セキュリティ
春臣はフィギュアを作りたくて自分もログインする。
MIOはいつ見てもかわいいなあ。
「MIOはオリジナルで作るの?」
「そうしようかなと思ってるんだけど、これって自分以外は作れないんだよね?」
「まあ、そうだな。IDとパスワード入れないとダメだし、3Dで読み取るのに本人いないとできないし」
「そっか……ってことはIDとパスワードがわかればいいってことだよね?」
「ん? どういうこと?」
「兄ちゃんのも作りたい」
「JINさんのフィギュア?」
「そう」
「JINさんとMIOが組んでるから?」
「それもあるけど……兄ちゃんにまだ就職祝い渡してないから、これあげたら喜ぶかなって」
「確かに」
龍臣さんは今大学4年、いつもゲームしてるから就活大丈夫なのかな? と思って聞いたことがある。
随分早い時期に内定を貰ってると言っていた。
これだけゲーム好きだと、やっぱりゲーム関係の仕事なのかなと思ったら全然違った。
うっすら名前を知ってる化学メーカーだった。
「どうしてそこを選んだんですか?」
と聞いたら、
「給料高い、福利厚生充実、残業少ない、休みが多い、有給取りやすい」
と返ってきた。
え? 理由そこなの?
俺は露骨に顔に出してたらしい。
龍臣さんは笑って、
「だよな、そこかよって思うよな。
もちろん業務内容に興味があるのは当たり前だけど、俺が今言った部分ってモチベーションに繋がるところでしょ?
それが保てないと俺は多分続かない」
「確かにそうかも……でも大手からも内定貰ったんですよね? どうして選ばなかったんですか?」
「この業界ではトップクラスなんだけど知名度だけで低く見られてるだけだよ」
「そうなんだ」
「俺はまだまだゲームやっていたいから、ちゃんと休みは欲しいんだよ」
「ゲーム関係の会社は選ばなかったんですか?」
「全く行く気なかったね。趣味を仕事にするのは絶対俺はダメなタイプ。それが向いてる人もいるけど俺は趣味としてゲームを楽しみたいから、賞金を得たりすることを禁じてないここを選んだ」
後でその会社をこっそり調べたら龍臣さんが言ったとおり、知名度が大手に比べて低いというだけでその業界のトップクラスだった。
名前にこだわらない、中身で決める。
龍臣さんらしい選択だ。
「そうだな、俺もお祝いまだしてない」
「だから兄ちゃんにフィギュア作ってあげたい」
ふっ
「お前、優しいな」
「っ! そんなんじゃないし!」
春臣めっちゃ照れてる。
かわいい!
「それなら俺も加わりたい」
「え? いいの?」
「俺だって龍臣さんには世話になってるし」
春臣がにっこり微笑む。
かわいい……
「どうせ作るならJINさんとMIOセットにした方が喜ぶんじゃない?」
「あ、そうかも」
「絶対そうだよ」
春臣の分身のMIOフィギュアを龍臣さんが喜ばないはずがない。
「でも、ダメか」
「なんで?」
「だってIDとパスワードないとダメだし、JINさんここに連れてこないと3Dで読み取れないじゃん」
「兄ちゃんのIDとパスワードは知ってるよ」
「は?」
「お互いの知ってる。だから兄ちゃんが勝手にMIOの設定いじったりするし、時々俺がJIN使ったりするし」
「セキュリティ、ガバガバだな」
「だって兄ちゃんだし、別に困らないし」
「でも、ここにJINさん連れてこないとダメだよ?」
「ちょっと待ってね」
春臣がスマホを取り出す。
電話をかける。
「あ、兄ちゃん? ねえ、JIN使ってもいい? ん? 海凪といる。戦バニやってる。使ってもいい? うん、わかった、ありがとう。じゃあね」
「使っていいって」
「いいのかよw」
「フィギュア作るのは言ってないけど大丈夫だよ」
まあ、本人の使用許可は取ってるし、悪用するわけではないからいいか。
今日龍臣さんは友達の引っ越しを手伝いに行ってるらしい。
「ねえ、見て」
春臣が自分のスマホの連絡先を見せる。
「全然増えてない」
「本当だw」
前に全削除して、新しい番号に変えてから200人以上いたのを20人くらいまで減らしたままで、全く増えていない。
「快適すぎる」
と春臣は満足そうにしてる。
俺も増えないでほしいと思ってるよ、心配だから。
明け透けな春臣に安心しつつ、ふとこの前のことを思い出した。
吉沢先輩。
春臣は麗ちゃんと言っていた。
その連絡先の中に、その名前を探す。
いない。
ホッとした。
心の底からホッとした。
俺はどうしてこんなに気になってるんだろう。




