗に急降下した。
そんな白ける気分を仕切り直すように、モナカは話を続けていく。
「それで、扉の奥の大広間には黒魔術で扱う魔法陣のようなものが書いてあったんだって」
「周囲を調べたけど、おかしなものもなくて、カードギャングの根城でも何でもない廃墟だったみたい」
「これが噂の発端。 けど、まだ続きがあって……」
……。
「あの辺には、お面で素顔を隠したおかしな人が出没しているらしいんだ」
「そして前に、空も暗くなるころに幽霊が入っていくのを見たって住人がいたらしくて」
「それはきっと見間違いで、そのおかしなお面の人が魔法陣を書いたんじゃないかって言われてるんだ」
最近おかしな人が出るから気を付けろって学校で先生も言ってたっけ。
この事だったのか。
それに、面の男……。
「つまり、面を付けたカードギャングがおかしな人の正体で、そいつらが廃墟でおかしなことをしてたってことか?」
「たぶん、そんなとこなんじゃないかなぁ」
期待して損したぜ。
でも、何をやっているのか気になるな。
「……ぷ、ふふ」
「サクヤ、どうした?」
「ははは! さっきのモモちゃんの必死な顔を思い出したらさ……。 あははは!」
「よ、ようし! この変な噂を確かめるために肝試しといこーぜ!」
かくして、誤魔化すように叫んだモモちゃんの一声で俺たちは後日に肝試しをすることになった。
そして当日。
今日は稽古も休みで夕方になった今、これから肝試しという流れだ。
夕暮れの中、皆で目的地の廃墟マンションへと歩いている途中。
サクヤは少し心配そうな表情をしていた。
「今は本当に大丈夫なんだよね?」
「うん、夏休みが始まる頃にはおかしな人達はもう全く見なくなったらしいよ。 それに呼応するように、カードギャングと遭遇したっていう話もないみたいだよ」
なら、心配はねぇって事か。
俺達の主な目的は、大広間に描かれていたという魔法陣を見る事だ。
肝試しはそのついでみたいなものだ。
「そういやカゲミツは?」
「一応誘ったんだけど、何か用事があるみたい」
「ふーん」
サクヤは少し残念そうな顔をしていて、俺も同じ気持ちだった。
たまに俺たちの鍛錬にレヴルナの講師として加わってるけど、プライベートで遊ぶことはほとんどない。
せっかく仲良くなれたのにな。
「ここか……!」
「とっても広いマンションだねぇ……」
広々とした外観に、草の茂った敷地内には小さい公園まである。
カードギャングが秘密のアジトに使ってるかもしれないなんて言われても納得だぜ。
「皆、俺についてこい。 モモミチ探検隊の出発だ」
幽霊が出ないと分かると途端に元気だな。
俺たちは電灯片手に先頭を歩くモモちゃんについていき、廃墟を探検していく。
「大広間ってのは遠いのか?」
「僕たちが入ったのは裏手だから、そこそこ距離があるかもね」
「ちょうどいい、隅々まで探検して幽霊はいないってのを証明してやるぜ!」
そして、俺たちは大広間への道を探しながら各通路を手当たり次第に探検していく。
「おい。 今……何かいなかったか?」
視界の端で何かを捉えたのか、モモちゃんは急に借りてきた猫のように背中を震わせた。
「皆何も見てないってよ、ビビリすぎて幻覚でも見たんじゃねーか?」
「べ、別にビビびってねーよ!」
「しょうがねーなー、俺が前を変わるよ」
「おう、頼むぜ。 別にビビッてねーけどな」
懐中電灯を受け取り、俺は前を進む。
しかし、本当に何もねーな。
「皆、見てくれ!」
しばらく歩くと、広い通路を発見しそれは大広間へと繋がっているように見えた。
数メートル先にある扉。
これが大広間に繋がる扉かな?
「さ、開けるぞ」
(大和……気を付けろ……!)
……。
「急に止まって、どうした。 ヤマト」
「今、誰か何か言った?」
「ヤマト、気を付けろよ。 何が出るか分かんねえぞ」
なんだ、モモちゃんか。
「じゃ、開けるぞ……」
……。
「……なんだ、これ」
扉を開いたその先の大広間には、地面や壁面にいくつかの魔法陣が描かれている。
そして、その魔法陣はところどころ消えかかっている。
掃除するために誰かが雑に擦ったかのような跡だ。
「これが、噂の魔法陣……?」
俺たちはその壁面や地面を調べようと、無意識的に足を動かしていた。
(皆をあまり離れさせるな)
今の声、誰だ……?
「皆、あまり離れたら危ないよ~」
モナカ……なのか?
思えば、さっきの声も今の声もモナカともモモちゃんとも違う声だった……。
「なんだぁ? このガキんちょ共はぁ」
声の方に視線を向けると、広間の2階からおもちゃの面を付けた男が俺たちの方を見下げていた。




