09.3歳の誕生日①
「ストップにゃ!ストップゥー!」
霧が立ち込める朝、ディームル領とワーグナー領を繋ぐ海岸沿いの道を護衛を連れた商人一行が進む中、その声は唐突に響いた。
「ケイルさん、どうかしましたか?この辺りは魔物の発生は少ないはずですが。」
「ウチの索敵係が妙な気配を感じ取ったから少し確認させてもらう。ナーダ、どんな状況だ?」
「ん~。なんか地面の下から統率の取れた反応が数体引っかかってるにゃ。新種の魔物か、岸壁のどこかに洞窟でもあって盗賊でもいるのか。う~、わからん!」
「ワーム類の魔物の出現報告はこの辺では出てないはずだぞ。こちらに気づいてそうか?」
「んぃーや、そんな感じの動きじゃないにゃ。このまま進む分には問題なさそうにゃ。」
「分かった。ケイルさん、この辺りを抜けるまでしばらくペースを上げて進もう。」
「わ、分かりました!」
「はわぁ・・・。パパッと依頼終わらせて早くカレナと合流するにゃ。夜の見張りを二人で分担はキツいにゃ・・・。」
そうして馬車は何事もなく走り去っていく。
そしてこの違和感の正体がその日の夜、大きな事件を巻き起こす。
「・・・行ったみたいだ。早くコイツを隠してしまおう。」
「あぁ。決行は夜。我が国の未来の為にも、失敗することは許されない。気を引き締めていくぞ。」
「・・・。」
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ついにやってきました今日が!
今日はなんと僕の3歳の誕生日!パチパチパチ!
思い返せば短いようで長い驚きだらけの3年間だった。
まずは何といってもステータス画面!2年かけて言葉の発音と読み書きを覚えた僕はようやく視界の邪魔をしていたステータス画面を閉じることができた。
いや、閉じること自体はいつでもできたんだけど、これ以上怪しまれるのは不味かったからね。仕方ない。
そして次は祝福でもらった魔力貯蓄。最初はめっちゃ便利かと思ってたのに蓋を開けてみたら使いづらいのなんの。
この世界の魔法って魔力の出力と変換の仕方次第でいくらでも発現の仕方にバリエーションがあるのは分かったんだけど、
こそこそ隠れて兄と姉の魔導書を読み漁り、せっかく新しく光属性と風属性の魔法が使えるようになって喜んだのも束の間、
自前のMPでは好きに出力を変えられるのに貯蓄した魔力からはせいぜいが初級者レベルの魔法出力しかできないことが分かった。
おかげで貯めた魔力は魔物を倒すのに使い物になるかすら怪しく、今のところは創造魔法専用である。くっ・・・。
でも、創造魔法は信じられないくらいバカ燃費だから油断は禁物である。
この3年間無理のない範囲で創造魔法による魔力特訓を行ってきた。ひたすら色んな宝石を生成しまくった。
最初の頃、魔力を大量消費する度に起こしていた体調不良も、体の成長につれて軽微なものになっていき、今では全く発生していない。
生成した宝石がどこに行ったかって?初日は気絶して分からなかったが、なんと乳母さんがネコババしていたらしい。
復帰後に僕が生成して枕横に置いておいた宝石を何食わぬ顔でポケットに入れたのをみて驚愕した。
別にすぐに解除して魔力に還元しても良かったんだけど、口止め料兼日頃のお礼ってことでそのままにしておいた。
僕が1歳になって乳母さんが屋敷を去る頃には、出会った頃の痩せた姿は見る影もなくなり、服装もずっと上等なものになっていた。
どうか、この幸運に怠けず真面目に生きて幸せになってくれよ。
そうそう、ずっと特訓をした成果もちゃんとあって、僕のMPは今や940だ。
すごく多そうに思えるけど、創造魔法で宝石が1つ作れるかどうかって量だ。
おかげで回復量は多くなってやれることが増えつつあるけどね。はたして僕に魔法の才があるのか、雲行きは怪しい。
コンコンコン。
「おはようございます、メリル様。誕生日おめでとうございます。本日は午前中に教会にて洗礼の儀と魔法適性検査がございます。午後はご家族皆様で領地をご視察なさり、夜にはお披露目のパーティーが催される予定となっております。」
「おはようリエラ!ありがと!きょうがとても楽しみだったの。早くじゅんびしましょ!」
乳母さんと入れ替わりで僕の専属メイドとなったのがこの子、リエラ・カルディンだ。
なんでも昔からこの家とカルディン子爵家とは親交が深く、その縁もあって、彼女は僕の身の回りの世話をしながらメイドとしての教育を受けることになったらしい。
学園を卒業してすぐこちらにきたらしいから今年で15歳?この世界は成人が15歳らしいけど、
こんな可愛くて凛々しい女の子がそのうち政略結婚させられるなんて、想像するだけでも脳破壊モノだ。
その時が来たらお父さんに頼んでしっかりと身辺調査してもらいますとも。
リエラは慣れた手つきで僕の身支度を整えていく。
「洗礼のぎはかみさまから祝福をもらえるのだったかしら。リエラはどんなのをもらったの?」
「・・・皆さんには内緒ですよ?・・・・・幸運大アップです。」
「すごーい!祝福をもらってから何か変わったことはあった?」
「幼い頃ですので違いといっても言葉にしにくいのですが。何も不自由も諍いもない生活を送れて、こうしてメリル様のお世話をさせていただけているのが一番の幸運ですね。」
「おとう様にかんしゃね!」
話している間に次は髪がセットされていく。今日はツインテのようだ。
「魔法適性検査も楽しみですね。キュリアス様はワーグナー家が代々凄腕の魔法使いを輩出している水属性に、ネリッサ様はとても光属性に適性がございました。メリル様にも皆期待しております。」
実のところ、もう魔法が使えるからおおよその適性はわかっている。この年で光属性と風属性が使えるようになったということはそういう事だろう。
「私はおかあ様とおねえ様といっしょの光属性だったらいいな。でも、他のも捨てがたいなぁ。」
「心配しなくても大丈夫ですよ。適性検査というのはあくまで得意不得意を調べるだけなので、お嬢様の努力次第でどの属性も覚えることは可能です。」
「そうなの!?じゃあ沢山お勉強と練習をしないとだね!」
「そうですね。さぁ、髪を整え終わりました。あちらの姿見をご覧ください。いかがでしょうか?」
誘導された先の大きな鏡に映る自分を眺める。
金髪にエメラルドグリーンの髪がメッシュのように部分的に入っており、瞳の色は深緑色。その顔は前世の自分とは似ても似つかない可愛らしさがある。
・・・これ本当に要望通りの中の上くらいの見た目に成長するんだろうか。まだ3歳だからどうなるかわからないけど、もうちょっと細かく注文しておくべきだったか?
「良いと思う!よし、おとう様達のところへ行こう!」
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「皆揃ったな?では行こうか。」
僕ら家族は二つの馬車に分かれて屋敷を後にした。
1台はお父さんと兄のキュリアス、そして付き添いの文官が乗る馬車。そしてこちらがお母さん、姉のネリッサ、侍女1人、そして僕の乗る馬車だ。
「ねぇねぇメリル!あそこに群れてるのがコットンキャトルよ!牛乳もくれるし、お洋服も作れるのよ!」
「さっすがお姉ちゃん物知り!天才!あの生き物すっごいモコモコしてるね、触ったら気持ちよさそう!」
「今度お父様に頼んで一緒に連れて行ってもらいましょ!」
羊と牛のキメラかな?良いとこどりでメッチャ便利な家畜じゃん!
前世でやり込んだ某箱庭サバイバルゲームで、牛には頻繁に出会うのに羊とは全然エンカウントしなくてしばらく野宿させられたのを思い出す。
この家畜さえいれば衣食住の衣と食は問題なさそーね。貴重なライフラインだ、畜産農家さん達頑張れ!
「二人とも、立ち上がると危ないからちゃんと座りましょ。まずは教会からね、メリルは今日何の祝福が貰えるかしらねぇ。」
「私はね私はね、回復効果アップだったの!すごいでしょ!お母様よりすごい光の魔法使いになるのが夢なの!」
「すごいすごい!!もしわたしが怪我したらお姉ちゃんにお願いするね!」
「任せて!キレイに治してあげるんだから!」
胸を張ってドヤ顔の姉に思わず顔が緩んでしまう。こんな元気ハツラツで天使な子が僕の姉で本当にいいんですか!?
実際のところ、姉の光属性魔法はたまに見ることがあるが凄まじい回復能力がある。
この間なんて、鳥に襲われたのか、屋敷の周りで大怪我をしていたネコを見つけた時、手を当ててほんの十数秒で傷を全回復させていた。
「わたしはー、う~ん。騎士のみんなみたいにつよくなれる祝福がいいなぁ。」
「あらあら、メリルはもしかしてネリッサ以上のお転婆になるのかしら。剣士や魔法使い向きの祝福を授かれると良いわねぇ。」
「強くなって、りょーちで一番強くなりたいの!わたしが強くなったら、おとう様もおかあ様もうれしい?」
「うぅぅ嬉しいぃ!よしよし、なんていい子なの。メリル、応援してるわよ!」
「まっかせて!」
よっしゃ、お母さんから言質もらった!こんな積み重ねを地道に集めて、最終的に騎士団に入る許可をもぎ取ってやるぞ!
そして僕のお母さんなんだけど、絵に描いたような絶世の美女なのに、驚くほど情に弱くて、妙なところで熱血だったりする。
そのギャップが堪らない。お母さんが感激している姿を見ると、僕はもちろん周りの皆も影響して気持ちが高ぶってしまう。
この家の女性陣、最高過ぎないか。ガッカリされない為にも、絶対に期待に応えねば!
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外の景色は気づくといつの間にか港町へと変わっていた。
この町の名前はカンダリファというらしく、ワーグナー領で一番栄えた町なのだと、お母さんは道すがら誇らしげに教えてくれた。
馬車は締め切っていたが、どこからか入ってくるすきま風から懐かしい潮風の香りが漂い鼻をくすぐる。
はぁ~、早く成長して釣りがしたい。自由に歩き回れるようになった暁には絶対にこの港町で釣れる魚をコンプしてやるぞ・・・!
「メリルお嬢様、あちらに見える建物が教会です。」
同乗していた侍女が示す前方に目を凝らすと、真っ白で大きな建物が見えた。
生前の物心ついた頃、何度か教会に入った事があるけど、記憶の中のそれはもっとこじんまりとしていた。
椅子に座っていると教会の人が歩いてきて水を頭にかけられるんだよね。
この世界にはどんな宗教観や風習があるんだろうか。
僕は無神論者だけども、いや正確には転生するまでは無神論者だったんだけども、家族やこれから出会う人達にとって、この教会がどれほど大きな存在なのだろう、
この世界にどれほどの影響力があるのだろう、と考えるだけでワクワクするし、怖くもある。
「とっても大きいんだね、どうして?」
「この国の教会は領地から出る予算で運営されているのですよ。今日メリル様がお受けになる洗礼や魔法適性検査、
教会の建設費や改築費、修繕費、それに併設されている孤児院の運営も教会の管轄ですのでそちらの費用も含まれます。
その他にも新年やついこの間行われていた収穫祭も教会の主導で開催されております。
まとめますと、栄えている領地ほど教会にも予算が回りますので、領民への支援や各種行事も充実するのです。」
なるほど、行政機関のような役割をしているのか。
そういえば、読んでいた異世界モノの漫画や小説では、孤児院は教会の一部だったり貴族の見栄で作られて運営されてたりするけど、
この様子だと、少なくともこの領地では孤児達は悪い暮らしをしていなさそうだな。
そちらも気になるから、外に出歩けるようになったらこっそり見に行ってみよう。
「じゃあ、おとう様たちのおかげでこんなに大きいの?」
「その通りでございます、メリル様。とてもご聡明でございますね。」
「もぅ恥ずかしい。ありがとう、メリル。二人とも、私達の背中を見て、しっかりと育つのよ?」
「「はい、お母様!」」
例えその言葉がなくとも、僕は立派で自慢の娘になってやりますとも。
でも、転生した主人公みたいにやらかし過ぎて家族に溜息つかせるような事にはならないようにしないとね。
何事も節度が大事。やりすぎたら天上の人間や知らなくていい世界の人間に目を付けられるのがオチなんだから。
「到着しました。緊張せずともご心配ありません。気持ちを楽にして参りましょう。」




