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疑念

俺は放課後も図書室をこっそり覗きに行った。

混んではいたが、昼休みよりはマシな状態だった。

昼休みに引っ張り出してきた古いバーコードリーダーがなんとか機能してくれたようで、何冊か読み取れない本もあったが大半は読み取れて手続きはスムーズだった。

図書室を出てくる女子たちは、

「昼休みに来れば良かったなあ、神野くんに手書きで書いてもらえたのに」

とバーコードリーダーの復活を良しとしない者もいた。


わかるよ。

だって、バーコードでピッと一瞬で終わる手続きが手書きだと数分かかってしまう。

すると春臣が、

「待たせてしまってすみません」

と謝るのと同時に微笑むのだ。

全サの終了後、久しぶりの春臣のサービス(本人無自覚)にやられる女子続出だった。

一瞬俺も並ぼうかと思ったけど、ここで蕩けるわけにはいかないので耐えた。


しかも一緒に図書委員をしているのはY高一の美女、吉沢先輩だ。

こちらもファンがいないわけがない。

もじもじしてる男どもがバーコードリーダーを手にする吉沢先輩側に並んでる。

謂わばY高の美男美女二大巨頭といったところか。


結局、最後まで見届けてしまった。

俺、なにしてんだ。

なんか虚しい……帰ろ。


春臣たちも帰るらしい。

門のところで待ってようかな。

こんな時間までいたら不自然だよな、どうしようかな。


もたもたしてたら、春臣と吉沢先輩が校舎から出てきた。

なぜか咄嗟に隠れてしまった。

なんとなく入り込めない雰囲気だったからだ。


「お前、なにしてんだ?」


「うおおっ!」


誰だよ!?

不意に声をかけられビビりまくってる俺に、

「お前、なにしてんだ?」

と再度聞いてきたのは上村だった。


「いきなり声かけんなよっ!」

「葉山がこそこそしてるからなにやってんのかなあと思って」

「上村こそなにしてんだよ」

「それがよ、放課後、教室にいたら柿本(かきもと)に資料室の整理手伝ってくれって言われてさ。くそ面倒じゃん? 嫌だよって逃げようとしたら俺と石井(いしい)多田(ただ)が捕まった」

柿本は上村たちの担任だ。

「あれ? 柳木は?」

「あの野郎、一人で逃げやがった」

「ウケるw」

「で、今までやらされてた」

「お疲れさんw」

「そんで葉山はなにしてんのよ?」

「いやあ……」

昼休みと放課後に見たことを上村に話した。


「お前、暇だな」

「俺もそう思う」

「で?」

「ん?」

「今お前はなにしてんだ?」

「うーん、春臣と帰ろうかなと思ったけど、なんで俺がこの時間までいるんだって聞かれたら困るし、どうしようかなと思ったら、吉沢先輩と二人で出てきたから、ますますどうしようかなと……」

「まさかストーカーしてましたとは言えねえわな」

「ストーカーじゃないし」

「立派なストーカーだろ」


上村と話してる間に、春臣たちは門から出ていく。

上村がにやりと笑う。

「追うか?」

「行く」


春臣たちの少し後ろをついて行く。


周りからは、

「神野くん、吉沢先輩と付き合ってんの!?」

「仲良さそう」

「お似合いすぎて目の保養にしかならん」

という声がちらほら聞こえてくる。


「春と一緒にいるの吉沢って先輩だよな?」

「そう」

「たまに校内ですれ違ったりすると、『春くん』って手振ってたりしてるな」

「そうなの?」

「春も『どーも』とか挨拶は返してるよ。知り合いっぽいけど、どういう知り合いなのかは知らねえな」

「へえ……」


やっぱり仲は良さそうだ。


春臣たちは何か話してる。

少し離れてるので全部は聞き取れないが、バーコード云々とは聞こえたから、図書委員の話だろう。


しばらくすると、二人が黙った。

会話が一区切りしたのだろうか。


吉沢先輩が春臣に話しかける。


「ねえ……まだ好き?」


「好きだよ」


春臣が先輩に答える。


え?


思わず上村と顔を見合わせる。

上村が小声で、

「どういうこと?」

と俺に聞く。

「俺もわからない……」

「春が吉沢先輩と付き合ってるってことか?」

上村が核心をついた。

「……俺は聞いてない」

「俺も知らねえ」


「でも、最近の春、ちょっと前と違う感じがするんだよな」

「違う?」

「柳木とも話してたんだけど、彼女でもできたのかもな」

「へえ……」

上村には春臣と付き合ってることは言えない。

春臣との約束だから。


「葉山、聞いてねえの?」

「知らない」

「そうなのか。じゃああの先輩と付き合ってるってことなんかな」

「知らねえって!」

俺はもやもやとイライラとやるせ無さといろんな感情がいっぺんに来て、声を荒げてしまった。

「葉山どうした?」

「知らねえもんは知らねえ!」

上村は何も悪くないのに、これじゃ八つ当たりみたいだ……最悪だ……


大きい声を出してしまったので、周りにいた人たちも、

「なに?」

と振り返る。


春臣たちにも聞こえたようだ。

「綾人? あれ? 海凪もいる」

「よう」

上村が春臣に応える。


吉沢先輩は、

「じゃあ私行くね、春くん、お疲れさま」

(れい)ちゃん、お疲れさま」


麗ちゃん?

麗ちゃん??

名前呼び?


「なんで二人?」

春臣がいつものようにのほほんとした顔で聞く。

「たまたま残ってて、そこで一緒になった」

上村が返事をする。

「そうなんだ」

「春は委員だろ?」

「そう、トラブルで疲れた」

「お疲れ」

「来週もあるよ」

「来週いっぱいまでか、だるいな」

「だるい」

「どっか寄るか?」

「腹減った、家までもたない」

「わかるわ」

「海凪も行くよね?」

無邪気な綺麗な顔で俺の顔を覗き込む。


行きたくない。

こんな気持ちで行きたくない。

でも今一人でいたらもっと嫌な方向に考えてしまう。


「行く」


駅前のマックで軽く腹に入れる。

上村の資料室片付け話が思いの外面白くて笑った。

資料室というよりなんでも部屋で、訳のわからないものが次から次へと出てきて、一番盛り上がったのは交換日記が出てきたことだ。

資料室で受け渡しをしているようで、中身を見て誰と誰の交換日記なんだ? と盛り上がったらしい。

下の名前しか書いてないから目星はつけたが確証がなく、俄然真相を知りたくなり調べることにしたという。

悪趣味極まりないが、めっちゃ面白そう。


上村とは路線が違うので駅で別れる。

春臣とは同じ路線だから途中まで一緒に帰ることになる。


「ちょっと食べすぎたかも。

母さんに何も言ってないから夕飯いらないって言ったら怒りそう」

と春臣は今更お母さんにLINEをしていた。


また昼休みからさっきまでの二人の様子を思い出してしまった。


悶々とする。


取られる……

春臣を吉沢先輩に取られる。

どうしよう……


スカウトされる美女、吉沢先輩。

限界値知らずのイケメン春臣。

お似合いすぎる。

中の中、並、平凡なギラギラ顔面チンコの俺なんて太刀打ちできないじゃん。


どうしよう……


もっとしっかり二人の繋がりを強くできれば、こんな不安にならないよな……

きっとこの先も春臣といる限り、俺はコンプレックスに苛まれるだろう。

そこは俺の問題であって二人の問題ではない。

それにそこは承知の上だから、せめて関係性の不安は無くしたい。


まず吉沢先輩との関係を知りたい。

はっきりさせたい。


俺は焦っていた。

猛烈に焦っていた。


「なあ、春臣」

「ん?」

「今週末、暇か?」

「ん? 特に予定ないよ。戦バニやる?」

「んー、というかうちに来ない?」

「え?」

「うち、来たことないよな?」

「うん」

「来る?」

「行く」

春臣、嬉しそう。

ちょっとホッとする。

「待ち合わせの時間とかはあとでLINEするよ」

「わかった」


話をしよう。

ちゃんと話をすればいいんだ。

そうすれば俺の杞憂なんて消えるはずなんだ。



この時の俺はこれがとんでもないことになるとも知らずに。

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