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修羅場

そんな話をしていると、

「いらっしゃいませ、2名様ですか?」

「待ち合わせしてるので……あ、いました」

という声が聞こえた。


え?

春臣?

と、吉沢先輩?


なんで?

デート?


「兄ちゃん」

「おう」

え?

もしかしてさっきの電話は春臣?


「海凪、俺の隣に来て」

「え? あ、はい」

言われるまま龍臣さんの隣に移動する。


俺の頭がパニックになりかけていたら、


「龍臣くんっ!!」

と吉沢先輩のはしゃぐ声が俺のパニックを飲み込んだ。


「……麗ちゃん、久しぶりだね……」

龍臣さん、めっちゃテンション下がってる。

こんな美人見たら普通テンションMAXになるよ。


「嬉しい! 龍臣くんに会えて嬉しい!」

吉沢先輩、めちゃくちゃ嬉しそう。

本当に龍臣さんのこと好きなのかもしれない。

いや、まだわからん。

油断は禁物だ。


吉沢先輩ははしゃぎすぎてることに気づいたのかちょっと冷静になり、春臣と俺たちの向かい側に座ると二人でドリンクバーを注文する。

俺たちもそれぞれドリンクを取りに行き改めて座ると、このおかしな状況を認識させられる。 



「龍臣くん」

吉沢先輩が嬉しそうに龍臣さんに話しかける。

「……なに?」

「手紙読んでくれてる?」

「春には受け取るなって言ってる」

「読んではくれてるの?」

「読んだ」

「ありがとう、それだけでも嬉しい。でも……」

「……」

「返事……聞かせてもらえないかな」

「何度も言ってるけど、麗ちゃんと付き合う気はないよ」


いきなり修羅場。

龍臣さんの声が冷たい。

非常に居心地の悪いこのテーブルの空気も冷え切っている。 

俺、ここにいていいのか?

帰った方がいいんじゃないか?

春臣は呑気にココアを飲んでる。

「あったけえ」

お前、今目の前で修羅場になってるのわかってるか?

あったけえじゃねえのよ。


「どうして? 私が子どもだから?

年下嫌って言ってたよね? そこはどうにもならないけど、私もう成人だよ、大人だよ」

吉沢先輩が食い下がる。

「そういうことじゃない」

「どうしてダメなの? 理由が知りたい」

吉沢先輩は引かない。


龍臣さんは大きくため息をつくと、突然俺の肩をぐいっと抱き寄せた。


え?


「理由? それはね、俺、こいつと付き合ってるから」



はあああああ?



「ちょっと! 龍臣さん!」

「え……どういうこと? わかんないよ、龍臣くん……」

吉沢先輩が動揺してる。


春臣がココアをそっと置き、

「へえ、そうだったんだ。二人付き合ってたんだ、へえ」

無機質な声で春臣が言う。


誤解だ、春臣!


龍臣さんがテーブルの下で俺の足を蹴る。

チラッと龍臣さんを見ると口パクで、

「合わせろ」

と言っている。

いや、でも、この状況は絶対まずい。

春臣を誤解させる。

ほら、見てよ、春臣の目が死んでる。

絶対まずいって!



「龍臣くん、嘘ついてるでしょ」

「なんで嘘つく必要がある?」

「私を諦めさせるためでしょ?」

「俺は海凪が好きだから付き合ってるんだ。麗ちゃんは関係ない」


吉沢先輩が俺をじっと見る。

こっちに振らないでくれ……頼む……


「春くんの友達だよね? この前春くんと一緒にいたよね?」

「はい……葉山海凪です……」

「春くんは知ってたの?」

「ううん、全っ然知らなかった」 


俺も全っ然知らなかった、なにこれ……

お前の声は氷か?

めっちゃ冷たい。

「なんで兄ちゃんも海凪も俺に黙ってたの?」

もう絶望……


「春の友達だしさ、言いにくくて……なあ、海凪?」

俺? 俺になにを言えっていうんだよ、龍臣さん!

テーブルの下でめっちゃ足蹴られてる。

「いやあ、恥ずかしくてさ……照れくさいじゃん?」

もうヤケクソだ。

「ふうん」

「今まで言えなくてごめんな、春」

「いいよ、二人とも仲良いし、お似合いだよ」


ビキビキビキ……

音を立てて世界が凍っていく……


終わった……完全に終わった……


「葉山くん」

「は、はい!」

「葉山くんは本当に龍臣くんのこと好きなの?」


だから俺に振らないでくれよ!

この状況に一番パニクってるの俺なんだからっ!


「……龍臣さん優しいし、かっこいいし……」

「なんだよ、海凪、照れるじゃん」

龍臣さんが更に俺の肩を強く抱く。


もう龍臣さんに絆されてもいいかも……

このまま流されてしまえ……

春臣とはちょっと違う、大人の逞しさが加味されたイケメンパワーが強すぎる。


「それは憧れでしょ? 好きとは違うでしょ?」


吉沢先輩、強い。

恋する女の子ってメンタル鋼でできてんの?


「なに疑ってんの?」

「だっていきなり彼と付き合ってるとか言われても信じられないもん」


吉沢先輩、正解なんです。

信じなくていいんです。


「証拠見せろってことか」


証拠とは?


龍臣さんの顔が近づく。


待て……

待って……

これキスされる?

やばいって!

それはさすがにやりすぎだってば!

近い、近い、近い!


意識が飛びそうになった瞬間、

ガッ! と俺の顔になにか当たる。

痛え!

なんか当たってる! 痛え!


「やりすぎ、ここファミレスだよ」


氷の声と共に春臣が龍臣さんと俺の間にメニューを差し込んだ。

つーか、俺の顔に刺さってんだけど!


顔痛えし、なにがなんだかわからないし、泣きたい。


龍臣さんが震えてる。

メニューぶっ刺した春臣に怒ってんのか?

それともなかなか諦めない吉沢先輩に怒ってんのか?


龍臣さんはちょっと俯きながら、

「もう俺のことは諦めろ」

と吉沢先輩に告げる。


「そんなに私のことが嫌い?」

龍臣さんはもうなにも言わない。


「私、これ以上龍臣くんに嫌われたくない。

付き合えなくてもいいから嫌われるのは嫌」

「……」

「お願い、龍臣くん。嘘だけはやめて……」

健気すぎる……先輩、いい子じゃないか……


「ごめんな」


「……困らせてごめんなさい」


やっと修羅場が終わる……解放される……

いや、春臣は誤解したままだ。

状況は変わってないどころか悪化してるんだった。


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