Rati 18. すれ違う魂
【勝者は……ヤマト選手だぁああ!!!!】
「やったぜええええええええええ!!!」
一人の少年が、大会の会場で歓喜に震え雄たけびを上げる。
その片隅で実況解説をしていた青年は、少年の対戦相手を自分の下に呼んでいた。
「君、なんで手加減したんだい? 手札のあれを発動すれば100%勝っていたといのに」
「貴方の見立て通りなら……今の内に甘い汁を吸わせてあげないと、かわいそうじゃないですか。 それに、僕は実験台はごめんですよ」
「君は、本当に良い性格をしているね。 慈悲深いといえばいいのか……」
「ともかく、貴方が感じるほどあの子は強くありませんでしたよ。 買い被りでしたね。 本当に注意すべきは、あの座席にいる……」
「ふむ……」
――――――
Rati 18. すれ違う魂
――――――
「さて、今回のジュニア大会の栄光を掴んだのは……大会出場最年少の内の一人。 ヤマト選手だ」
表彰台へと昇った俺に……あのLupinusさんがスピーチを送ってくれている。
まるで夢のようだ!
「数々の猛者との激闘を行い、皆を楽しませ、Lev・KarunaRatiの発展に貢献した事をここに表彰します」
「ヤマト選手。 優勝おめでとう」
……!
「ありがとうございます!!」
これが、俺の初めてのトロフィー!
「うおおおおおお!! やったぜ、皆!!!」
……。
「やったぜぇ……」
(起きろ……! ヤマト……!)
「コラーー! ヤマト! 今日は大事な日でしょ!!」
おわっ!
「なんだよ、サクヤ。 ウチにきたのか」
「もー。 念の為にウチに起こしに来てくれって言ったのはヤマトでしょ!」
そ、そうか。
俺が昨日サクヤに頼んだんだっけ。
「そ、そういえばそうだったな。 ハクもおはよ」
「コーン」
「……」
急いで準備しねーと……!
昨日。
俺は、レヴルナのジュニア大会で優勝した。
一晩ぐっすり寝たけど、昨日の興奮はまだ俺の胸の中を刺激している。
目を閉じれば、すぐにあの会場の熱気と心臓の鼓動が思い浮かんでくるんだ。
「サクヤちゃん。 わざわざヤマトの面倒を見に来てくれてすまないのう」
「任せてください、おじーさん! ヤマトはしっかり私が見ておきますから」
ったくなんだよ、人を問題児みたいに。
俺だってやる事はちゃんとやってんだからな。
宿題とか……サクヤに見せてもらってだけど。
「さ、行くぞ! 今日はエキシビションマッチだ!」
今日は、夢にまで見たLupinusさんとの対戦の日。
そのエキシビションは朝一番に行われる。
その後は、レヴルナの講習会や、フリーデュエルもあり大会も含めて街の一大イベントとなっている。
エキシビションに関しては、先行販売カードパックなどの宣伝も兼ねているらしい。
そして、文化体育館に向かう途中、憎たらしい澄まし顔が見えた。
「あ、ウララくん、こっちこっち!」
「やぁ、おはよう」
サクヤの呼びかけに応えたカゲミツは、こっちに来てしまった。
「おう、おはよう。 っておい! なんでわざわざカゲミツを呼ぶんだよ!」
「いいじゃない。 私が誘ったの!」
「なんだよ。 まさか、サクヤ。 カゲミツが好きなのか!?」
「「はぁ?」」
なんでハモるんだよ。
まるで、俺に息があっている事を見せつけてるんじゃぁないだろうな。
「なんでそうなるのさ。 僕は君の負けっぷりを眺めに来たんだ」
「な、なんだとぉ!?」
「君は、本当に全国プレイヤーのLupinusに勝利するつもりかい……?」
「や、やってみなきゃ、わからないだろ!」
「確かにね。 でも、今の君はやる前から気迫負けしているよ。 棄権した方がいんじゃないかい?」
カゲミツの言う通りだ。
俺は、また……心の底で勝てるわけないって感情が重たい碇みたいに引っかかってそれに意識を引っ張られている。
まるで、あの日カゲミツに惨敗した時みたいに。
「もう、喧嘩はいいから。 二人とも、今日は仲良くしよ!」
「しゃあねーな」「君が言うなら」
会場に着いた。
辺りを見回せば見知った顔が観客席でレヴルナを遊んでいた。
「ヤマト! 良い席とっといたよ」
「へへ、あのLupinusさんにどこまで食らいつけるか。 ここで見届けてやるぜ」
「二人とも、応援よろしくな!」
……よし、俺は選手控室に行くか。
「あれ? ウララくんは?」
「さっきまで、隣にいたのにね。 トイレかな?」
――――――
やってやる……!
あの日はカゲミツに惨敗したけど、大会で優勝したんだ。
Lupinusさんだって、俺を強いって認めてくれていた。
俺は、強い。
俺は、強い。
俺は、強い。
何度も念じて心の底に在る自分は弱かったという疑念を振り払おう。
そうすれば、弱気な自分を追い出せるはずだ。
俺は……強い……!
「今回のエキシビション、やめておいた方が良い」
「な……カゲミツ……!」
「君は、あの人には勝てない。 それどころか……ともかく、今日はやめておいた方が良いよ」
くそ……。
「うるせぇよ。 なんでお前にそんな事、言われないといけねーんだ!」
「僕に負けた日を憶えているかい? Lupinus……あの人は僕と同じくらいの実力があるだろう」
「お前と同じだって? 決勝の前にLupinusさんはお前を見て、俺も同じくらいの力があるって言っていたぜ!」
「あれは……そういう意味じゃないさ……」
「じゃあ、なんだってんだよ……」
くそ……いつも俺をバカにして……。
そして、俺の道を阻もうとする。
カゲミツ……いったいお前は……。
「あぁでも言わないと。 決勝の相手と張り合えないと感じたんだろうね」
「お前、なんなんだよ……!」
……!
何やってんだ、俺……。
勢い余って胸倉を掴んじまった。
けど、俺が……俺が何したって言うんだ!
『……ありがとう』
ウチの道場から帰る時、お前がそう言ってくれた日。
俺は、友達になれたんだって思って……俺も嬉しかったんだ。
なのに、お前はこんな大事な日にまで……俺をバカにして……。
「え?」
……。
胸倉を掴んだカゲミツを付き飛ばそうとした瞬間、俺は壁際に押し込まれていた。
あまりに瞬間的な出来事に、一瞬思考が停止してしまっていた。
(ヤマトを放せッ……!)
「ごめんよ。 でも……」
とにかく、振りほどかねーと。
「……!?」
力ッ、強い……?
俺が腹の底から力を込めても、ピクリとも動かない。
カゲミツにとっては、俺は……俺は本当に、虫ケラみてーな存在なのかよ……。
「もう、いいよ」
カゲミツは聞こえないほど小さい声で何か呟いた。
また、俺をバカにしたのか?
そして、先ほどまでビクともしなかった腕が簡単に離れていく。
ほ、ほどけた……?
「もう知らねーよ!! カゲミツのバカ!!うんこ!!」
「……ヤマト、ごめんね」




