納品
4月になり俺たちは3年に進級した。
2年から3年へのクラス替えはない。
春臣は柳木や上村と、俺は友成と同じクラスのままだ。
春臣は進級するまでキスはお預けと言った。
本当にそうなった。
あいつは有言実行する男だということが証明された。
4月になった、はい、キスしましょう、そんなわけはない。
したくないわけではない。
でもしなくても大丈夫だった気がする。
いや、痩せ我慢かもしれないが、大丈夫だったと強がりたい。
俺らは拗れてから話をするようになった。
小さなことでも話すようになった。
それが精神的安定にここまで影響を及ぼすとは思わなかった。
そう、心が平穏なのだ。
春臣が相変わらずモテすぎるから時々揺れたりするけど、不安ならそう言えばいい。
そしてそれを聞いてくれる。
これだけで落ち着く。
だから大丈夫。
俺たちはなにもないまま、いつもどおり友達と恋人の間を揺れている。
GW、初めて春臣、柳木、上村、友成、そして俺の5人で遊んだ。
アホな俺らはめちゃくちゃ混んでるネズミーに行った。
柳木と友成がやたら張り切ってチケットを取ってくれたから、それならばと割り切って遊んだ。
この5人、めちゃくちゃ楽しい!
意外にも友成と柳木、上村が気が合うようですげえ仲良くなった。
それを見て春臣が、
「なんか俺嬉しい」
とすごく嬉しそうに言った。
「うん、俺もそう思った」
俺の友達が春臣の友達と仲良くなったのが単純に嬉しかった。
話は少し遡ってGWの少し前。
ネズミーの話を春臣としている時に、俺は頼み事をした。
「GW、時間取れないか?」
最近の春臣は察しがいい。
「もしかして届いた?」
「届いた!」
そう、例のフィギュアがとうとう届いたのだ。
事前にロンさんから発送する旨のDMをもらったが、ロンさん曰く、
「会心の出来! 傑作!」
と自画自賛していた。
期待が高まる。
春臣も楽しみにしていたから早くそれを春臣の家に持って行きたい。
春臣は早速龍臣さんに予定を聞いてくれた。
春から社会人になり、今までとは生活ががらりと変わった龍臣さんはJINとして戦バニに来ることが減った。
春臣によると、帰りはそれほど遅くないけどやはり疲れはあるようだ。
だからGW前半は大学時代の友人たちと温泉旅行に行くらしい。
春臣から聞いた話だと、龍臣さんたちは卒業する前に、
「絶対に俺たちはバテるから、英気を養うためGWに温泉に行くぞ!」
と計画し、宿の予約を取ったんだそう。
行動力もすごいが、予想がそのとおりになって対処法が的確すぎるのがすごい。
後半は家でゆっくりするからいつでもいいよとのこと。
それなら5月4日に指定してもいいかな。
春臣と龍臣さんからはOKをもらった。
その日にフィギュアを届けることになった。
まだ龍臣さんにはフィギュアのことは内緒だ。
当日。
俺はキャンプに行く時に使うキャリーカートを父さんから借りて、ロンさんから届いた段ボールを二つ括り付けた。
段ボール自体は重くはないが責任が重い。
龍臣さんへ無事に届けなくてはならない、
破損させてはならない。
できるだけ振動がないよう、細心の注意を払う。
その緊張感でカートを引くのが慎重になる。
よって駅まで行くのにいつもの倍以上に時間がかかった。
駅に着いたら春臣に連絡することになっていた。
「着いたよ、今から行くね」
「わかった、こっちも設定しておく」
「了解」
よし、もう少しだ。
春臣の家にお邪魔するとリビングにいた龍臣さんに会った。
「こんにちは、お久しぶりです」
「海凪じゃん! 久しぶりだなあ」
「と言っても俺は時々ここには来てるんですけどね」
「俺とすれ違ってんだよな」
「はい」
「春と約束してんのか?」
「そうです」
「時間あるなら後で戦バニしようぜ」
「JINさんが全然現れないってみんな言ってますよ」
「世間の荒波に揉まれてたからな」
「あはは!」
「そうだ、海凪に土産あるんだよ」
「温泉行ったんですよね、春臣から聞きました。どうでした?」
「めっちゃ癒された、極楽。あの時、宿の予約取った俺たちを褒めてやりたい」
「あはは!」
「土産、後で渡すな」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃ後でな」
「はい」
「ところでその荷物なんだ?」
ギクーーッ!
まずい! 誤魔化せ。
「えーと、春臣に貸す漫画です」
「そんなに!?」
そりゃそうだ、段ボール二つだもん。
「はい」
「言ってくれれば車出すのに。言えよ」
「いやあ、さすがにそれは悪いですよ」
「今更遠慮すんな」
「ははは……」
誤魔化せたか?
「海凪、早く早く!」
春臣の部屋に入ると春臣がやたら急かす。
完成品を見たくて堪らないようだ。
当然だよな、待ったもんな。
俺もまだ見てないから早く見たい。
でも……
「なあ、これ、龍臣さんの前で開けるのと、今、中身を確認した上で龍臣さんに渡すの、どっちがいいんだ?」
「あー、そうか。どっちがいいかな。
兄ちゃんに渡した時に俺たちも初見の方がワクワクするかな」
「そこなんだよな、一か八か、龍臣さんの前で開けるか」
「うん、そうしよう」
「わかった」
「で、なんで二つなの?」
あ……
「フィギュアとケース、別々に梱包されてるみたいなんだよね」
「そっか」
危ねえ、やばかった。
さっき春臣が言っていた設定を二人で確認する。
うん、いい感じ。
「それじゃ行こう」
「行くか」




