蜜の味
一度覚えた蜜の味というのは恐ろしいもので、すっかり脳がドロドロにされてしまった。
要するにキスしたくてたまらない。
もちろん誰でもいいわけない。
春臣だからだ。
春臣の顔を見るたびに、またあの蕩けるような甘いキスをしてくれないかなあ、なんて思っちゃう。
つい唇をじっと見ちゃう。
「いい?」
「やだよ」
10回に9.5回は断られる。
0.5回は投げやりな投げキッス。
「はいはい、うるさいな」
と言って、唇に指を当ててキスをぶん投げる。
なんでだよおおお
しかし、戦バニやった後はチャンスなんだ。
無双状態のJINさんをいつかMIO一人で倒したいという目標のある春臣は時々JINさんと対マン勝負する。
勝負するたびに付き合わされる。
春臣が、
「歴史的瞬間に立ち会わせてあげる」
と俺に言うのだ。
俺が知る限りでは5戦5勝でMIOの勝ち。
圧勝だ。
勝ててはいる、無敗。
それもそのはず、JINさんが手を抜きまくり。
MIOはマジモードなのにJINさんは終始デレモード。
というか龍臣さんがデレッデレ。
果敢に攻めてくるMIOがかわいくて仕方ないようで、されるがままになっている。
たまにちょっとだけ抵抗すると、MIOがムキになるからそれを見てまたデレデレしてる。
一度なんて自らMIOの手を取り、自分の急所である額をひと突きさせ失神、自滅のような負け方をしたことがある。
さすがにこれはどうなんだと俺でも思うくらいだから、春臣がブチギレたのもよくわかる。
「縁切るぞ!」
と春臣に凄まれた龍臣さんは土下座してた。
懲りない龍臣さんは、
「MIOは強いなあ、勝てないよ」
と言うけど、そりゃそうだろ、無抵抗なんだから。
「マジでやれよ!」
と春臣が龍臣さんに詰め寄るも、
「春、強いなあ、上手いなあ」
と全然聞いていない。
MIOがガチギレしながら勝利のMIOポーズするのを初めて見た。
コメントも、
「勝負にならん」
「JIN、ちゃんとやれw」
「MIOちゃんに手を出さないが信条のJINが勝てるわけがない」
「つーか勝つ気ないだろw」
「MIOちゃん、怒ってんぞ」
「さすがにMIOちゃんかわいそう」
「ちゃんと戦ってやれ」
「いやあ、相手が悪すぎる」
「最愛のMIOちゃんだもんなあ」
「違う意味では手を出してるのになw」
「それw」
「マジで付き合ってんのかな?」
「まだそれ言ってんの? 夫婦だよ」
「マジ!?」
「知らん」
「知らんのかい」
「MIO夫人」
「いいな、それ」
「婚姻関係、もしくは事実婚。同棲は確定」
「そうそう、ログアウトする時のタイミングに一切ズレがないんだよな」
「それな」
「あれは同じ部屋でやってないと無理」
「確定じゃん」
「そう言ってるだろ」
「リアルでも溺愛してそう」
「わかる」
「リアルMIOちゃん、かわいいんだろうなあ」
「リアルJINはゴリラかもしれん」
「MIOちゃん、ゴリラの嫁なの?」
「やめろw」
毎回こんな感じだ。
JINさんに勝てることは勝てるけど、勝たせてもらってるのが気に入らない春臣はJINさんとの対戦が終わると恐ろしく不機嫌になる。
「またわざと負けた!」
と怒ってる。
その顔のかわいいことと言ったら……
龍臣さん、ありがとう。
この顔、めっちゃかわいいです。
また拝ませてくれてありがとうございます。
知ってるか?
イケメンが拗ねると激かわなんだぞ。
あんまりかわいいから、つい……
チュッ
「なにすんだよっ!」
やべ。
「えへへ」
「えへへじゃないんだよ!俺、機嫌悪いんだけど!」
「かわいい」
「聞いてんのかよ」
「聞いてる、かわいい」
「なんなの?」
「かわいい」
「うざ……」
春臣が俺と外で会いたがるのは多分これが理由。
多分と言うか、はっきり言われた。
「俺んちにキスしに来てるでしょ」
バレてる。
「だってさ……かわいいんだもん。かわいかったらキスしたいじゃん」
「やっぱりセフレか」
「だから違うって! 春臣、キスはいいって言ったじゃん」
「そんなに毎回しなくていいでしょ」
「いや! それはダメ!」
「なんでよ?」
「だって俺たち付き合ってるんだから」
「だから?」
「だからその証明にキスをだな……」
「セフレじゃん」
「違うってば!」
「わかった」
わかってくれたか!
「進級するまでキス無しね」
「は?」
「我慢できないの? ほんの2ヶ月くらいじゃん」
「いや……できるけど……できないかな……」
「セフレ確定だね」
「わかった! 我慢できます! やれます!」
「わかってくれてありがとう、海凪」
そう言ってにこっと笑う。
ほら! その顔!
それが我慢できなくなるんだよ!
お前、自分の顔の良さをもう少し自覚してくれよ。
かわいいったらないぞ。
「じゃあ、今キスして」
「言ってるそばから……」
「2ヶ月できないんだから、今してくれないなら泣くよ」
「泣いていいよ」
虚しくなってきた。
「もういいよ……俺のことその程度にしか思ってないんだろ? もういい……」
本当に泣きたくなってきた。
春臣はふうとため息をついて、
「そうやって拗ねれば俺がキスすると思ってるんでしょ?」
読まれてる……
「仕方ないから今回だけは海凪に騙されてあげる」
「え?」
そう言って春臣はあの蕩けるような気持ちいいキスをしてくれた。
もう俺、ドロドロだ……
キスでこれなんだから、その先は……
やばい……
春臣からのキス禁止令により、俺の好奇心と下半身は収拾つかなくなっていた。
男同士のキスより先とは?
使うのはお尻だというのは知っている。
しかしやり方はわからない。
脳がエロモードなので当然調べる。
エグい……リアル……
あまりの生々しさに目を逸らしてしまう。
これはすごい……
正直言うと全く興奮しなかった。
刺激が強すぎたのか俺の息子氏は沈黙したままだった。
わかったことが一つある。
俺は男全般に欲情するのではなく、春臣だからムラムラするのだということだ。
ということはゲイではない。
あくまでも性的嗜好はノーマル、
好きなのは男の春臣ということだ。
だって友成とか龍臣さんとかには反応しないもんな。
龍臣さんなんてたまに就活関連でスーツ着てるのを見たりするけど、めっちゃかっこいいんだよ。
春臣に雄を足した感じ。
それでもキスしたいとか思わない。
そう思うのは春臣だけなんだ。
だからと言うわけではないが、興奮するポイントが春臣に限定されてるのだから仕方ないと思うんだよな。
それなのに春臣はキスしたらダメという。
ううううう……
やたらセフレを嫌がってるからそこはわかってやりたいのだけれど、それなら春臣にしか興奮しない俺はどうすりゃいいんだよ。
春臣に求めちゃうのは仕方ないだろ?
だからね、ついね、夜毎、一人で春臣を想って、あのキスを思い出して、ソロに励む俺はおかしくない。
ただ毎晩のようにしてるのはどうかとは思ったりする。
思うだけで、ベッドに入ると右手が動く。
おかずは春臣。
若干の罪悪感はあるけど、おかずとはいえメインだと自分に言い聞かせ正当化し、エロに支配された童貞は今夜も励む。




