07.ワーグナー家次女殺人予告事件
ステータス画面を表示させてから、ようやく3ヶ月が経った。いや、多分だけど、それくらい経ったかな?
この体もある程度しっかりしてきて、多少は体の向きを変えることができるようになったけれど、
この変わらない景色を眺めるか、寝て過ごすしかない日々が原因なのか、はたまた体の影響によるものなのか、
今の僕は、日をまたいで物事を記憶することが上手くできずにいる。
前世の記憶は何故かハッキリとしているが、この体になってから体験したことや考えたことを、次の日まで全て覚えていられない。
たしか、3歳か4歳くらいまでは前の日のことをあまり記憶できない、とかなんとか聞いたような・・・。
こういう時こそ、あの祝福の出番だよね!
(検索!)
ステータス画面の右隣に、半透明の画面が表示される。
前世の僕が、目に穴が開くほど見慣れたブラウザの画面。
ハハッ、こうして画面が並ぶと、まるでデュアルディスプレイみたいだ。それともARグラスかな?
この画面は以前【鑑定】した時に、神様から他人には見えないとお墨付きをもらったので、ショルダーハックの心配がないのだ。
つまり、白昼堂々と趣味丸出しのネットサーフィンができるわけだ!
・・・で、だ。
これ、どうやって操作するんだ・・・?
キーボードもマウスもないし、視線を動かしてもマウスポインタが出てくるわけでもない。
お、頭の中でキーボードを思い浮かべてみたら、ブラウザの下に同じような半透明のキーボードが出てきた。
同じようにマウスも強く念じてみる。出てきた出てきた。けど、以前自分が使っていたような普通のマウスではなく、トラックボール型のマウスだった。
まぁ仕方ないか。宙に浮いてる実体のないマウスでポインタを操作するなんて難しそうだからな。
そしてここで問題発生。手が、届きません・・・。しゅーりょー!
この気の遠くなるような毎日に花を咲かせることができると期待したのに!せめて音楽を流せれば・・・くっころ!
そうそう、画面を閉じるのも念じたらできました、はい。ステータス画面は、この世界の言葉が話せるようになるまでは、まだこのままになるけどね。
ついでに、魔力の現在の貯蓄量を確認。
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・魔力貯蓄[5967/∞]
MPの過剰回復分を貯蓄する。MPが0を下回った時、HPの代わりに貯蓄量を優先的に消費する。
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気のせいかな?とんでもない量に感じるんだけど。
MPも一緒に確認してみるか。
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[MP] 30/30
魔法に必要な魔力量。INTの数値に比例してある程度上昇する。睡眠時間1時間につき15%回復する。
残量を超えて使用するとHPを代わりに消費し酷い倦怠感に襲われる。
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うん、気のせいじゃなかった!
赤子198人分の魔力量。途端に、自分が危険物のように思えてきたぞ。
変にケガとかしたら爆発するんじゃないだろうな・・・。
前にお母さんを【鑑定】してステータスを確認したけど、MPは300とちょっとくらいじゃなかったかな。
お母さんがどのくらい魔法を使えるのかまだ分からないけど、この値を中央値として考えても、かなり規格外の量になってるね。
今なら、あの祝福も使えるんじゃないか?
【創造魔法】は燃費が超悪いって話だったけど、これだけ魔力があるなら何か試しに作るくらいはできるはず。
いきなり前世の物を作るのもなんだし、まずは短剣とか作ってみようか。装飾モリモリのカッコいいやつ!
タイミングよく、今はお母さんも乳母の人も部屋にいない。
思い立ったが吉日、レッツトライ!
(創造魔法!)
発動した瞬間、自分の体から血の気が一気に引いたのを感じた。
創造魔法に魔力を込めつつステータス画面をチラ見して【鑑定】をかけると、MPが0になり、貯蓄量も物凄い速さで減っていっているのが分かった。
これヤバイ!止めなきゃ死んじゃうやつ!ストップストップ!
僕が魔法を途中で止めると、宙に浮いていた創造途中の短剣がボトリと首の横に落ちてきて刺さった。
刃の部分は金色と赤色で綺麗な模様が彫られており、持ち手部分は作りかけで、握りづらそうなただの棒のような形をしていた。
疲労で閉じかけている瞼を気合いでこじ開け、再度魔力の貯蓄量を確認する。
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・魔力貯蓄[1283/∞]
MPの過剰回復分を貯蓄する。MPが0を下回った時、HPの代わりに貯蓄量を優先的に消費する。
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えぇ、どれだけ消費したんだよ・・・。
頭が働かなくなってきてるから、ちゃんと計算できないけど、4000以上消費してない?短剣1本だよ?
これ、最後まで【創造魔法】を発動してたら、最悪死んでいたんじゃ・・・。
だめだ、眠いし、寒い。とりあえず休もう・・・。
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夕食を終え、私はメリルの様子を見るため部屋へ戻る。
流石に3度目の出産だからなのか、予想より体の回復が早かった。
執務作業に戻って1ヶ月以上が経ったけれど、キュリアスの時だと、ようやく家の中を歩けるようになった頃かしら。
母子ともに健康体とのお墨付きを頂いたことだし、執務を任せきりだった分、しっかりこなさなきゃね。
私は意気込みながら部屋に入り、揺り籠を覗いて――。
「キャアアアアア!!!誰か!誰か!早く来て!!!」
驚きのあまり、その場で尻餅をついてしまった。
恐る恐る、もう一度覗き込む。
メリルの顔のすぐ隣に、見たこともない装飾の短剣が突き刺さっている。
「メリル!メリル!生きてるの!?ねぇ起きて、お願いよ!ああぁぁ・・・」
メリルの体が冷たく感じる。この子を産んだあの日を思い出すほどに。
どうして・・・!?何故こんな・・・!?
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私はそれから、いつの間にか気を失ってしまったらしい。
気が付いた頃には家族と騎士が何人か集まっており、家の者の配置や警備体制に関する聴取を行っていた。
「マイスティラ・・・メリルは?メリルは無事なの?」
「グレイシー、気が付いたか。心配するな。生きているし、ケガもない。」
私は心の底から安堵した。マイスティラは私の様子を見て、話を続けた。
「ケガはないのだが、様子がおかしい。メリルのMPが2しか残っておらず、まるで魔力を枯渇させた時のような症状が出ている。そしてこの短剣だ。私は、魔力を吸収する効果が付与されているか、何者かからのメッセージではないかと考えている。」
「そんな!どうしてメリルが?」
「わからぬ。ここからは私と騎士団長で警備の見直しを進める。今、別の部屋を用意させているから、お前はメリルと移動して先に休みなさい。」
私は静かに頷き、数秒マイスティラを抱きしめた後、メリルを抱きかかえて部屋を後にした。
以降1ヶ月もの間、ワーグナー家の屋敷は厳戒態勢を敷くこととなった。
後に、この日の出来事は『ワーグナー家次女殺人予告事件』と呼ばれるようになる。




