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すれ違い

ここで吉沢先輩が爆弾を投下した。


「私、春くんと付き合おうかな」


は?


俺の肩を抱く龍臣さんの手に力が籠る。

痛い痛い痛い痛い痛い!

めりめりと指が肩に食い込む。

肩壊れる! マジで痛い!


「なに言ってんだ?」

龍臣さんがキレそうな声で問う。

「春くんと付き合う」


ビキッ!

龍臣さんがキレる音がする。

やばい……これやばいやつだ……



「やだよ」


誰の声?

春臣?


静かに冷たく言い放つ。


「兄ちゃんがダメだからってなんで俺なんだよ」


吉沢先輩はふっと笑って、

「冗談、ごめんね」

と寂しそうに言った。


「悔しかったの、ごめんね、春くん」

「麗ちゃんなら他にいくらでもいい男いるよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……

でも私、龍臣くんのことが好きだから……龍臣くんじゃないと嫌……」

ポロッと涙をこぼす。


「私、諦め悪いかも……」

と泣きながら無理に笑う。

「別に好きでいるのはいいと思うよ」

「いいのかな」

「だって好きなんでしょ? 仕方ないよ。

今あるものを壊さないならそれくらいいいでしょ」

「……うん。春くん、ありがとう……」

「駅まで送る」

「春くん、本当にイケメンだね」

「俺もここにいたくないし。二人に黙ってられたのがムカつくから」

「悔しい者同士?」

「そう」

ふふっと吉沢先輩に少し笑顔が戻る。


「じゃあ俺、麗ちゃん送ってくるから」

「……春、頼む」

「龍臣くん、覚悟してね。私、諦めないから」

「マジか……」

 

春臣は俺を目の端で冷たく見ると、吉沢先輩とファミレスを出て行った。



龍臣さんが大きく伸びをする。

「ふう、やれやれ」

「ちょっと! 龍臣さん! 聞いてないんですけど!」

やれやれじゃねえわ。

「まあまあ、そんなに怒るなって」

「怒ってませんけど、事前に言ってくださいよ」

「言ったら海凪、不自然になるでしょ?」

うっ……確かに……


「麗ちゃんは手強いからね」

「それは確かに……」

「あーあ、でも空振りだったかなあ。麗ちゃんにその場凌ぎの嘘は通用しないな」

「いえ、ダメージ計り知れないです」

「そうか? 効果あったか?」

「俺が春臣に誤解されました」

「あ、そっち?」

そっちだよ! どうしてくれるんだよ!


「春に誤解されると困るのか?」


うぐっ……


「なあ、なんかおかしいよな? お前ら」

「……別になにもおかしくないです……」

「いーや、おかしい」

「おかしくないですって……」

「なんで誤解されると困るんだよ」

「いや、それは……」


龍臣さん、にやにやしてる。


「……俺が春臣の一番でいたいんです」


言ってしまった……


「そっか」

え? 受け入れた?

最愛の弟に恋人ができるかもしれないんだよ? しかも男、平凡な並人間。


「仲良いからさ、そうなんじゃないかとは思ってたよ」

バレてたの?

「ほら、前に春がさ、『海凪は俺の友達なんだから取らないで!』って怒ったことあっただろ?」

「はい」

「その時からさ、ああ、そうかって思ってたんだよね」


バレバレじゃないか。


「あの、俺たち……」

「うん、わかってる。一番の親友なんだよな」


ん?


「これからも春を支えてやってくれ」


んん?


龍臣さんはにこにこ微笑んでいる。

そして、

「俺はな、人の心の機微に敏感なんだ」

とドヤる。


「はあ……」


この……鈍感兄弟がっ!

すげえよ、神野兄弟、鈍すぎるだろ。

心の機微に敏感? 空耳か?

その綺麗な目は節穴か?


イケメンだからってなに言っても許されると思うなよ!

何度でも言ってやる、この鈍感兄弟!


心の中の闇深な俺が絶叫する。


「俺たちも帰るか」

「はい……」


疲れた……

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