想定外
春臣がホッとした顔をする。
「あとで振り込みに行かないとね」
「お前、金大丈夫か?」
「バニーコイン使えたし、貯金あるから大丈夫だよ」
「俺にも払わせろ」
「それなんだけど、やっぱり俺一人で払っていいかな?」
「なんで? さっき一緒に就職祝いしようって言ったじゃんよ」
「うん、そうなんだけど、これは俺一人で払いたいんだ。兄ちゃんに俺がプレゼントしたい」
「俺だって祝いたいんだよ」
「わがままでごめん。海凪、この店を教えてくれてありがとう。いいプレゼントできそう」
ずるいよなあ、そんな心底嬉しそうな顔されたらなにも言えないじゃん。
「わかった。春臣の気持ちもわかるからそうしよう」
「ごめん、ありがとう」
「その代わり、俺にもなにかさせてくれよ。それはいいだろ?」
「海凪が兄ちゃんに?」
「そう」
「兄ちゃん喜ぶよ」
「じゃあ、完成まで龍臣さんには内緒ってことで」
「うん」
「春臣、絶対言うなよ」
「言わないよ」
「お前はポロッと言いそうだからなあ」
「大丈夫、言わない」
「俺が口塞いどいてやるよ」
「え?」
春臣にそっとキスする。
「ずるくない?」
「口塞がないとね、秘密だから」
ふっ
「完成するまでずっと塞ぐの?w」
「俺はそれでもいいよ」
「本当、バカだなw」
ダメだ、なんかスイッチ入った気がする。
春臣をベッドへ押し倒す。
「なにする気?」
綺麗な顔が真っ直ぐ俺を見る。
「進級するまでキスも禁止のはずだよ」
怒ってるような、笑ってるような、揶揄ってるような……
「俺、春臣好きだよ」
「……」
「かわいくて優しい、誰にも渡したくない」
「……」
「だから先に進みたい……進ませて」
春臣の腕を押さえつける。
俺は経験がない、知識でしかセックスを知らない。
その情報も正しいのかどうかわからない。
それでも俺は春臣と……
ドキドキが止まってくれない。
ここからどうすればいいのか、頭ではわかっていてもなかなか動けない。
キスしたら本能が働いてくれるかな……
その瞬間、体勢を入れ替えられた。
俺が春臣に押さえつけられてる。
え?
ええ?
「なんでそんな顔してんの?」
え、だって……
「俺に抱かれるって想像はしてなかった?」
だって……俺、男だし……
あ……二人とも男だから、どちらかは……
そこまで考えてなかった……
いや、違う。
俺が抱かれる方を想定していなかった。
「今ここで海凪を抱こうなんて思ってない。だって、こういう想像できてないでしょ? 俺たち、なにも想定してないでしょ? だからキスも控えたんだよ。
俺だって男だし、キスしたらそれなりそういう気分になるよ。
でも、俺たちはまだ始まったばかりだし、まだいろいろ越えないといけないものもある」
春臣が俺を抑えてる力を緩める。
「ゆっくりじゃダメなのかな、俺たち」
「……」
「海凪は無理そう?」
春臣の言うとおりだ。
俺が性欲丸出しだっただけだ。
「ごめん……俺……」
「無理なら友達に戻ろう」
え?
「俺は海凪となら友達でも恋人でもいいよ」
なんだよ、それ。
どうして恋人がいいって言わないんだよ。
吉沢先輩のことが頭をよぎる。
「……好きな人がいるから?」
「え?」
「春臣、好きな人がいるんだろ?」
「え? なに言ってんの?」
「他に好きな人がいるから俺とは友達でいたいんだろっ!」
「海凪、なに言ってるのかわからないよ」
「吉沢先輩のことが好きなんだろ?」
ほら、黙ったじゃないか。
「なんで?」
「なんで?ってなんだよ、好きだから、図星だから黙ったんだろ?」
「海凪、なにか誤解してない?」
「してないよ、俺聞いたから」
「なにを?」
「俺だけじゃない、上村も聞いた」
「綾人?」
「吉沢先輩とは委員会が一緒ってだけじゃないのかよ」
「そうだよ、図書委員だよ」
「違うだろ」
「なにが違うの?」
まだ認めないのかよ、俺に言わせるのかよ……
「吉沢先輩に『まだ好きか?』って聞かれて、お前『好きだよ』って答えただろ」
「え……」
「俺も上村も聞いたんだよ」
「あ……」
なんで口籠るんだ。
なんで否定しないんだ。
「わかった。もういい、友達に戻ろう」
「え?」
「お前が言ったんだぞ、無理なら友達に戻ろうって」
「言ったけど、ちょっと待って。海凪誤解してるよ」
「言い訳すんのか?」
「そうじゃないよ、海凪、勘違いしてる」
「吉沢先輩のこと好きって言ったのは誤解じゃないだろ? お前がそう言ったの聞いたんだから」
「待ってってば。それが誤解なの」
「もういい、聞きたくない」
「麗ちゃんとはなんでもないよ」
「麗ちゃん? 麗ちゃんってなに? なんで吉沢先輩のこと名前で呼んでんの? 好きだからだろ? それとも付き合ってんの?」
「違うって」
「違うならなんで名前で呼ぶんだよ!」
「だからそれを説明するから聞いて」
「お前の好きな人の話なんか聞きたくない」
「聞けよ」
「やだ」
「聞けって」
「やだ! これ以上ぎくしゃくしたくない。友達でいられるなら友達でいさせてくれよ。春臣のこと好きなままでいさせてくれよ。
嫌いになんてなれないから……
春臣が誰を好きでも想うくらいはいいだろ?」
「なんで聞いてくれないんだよ……」
「はいっ! 終わり! 春臣、遊ぼうぜ」
重い空気が耐えられない、本当なら逃げ出したい。
でもダメでも友達ではいたいんだ。
だから無理矢理でも俺は空気変える。




