ギラギラのガァッ!
ある日の登校時、急行を逃した俺は次の各駅に乗った。
各駅は割と空いている。
ギリ遅刻はしないからのんびり行くか。
「お兄ちゃん!」
と声がする。
おっ! 伊織くんだ。
ちょっと久しぶりだね。
「おはよう」
「おはようございます!」
いい挨拶だ。
伊織くんの隣が空いてたので座る。
「もうすぐ2年生になるんだね」
「うん! 遅い電車に慣れてきたから、休みの日にお父さんとお母さんと一緒に速い電車に乗る練習してる」
あの一件以来、伊織くんは急行には乗らず各駅停車に乗っている。
「そっか」
「お父さんがね、『速い電車に乗りたくない時は遅い電車でも間に合うから伊織が選べばいいんだよ』って言ってた」
「うん、そうだよね。好きな方に乗ればいいんだよね」
「うん!」
きっとお父さんは、ふとあの時のことを思い出して伊織くんが辛くなってしまった時のことを考えて、どちらでもいいんだよと選択肢を作ってあげたんだな。
いいご両親だよなあ。
「僕ね、電車好きだから遅いの好きなの、たくさん乗れるから」
「そっか」
電車が嫌いになっていないのは救いだな。
「でもね、速いのも好きなの、速いから」
「そっかw」
「お兄ちゃんはもう電車乗らない?」
「ん?」
「電車終わり?」
あ、卒業するのか?ってことかな。
「今度高校3年生になるよ、まだ電車乗るよ」
伊織くんの顔がパァッと明るくなる。
「またお兄ちゃんと一緒に乗れるね!」
「そうだねw」
時々会う伊織くんとは年齢が10歳くらい違うけど話してて楽しい。
なにしろ素直でかわいい。
伊織くんは正月に年賀状を送ってくれた。
かわいらしい字で、
『あけましておめでとうございます。
お兄ちゃんがでん車にいてくれると、ぼくはうれしいです』
と書いてあった。
その横には伊織くんが描いたと見られる干支の絵が添えられていた。
こんなの感激するでしょ。
住所は間違えないようにお母さんが書いたみたいだ。
手書きの綺麗な字だった。
ちゃんとしてるなあ。
俺はすぐさま伊織くんに返事を書いた。
来年は俺から出そう。
こんな小さな繋がりがずっと続くといいな、なんて思いながら返事の葉書をポストに入れた。
その素直な伊織くんが俺の顔をじっと見る。
「ん? どうした?」
「お兄ちゃん、ニンニク食べた?」
んん?
「え? 俺臭い?」
あれ? ニンニクなんて食べてないぞ?
しかも朝だし。
「ううん、臭くないよ」
「え? なに?」
伊織くんは考え込む。
どうした?
「あのね、ニンニク食べるとスタミナがつくんだって。お父さん時々食べるよ」
「うん?」
なんだ? どうした伊織くん。
「でね、スタミナってね、元気が出るってことなんだって」
「うん、そうだね」
ますますわからん。
「スタミナがついて元気が出ると、力が出て、顔がこう……ガァッ!って感じになるんだって」
「うんw」
意味わかんないけど一生懸命説明してる伊織くんがかわいい。
「お兄ちゃん、ニンニク食べた時のお父さんみたい」
は?
近くにいる人たち、聞く気は全く無いのだろうけど、聞こえてきてしまう会話を聞いてうっすら笑ってる。
前に立ってるOLさんかな? 完全に笑ってるよね?
「え……ニンニク臭いってこと?」
「違うよ! ガァッ! だよ」
わからんww
一般的にニンニク食べると元気になるというか、精力つくというか……
あ、もしかしてギラギラ?
ギンギンと迷ったけど、前に伊織くんのお父さんと電話で話をした時、優しそうで上品で誠実な印象の人だったからギンギンはないな。
「ねえ、伊織くん、それってギラギラってこと?」
伊織くんは、
「ギラギラ! お父さんそう言ってた!
ニンニク食べるとギラギラするんだぞって言ってた!」
やっと答えが導き出せた。
周りの乗客も笑いながら、なるほどとか小声で言ってるし。
んん?
ギラギラ?
ニンニク食べてもいない俺がそれだと言うのか?
「伊織くん?」
「ん? なに?」
正解が出て嬉しそうにしてる伊織くん。
「俺、ギラギラしてんの?」
「うん、ギラギラのガァッ!」
周りの人たちが、ぶはっと吹き出すのがはっきり聞こえたぞ。
「でもお兄ちゃんニンニク食べてないんでしょ?」
「うん、食べてないね」
「おかしいね」
「おかしいな」
うふふふと伊織くんは笑ってる。
周りの人たちも声を出さずに笑ってる。
伊織くんの学校のある駅に着く。
「お兄ちゃん、またね! バイバイ!」
元気よく手を振って笑顔で電車を降りていく。
「またな」
俺も手を振る。
一人になって冷静になる。
ギラギラ?
いや、おかしいだろ、伊織くん。
俺ギラついてんの?
伊織くんにはそう見えたってことだよな?
ギラギラしてるってなに?
ギラギラしてる、精力漲っているってことだよな?
それってつまり……どういうこと?




