腹に収める
それから春臣と家を出て、飯を食いに行った。
家で食べたら? と母さんが言ってくれたが、雪海がアピれとうるさいので外で食べることにした。
「春臣は定食屋とか行く?」
「行くよ、綾人とか大介とかとよく行く」
「へえ、そういう店行かないのかと思った」
「なんで?」
ほら、また、なんで? が出た。
「お前、パンケーキ食べてそうだもん」
「パンケーキは好きだけど、食った気しない」
「それは言える」
「全然足りない」
「まあな」
「食べるならがっつり食べたいんだよね」
「じゃあ定食屋でいい? 美味い店あるんだよ」
「行きたい」
駅前の細い路地を入ったところにある小さな定食屋へ行く。
「ここ?」
「そう」
店に入る。
「いらっしゃいませー!」
「もう美味そうな匂いしてる」
「だろ? 美味いんだよ」
「なに食う?」
「ここ、しょうが焼きある?」
俺たちの会話が聞こえたのか、ホールのお兄さんが、
「あるよー」
と返事をする。
「あれ? 葉山くんじゃない。イケメンくん一緒だから別人かと思った」
と揶揄うのは、ホールのお兄さんこと、学さんだ。
「こんばんは」
「葉山くん、なにかの罰ゲーム?」
「どういう意味ですかw」
「だってどえらいイケメンと一緒だからさ」
「友達です」
「嘘でしょ?w」
「嘘じゃないですってば、なあ?」
春臣にヘルプを求める。
「友達です」
と春臣も笑いながら同意してくれる。
「大丈夫? 罰ゲームじゃない?」
「違いますw」
「学、喋ってないで運べ!」
「あーい、ったくうるせえなあ」
「なんか言ったか?」
「なーんも言ってませーん」
飄々と厨房へ向かう。
その学さんがくるっと振り向くと、
「うちのしょうが焼き、俺の最推し」
と春臣に言う。
「じゃあ、俺、しょうが焼き定食お願いします」
「あいよ、葉山くんは?」
「俺も同じの」
「毎度!」
「賑やかな人だねw」
「学さんっていうんだ。ここ中学の頃から来てるんだけど、その時からいるんだよ」
「へえ」
「厨房の人とは親子なのかな?」
学さんと親父さんが口喧嘩してる。
「ああwあれはいつものことだからw
学さんと親父さん、親子みたいだろ? でも赤の他人なんだって」
「仲良いね」
「あれ、仲良いのか?」
「あんなに言いたい放題言い合えるのは仲良いからでしょ?」
「そういう見方もあるのか」
じゃあ、俺たちも言いたいこと言い合えたら、もっと仲良くなれるのか?
不安はなくなるのか?
その言葉は飲み込んだ。
「はいよ、しょうが焼き定食」
「美味そう」
「イケメンくん、美味いんだよ、食ってみて」
「はい、いただきます」
さっそく食べ始める春臣。
「うまっ! 好きな味付け、美味い!」
「なんでしょうが焼きにしたんだ? 学さんに勧められたから?」
「ん? 違う。しょうが焼きが美味しい店は他のものも美味しい店だと思ってるから」
「しょうが焼きが春臣の指標なのか?」
「そう」
「なんだそりゃw」
「絶対正しいと思うんだよね、実際、この店の美味いから他のも美味いと思う」
「言い切ったな」
「だから次に来た時は違うの食べる。証明する」
「ムキになってるw」
「絶対俺が正しい」
「お前、頑固だよなあ」
「ありがとうございましたー!」
元気な学さんの声に見送られて店を出る。
「美味かったあ」
「だろ?」
「美味しい店教えてくれてありがとう」
「こういう店なら他にも知ってるよ」
「え、行きたい」
「今から?」
「今からのわけないじゃん、腹いっぱいだよw」
「だよなw」
「俺、コンビニ行って振込してくる」
「あ、そっか。フィギュアの代金な」
「うん」
さっきのを思い出して春臣がにまにましてる。
「出来上がるのが楽しみ」
嬉しそうだな。
「なあ、俺にも払わせてくれよ」
「さっき話したのに」
「いや、だって金額でかいし、俺も龍臣さんになにかしたいし」
「海凪が教えてくれたって、ちゃんと伝えるよ」
「でもさ」
「いいから」
春臣はコンビニで支払いを済ませる。
「本当、頑固な」
「頑固じゃない」
これ以上は言っても無駄そうだ。
駅に着く。
「海凪、ありがとね。楽しかった」
「また来いよ」
「うん、行きたい」
「じゃあまた学校でな」
「うん、バイバイ」
春臣は改札の中に消えた。
ちゃんと友達として振る舞えてたよな?
拗らせてないよな?
俺たち大丈夫だよな?
春臣と俺の部屋で言い争いになった時に、壊れそうで泣きそうになった。
でも壊さない。
壊したくないから友たちだっていい。
春臣が俺以外の誰を好きかなんて知りたくない。
だから、これでいい。
楽しかった。
海凪といるとやっぱり楽しい。
なのに、どうして話を聞いてくれないんだろう。
俺の話をまともに聞いてくれない。
海凪は俺のこと頑固だっていうけど、海凪の方が頑固なの、絶対わかってないよね。
誤解なのに。
いくら言っても聞いてくれないのなら、
まず俺がすべきはこっちだ。




