神野兄弟の反省
Y駅までは数分、駅に着くと改札前に春臣がいた。
そうだ、誤解されたままなんだ。
どうしたらいいんだろ……
「麗ちゃんは帰ったのか?」
「うん、帰ったよ」
「大丈夫かな」
「そんなに心配するなら付き合えばいいのに」
「そういうことじゃないんだよ」
「わかってる。大丈夫だと思うよ、強い人だから」
「そうか」
「まだまだ兄ちゃんのこと諦めないね」
「そうか……」
春臣と目が合う。
なにか言わなきゃ……
「あの、俺……」
ふっ
ふはっ
春臣と龍臣さんが笑い出す。
なんだ?
なんだよ。
「これはこれは、義理のお兄さん」
春臣が揶揄う。
「兄ちゃんと付き合ってるなら言ってよ」
「違うって! 誤解なんだよ」
ふははははは!
「さっき兄ちゃん笑い堪えてたでしょ」
「笑いそうになって耐えてたんだけど無理」
二人で爆笑してる。
笑いを堪えてた?
さっきの龍臣さんの震えは笑いのせいだったのか。
なんだ、これ……
なに二人で笑ってんだよ……
なんなんだよ……
「ねえ……どういうこと?」
「ごめんな、海凪。
春から海凪に麗ちゃんのこと誤解されてるからなんとかしろって言われてさ。
麗ちゃんのことはさっき海凪に説明したとおりなんだけど、海凪が納得しないかもしれないし、この際、麗ちゃんのこともはっきりさせておきたかったから、海凪次第で春に麗ちゃんを連れてきてもらうことにしようって二人で相談したんだ。
でも麗ちゃん手強いだろ?
それなら海凪と俺が付き合ってるってことにしようかって」
「……」
「麗ちゃんを傷つけるかもしれないけど、荒療治でもしないと終われないと思ってさ」
「結局諦めてもらえなかったけどね」
「もうこれ以上無理だろ。物理的に離れるしか方法がねえよ」
嘘ってわかってたの?
全部嘘だってわかってたの?
春臣は俺と龍臣さんのこと誤解してないの?
俺の誤解を解くために龍臣さんに話をしてくれたの?
春臣は傷ついてない?
俺が春臣を信じなかったからこんなことになった……
涙が出る。
「え? 海凪?」
春臣が慌ててる。
「大丈夫か?」
龍臣さんも慌ててる。
安心したのと、ごめんなさいで感情がおかしい。
「ごめんな、巻き込んでごめんな」
龍臣さんがオロオロしてる。
「海凪、ごめんね」
春臣が泣きそうな顔してる。
違う……
俺が吉沢先輩との関係を疑って、春臣の話も聞かず信じなかったから……
涙を腕でぐいっと拭って俺は二人に笑う。
「大丈夫」
そして、
「龍臣さん、こっちこそ巻き込んでごめんなさい。酷いことさせてごめんなさい」
「なんで海凪が謝るんだよ、俺が悪いんだ」
春臣を見る。
「ごめんな、話聞かなくて、信じなくて。吉沢先輩まで巻き込んでごめんなさい」
「海凪が謝らないでよ、俺が誤解させたんだ」
三人で謝り合いになってしまった。
「海凪、送ってくから車乗ってけ」
龍臣さんが気を遣ってくれる。
「大丈夫です」
「乗っていってよ」
自分が運転するわけでもないのに春臣も誘ってくれる。
ごめん、ちょっと今は一人になりたい。
「大丈夫です、寄りたいところあるんで」
嘘をついた。
「そうか……」
「兄ちゃん、ちょっと車で待っててもらってもいい?」
龍臣さんは、
「わかった、車で待ってる。海凪、また遊んでくれるか?」
「はい、もちろん。ご飯、ご馳走様でした」
龍臣さんは笑顔で車に向かった。
「海凪、ごめんね」
「俺が悪い、信じなくてごめん」
「こんなことしか思い付かなかったんだ。海凪も麗ちゃんも傷つけた」
春臣が項垂れてる。
「なあ、春臣。俺たちさ、もっと話をしよう。ちゃんと話をしようよ。
もやもやして一人で不安になったり悩むなら、それをちゃんと伝えよう」
「……うん」
「俺は春臣とならそれができると思うんだ」
「うん」
「海凪、怒ってない?」
「怒ってない、安心しただけ。誤解されてないってわかって安心したら涙出た、恥ずい」
めっちゃ照れくさい。
「麗ちゃんとはなんでもないから」
「それもよくわかったよ、吉沢先輩、龍臣さんのこと本気で好きなんだな」
「うん」
「あんなに自分の気持ちに正直で真っ直ぐで、かっこいいな」
「うん」
「俺は大丈夫だから、もう行けよ、龍臣さん待ってるし」
「うん……」
「ゆっくりやっていくんだろ? 俺たち」
「うん」
「また遊ぼうぜ」
「うん」
「龍臣さんによろしくな」
「うん、海凪、またね」
「おう」
車で待っていた龍臣が、
「海凪、大丈夫か? 送っていかなくていいのか?」
と気にかける。
「うん、大丈夫。多分一人になりたいんだと思う」
「そっか……そうだよな……」
龍臣が車を出す。
しばらく二人とも黙ったままだった。
口火を切ったのは龍臣だ。
「なあ、春」
「ん?」
「俺さ、やっぱり今日のことやり過ぎたと思うんだよ」
「うん……俺も」
「誤解を解くためとはいえ、人の気持ちを考えずに嘘ついて傷つけた」
「うん……」
「麗ちゃん、進路決まってるのか?」
「A大に行くって言ってたよ」
「そうか」
「うん」
「……あのさ、今日のお詫びも兼ねて合格祝い渡してもいいよな? 誤解される?」
「兄ちゃんはどうしても麗ちゃんとは付き合えないの?」
「……嫌いとかではないんだよ。
でもスタートが生徒だったし、それ以上には思えないんだ。俺の中でその線を越えられない」
「そっか」
「うん……ごめん」
「謝ることじゃないよ。合格祝い渡したいなら俺が渡すよ。あくまでも元先生としてと伝えるから」
「俺が渡した方がいいかな」
「期待させちゃうのも酷かもしれないよ」
「だよな……頼めるか?」
「うん、任せて」
……
…………
「あとな、海凪にもお詫びをしたいんだ」
「兄ちゃんの気が済まない?」
「うん、悪いことしたと思う」
「俺も」
「あ!」
「春?」
「ちょっと帰ったら見てもらいたいものがあるんだけど」
「なに?」
「説明するより見てもらった方がいいから早く帰ろう。もっとスピード出して」
「お前、無茶言うなよ」
「早く!」
「信号赤だろ」




