フィギュア
「ねえねえ! なにこれ!?」
部屋に戻ると春臣が興奮してる。
なんかあったっけ?
春臣がフィギュアを指差してる。
ああ、それか。
「これ、NAGIだよね?」
「そう、かわいいでしょ」
手のひらに乗るくらいの精巧にできたNAGIのフィギュアだ。
「かわいい! なんで? 売ってんの?」
「売ってるというか、戦バニの中のフィギュア店知ってる? そこで作ってもらえるんだよ」
「嘘!? そんなの知らない!」
めっちゃフィギュアに食いついてる。
ウケる。
「待って、教える」
「教えて!」
戦バニにログインする。
「小さい町にはないんだよ、割と大きめの町にあるかな。えーと……俺が作ったのはこの町だな」
とある町に入り、当時の記憶を辿る。
「この辺だったかな」
「なんで海凪は知ってるの?」
「対戦した人に教えてもらったんだよ。対戦した後、世間話してたら、
『自分のだけじゃなく、推しのバニーちゃんのフィギュアも作れるといいのになあ』って言ってて、なにそれ?って聞いたら、フィギュア作れるって教えてくれた」
「これ、みんな知ってるのかな?」
「いや、あんまり知られてないみたい。あー、ここだ」
「うわっ! わかりにくい」
「この町のこの店が特にわかりにくいんだよ。看板もフィギュア店じゃなくてカタカナで『トイ』だから、一瞬トイレだと思うじゃん」
「確かに」
「入ってみるね」
「うん」
NAGIが店内に入る。
誰もいない。
「店の人いないよ?」
「無人なんだよ」
「そうなの?」
店内にはたくさんのフィギュアが画像で映し出されているだけだ。
カウンターにある青いボタンを押す。
すると目の前に画面が表示される。
『いらっしゃいませ、こちらはフィギュア専門店トイです。
この店では個人の利用目的で楽しむためのフィギュアを作成することができます。
料金設定、制作期間などは概要をご覧ください。
こちらの規約をお読みいただき、了承していただけると作成画面へ移動します』
規約を読み、了承ボタンを押す。
すると、戦バニのアカウントIDとパスワードを入力する画面になる。
「これを入力しないと作ってもらえないから他人のは作れないんだよ」
「なるほど」
IDとパスワードを入力すると、店内に丸い台が現れる。
「なにこれ?」
「これに乗ると3Dカメラで読み取ってくれる」
「マジか」
「乗ってみるね」
機械音がする、案内の音声が聞こえる。
「台の中心の✕印が体の中心になるように乗ってください」
「もう少し右です」
「はい、そのまま少しお待ちください」
ウィーンと音は聞こえるけど、どこから読み取ってるのかはわからない。
「お疲れ様でした」
そう声がすると台が消える。
「これでいいの?」
「そう」
また画面が表示される。
『こちらのメニューから選択してください』
そこには今読み取ったNAGIの画像と、大きさ、素材などが細かく書かれたメニュー一覧が出てくる。
「例えば、俺が作ったフィギュアと同じにするなら……大きさは10cm、素材はよくフィギュアに使われてるPVCにして……」
「うん」
春臣が興味津々で聞いている。
「今、NAGIはグレーのツナギ着てるでしょ?」
「うん」
「これを違う色に替えることもできる。試しにピンクにしてみるね」
カラーチャートからピンクを選んでクリックするとNAGIが着ているグレーのツナギがピンクに変わった。
「すげー! ピンクいいね」
「試しにやってみたけどピンクいいな」
「うん」
「こんな感じで靴とか持ち物も好きな色に変えられる。もちろんオリジナルのままでもいいんだけど」
「うんうん」
「メニューを選んだら、自分の住所と名前、電話番号を入力する」
「うん」
「俺のはフィギュアとしては一般的なものだし、大きさも小さめのにしたから一ヶ月かからないくらいで届いたよ」
「意外と早いね」
「そう、早かった」
「これ、料金はどうやって払うの?」
「確か代引きは不可で、銀行振り込みかコンビニ払い、電子マネー、クレカだったかな?」
「バニーコインは?」
「戦バニってさ、武器とかコスチュームとか賞金のバニーコインで買えるでしょ?」
「うん、便利だよね。使えるの?」
「それはさ、戦バニの中だけで流通してるゲームコインでしょ?」
「うん」
「このフィギュアは実物なんだよね」
「うん」
「だからバニーコインは使えない」
「そっかあ、結構バニーコイン貯まってるんだよね」
「あれだけJINさんと勝ちまくってれば貯まるよな」
「コスチュームかジムにしか使わないからね」
「でね、この店ってゲーム内にあるけど、売ってるものはリアルじゃん?」
「うん」
「相当信頼できる人しか店出せないんだって。審査がめちゃくちゃ厳しいんだって対戦した人が教えてくれた」
「そりゃそうだよね」
「でしょ? 詐欺とかぼったくりとかあったら運営が困るわけよ」
「うん」
「だから出店するのに金かかるんだって」
「うん」
「出店する側も運営側もリスクあるから、当然と言えば当然だよな」
「うん」
「でもね、言ったらここはバーチャルとリアルの狭間みたいな店じゃない?」
「うん」
「だから出店料はバニーコインでもOKなんだよ」
「へえ……ん? 待ってよ、おかしい」
「なにが?」
「だって信用問題なんでしょ?」
「そう」
「なのにバーチャルのバニーコインでいいの?」
「春臣、鋭い!」
「だってそうじゃない?」
「そのとおり。出店料は実際どのくらいなのかは知らないんだけど、仮に月に1万だとするじゃん?」
「うん」
「リアルマネーで払えば1万で、バニーコインで払いたい場合は10万っていう、10倍ルールがあるんだってさ。
バーチャルのバニーコインは信用度が低いからわざと10倍設定にしてて、10万捨てるような真似して詐欺とかぼったくりしても、身バレするしメリット一つもないよ、それでもバニーコインで払いたいなら10倍だけどいい?ってことみたい」
「10万のバニーコインってそう簡単に貯められないよ?」
「そうだよな。バニーコインよりリアルマネーの方が断然安いから当然そっちを利用する人が多いし、その支払いはクレカのみで、出店者は身分証明書を運営に送って身分が保証されないと認定してもらえない」
「厳しいけど、それくらいじゃないと信用できないよね」
「うん、もしなにかあったら、その出店者のID、パスワード、名前、住所全て公表されちゃう。だからこっちは安心して作れるし、それだけ厳しいから店自体がすごく少ないんだよ」
「なるほど……なんでその対戦者の人はそんなに詳しいの?」
「お前、本当にそういうことは鋭いな」
「ん?」
「いつもボーッとしてんのに」
「してない」
「自覚無しなのが怖いんだよ」
「で、なんで詳しいの?
「その人、ここの店主」
「マジか!?」
「内緒だよって教えてくれた」
「俺に話してるじゃんw」
「春臣ならいいでしょ。他の対戦者と会話しないし」
「まあ」
「ご贔屓にだってw」
「ふはは」
「でね、バニーコインの使い道なんだけど」
「使えないんでしょ?」
「この店だけかもしれないけど、メニューにオプションってあるだろ?」
「あるね」
「オプションの追加料金にだけバニーコイン使える。フィギュアそのものじゃないから」
「へえ! それならオプションつけたい」
「え? 作るの?」
「作りたい、海凪だけずるい」
「それ、ずるいって言うか?w」
「教えてくれなかったじゃん、ずるい」
「戦バニの覇者みたいな二人だから知ってると思ったんだよ」
「意外と知らないこと多いよ」
「他の人と交流しないからだよ」
「それはある」




