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友達

これを神野は見てたのか?


「どこからどこまで?」

「泣いてる男の子と一緒にトイレに入っていったところから、改札付近で誰かに食ってかかってるところと、駅前でお母さんらしき人と会うところまで。俺、あの駅が最寄りなんだ。

電車が遅延して待ってたら葉山くんたちがいた」

ほぼ全部かよ。

「最初は泣いてる小学生をトイレに連れ込んでなにする気なんだろう、痴漢かと思って通報するつもりで様子見てた。

同じ制服着てるしやばいかなって」

「そんなんじゃない!」

「うん、違った。男の子着替えてたし、察した」

痴漢の疑いは晴れたようだった。


「葉山くん、優しいんだね」

「いや、だってあれは……あの状況なら誰だってそうするだろ?」

「そんなことないでしょ、見なかったことにもできたはず」

「そんなことできないよ」

「ほら、やっぱり優しい」

「……」

「俺、優しいってこういうことなんだって初めて知った」

「……」

「独りよがりじゃなくて、その相手が心から喜んでたり安心してたり、そういうのが本当の優しさなんだなって」

「……」

「俺、そんなふうにできない」

「……」

「だから、こんな人になりたいって思った」

「……」

「優しい葉山くんってどんな人なんだろうって考えるようになった。

同じ制服だから同じ学校、葉山くんを探したら同じ学年だった」

「……」

「俺、人を好きになるっていうのがよくわからなくて、好きだって告白してきた女の子に『好きになるのってどういう感じ?』って聞いたら、『その人を見てるとドキドキしたり、なにをしてても気になっちゃう感じ』って言われた。

俺、あれ以来葉山くんのこと気になっちゃってて、それって好きってことなのかと……」

「……」


ちょっとわかってきたかも。

好き? の疑問符は好きってどんな気持ちなのかわからなくて、これで合ってる? 的な疑問符ということなのか。



「だから葉山くんも俺のこと気にしてくれないかなって思った。優しい葉山くん、いいなって思った。そんな優しい人と付き合いたい、俺と付き合ってくれないかなって思った」


「俺、男だぞ?」

「それってなにか問題なの?」

「だって普通じゃないだろ?」

「普通ってなに?」


そうだった。

こいつ自体が普通じゃないんだ。

なんたって全サなんだから。


いろいろおかしいし、頓珍漢だし、変な奴。

でも、変だけど悪い奴じゃないのはわかる。

変だけど。


「あのさ」

「はい」

「神野くんとは付き合えないよ、やっぱり」

「そうなんだ……好きって言うだけじゃダメなのか、知らなかった」

恋愛初心者か? 全サからのギャップ、エグくない?


「でね」

「はい」

「付き合えないけど、神野くん危なっかしいから俺と友達にならない?」


なんかこいつ危なくて放っておけなくなってきちゃった。

感覚的にはあの日の伊織くんと同じ感じ。

「友達?」

「そう、友達」

「いいの?」

「別に構わないよ、友達になろう」

「はい」

そう言ってめっちゃいい笑顔を見せる。

かぁーーっ!!

イケメンの笑顔って破壊力すごいな!


じゃあ連絡先交換しようかってなったんだけど、チラッと見えた登録者数がえげつなくて思わず聞いてしまった。

「それ……もしかして歴代彼女?」

「え? 家族とか友達とかもいるけど大体そうかも。あとファンって言ってくる人たち」

「すごいな……」

当たり前のように話してるけど普通に生きててファンって存在するものなのか?

「もう連絡とってないし、こっちから連絡したこともないからいらない」

と言って神野は全削除してしまった。

「お前! 家族とか友達のも全部消しちゃってるじゃん!」

「いいよ、知ってる人のはまた聞けばいいんだし」

本当に危なっかしい。


「葉山くん、これなんて読むの?」

と新たに登録した俺の連絡先を見て神野が聞く。

あ、名前ね。

「はやま みなぎ」

「海凪っていうんだ」

好きな相手の名前知らなかったんか。

らしいと言えばらしいけど。

「神野くんは春臣(はるおみ)って言うんだな」

「そう」

「なんて呼ばれたい? 苗字と名前どっちがいい?」

「友達は春とか春臣って呼ぶよ」

「じゃあ春臣でいい?」

「うん、俺はなんて呼べばいい?」

「この流れなら海凪かな」

「海凪くん」

「くんはいらない、海凪でいいよ」

「わかった、海凪」

なんかこそばゆい。


こうして俺と春臣の変な友達関係は始まった。

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