攻略は慎重に
週明け月曜日。
昼休みに春臣を呼び出す。
屋上?
漫画じゃあるまいし、事故防止で鍵がガッチリかかってて行けるわけがない。
空き教室?
漫画じゃあるまいし、都合よく鍵のかかってない誰も来ない教室なんてあるわけないだろ。
誰もいない図書室?
普通に人いるわ。
人がいないところがないんだよ。
結局、昼のピークを過ぎると閑散とする購買部付近で話すことにした。
『本日完売しました』
と完売札が出ていて業者さんが帰り支度している。
その人が俺を見て声をかける。
「ごめんね、今日は売り切れちゃったんだ、また明日来てね」
「あ、はい……」
出遅れて買えなかった人みたいになっちゃった。
春臣が来た。
「よっ」
「海凪早いね」
いやあ、そりゃそうでしょうよ、落ち着かねえのよ。
なんとなくいつもの感じと違う。
そわそわというか、ムズムズというか、
なんとも言えない微妙な感じ。
「あのさ」
「ん?」
「あのさ」
「なに?w」
春臣がふっと笑う。
やばい……かわいい……
信じられないくらいのイケメンなのはわかってるけど、この前の一件からそれにかわいいが足された。
かわいいはやばい……
「あのさ」
「だからなに?ww」
「春臣に聞きたいことというか……確認したいことがありましてですね」
「なに?」
「……春臣と俺って付き合ってる……でいいんだよ……な?」
うん、そうだよ。
この答え以外ないはずなんだ。
そう言ってくれ。
「……それなんだけど」
ん?
あれ?
「その付き合うっていうのは、友達とどう違うの?」
不安的中!
しかし、そんなことは想定内だ。
春臣と親しくなってから、だんだんとやつの思考は読めてきたと思ってる。
「俺の持論というか、考え方で答えていいか?」
「うん」
「友達と付き合ってるの違いは、キスできるかできないか、かな」
うん、間違ってないはずだ。
俺たちはこの前キスした。
友達より先に進んでいいはずだ。
「海凪は付き合いたいからキスしたの?
それともキスしたいから付き合いたいの?」
あれ?
おかしい。
返ってくる回答が想定外。
俺の春臣対策想定パターンの中にないぞ。
というか、これって二択じゃないだろ?
もっと違うパターンがあるだろ?
「俺はあの時、春臣がかわいいと思ったからキスしたの」
「そうなの?」
「そうだよ」
「じゃあ、どっち?」
結局はそこに戻った。
春臣が聞きたいのはそこなんだな。
「春臣と付き合いたい、その上でキスしたいと思ってる」
春臣が考え込んでる。
「キスだけ?」
え?
あの、それは、キスより先も有りということなのか?
そんないきなり?
「春臣が嫌じゃなければ」
童貞にはハードル高すぎるが頑張る所存。
また考え込んでる。
そして春臣は言った。
「それは友達でも付き合ってるでもなく、セフレだよね?」
は?
セフレ?
春臣の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
「待て、ちょっと待て、なんでそうなる?
俺はお前と付き合いたい、いや、付き合ってると思ってるのに、なんでセフレになるんだよ」
「だって付き合うの基準がキスとかその先が目的ならセフレでしょ?
俺はセフレにはならない」
「そうは言ってないだろ。
その先があるのか? と聞かれたから、春臣が嫌じゃなければって言っただけだろ?」
「それじゃ、体の関係がなくてもいいってことだよね?」
え?
お預け?
封印?
プラトニック?
下心が顔に出たらしい。
「ほら、海凪はそこを求めてるだけなんだよ。確認できてよかった」
待て待て待て待て!
なに勝手に結論出してんだよ。
「春臣は俺と付き合ってると思ってないのかよ。俺、好きだって言ったよな?」
「言ってないよ」
え?
嘘?
マジで?
「キスで気持ち良くなったから責任取って付き合ってって言った」
……言いました。
「言い方は悪かったかもしれない、謝る、ごめん。
でも俺は春臣のこと好きなんだと思う」
「それは嬉しいって思う、ありがとう。
でもやっぱりきっかけのキスがあったからでしょ? それがなかったらそう思わなかったんじゃない?」
ど正論来た……
脳内満開お花畑が一気に枯れた。
「どうすれば伝わる?
どうすればわかってもらえる?」
俺、必死。
「海凪と付き合いたいって俺から言ったんだよね。
だから海凪が同じように思ってくれたのは嬉しい。
でも今度は全サって言われてた時みたいなことにはなりたくない。
海凪と付き合うのならキスから始まるのは嫌なんだ。
それだと全サがセフレになっただけだから……」
正直言っていいかな。
そんな難しく考えなくてもいいんじゃね?
そう思っちゃったけど、春臣が慎重なのはやはり全サの呪いだろうな。
余程嫌だったのだろう。
察するに余りある。
「わかった。春臣はどうしたい?」
「海凪とは仲良くしていたい。
でもキスとかそういうの無しでも成立するくらいになれたら……それじゃダメ?」
きっつ!
覚えたてのキスにメロメロにされて、ズブズブと蕩ける沼で心地良く溺れてるのを強引に引き摺り出されてしまった。
この沼、めっちゃ心地いいんですけど。
もっと溺れたいんですけど。
いや、春臣の言う通りだ。
全サでもセフレでもないのだから、プラトニックでもいいのだ。
ああ……でも、あのキスのふわふわトロトロは堪らんのよねえ……
ここは春臣の転換期なんだ、それに寄り添ってやりたい。
「わかった。春臣は俺にして欲しいことはある?」
「海凪に?」
「そう」
「なんでもいいいの?」
「できないこともあるとは思うけど何かある?」
「うん」
「言ってみて」
「『俺に甘えてろ』って言ってくれたのが嬉しかった。俺、海凪に甘えてもいいの?」
きっつ! それめっちゃきっつ!
春臣に甘えられたらムラムラしちゃうじゃん。
でも手出せないんでしょ?
きっつ!
「甘えていいよ」
言っちゃった。
「海凪は? 俺にして欲しいことある?」
「うーん、そうなあ……
春臣と付き合ってるんだとちゃんと思いたいから、確認のため時々でいいからキスしたい」
ふっ
お前、笑ったな。
そうだよ、必死だよ、でもそれくらいは許してくれないか?
「どうしてもキスしたいんだね」
ええ!
そうです、今でもしたいです。
でも、『私の体が目当てだったのね!』と女が言うのがわかった気がした。
それだけだと思わせる方が悪い。
春臣もそうなんだろう。
だからキスだけ。
そこまで。
「ちゃんと土台を作ろう。
そのためにも時々キスは許して欲しい」
たまにでいいから俺をドロドロに溶かして欲しいんだ。
「わかった」
「いいの?」
「うん、それじゃ今までみたいな感じで」
「う、うん……」
これ、結局どうなったのかよくわからない。
やっぱり春臣は謎だ。
それからの俺たちは急速に仲が深まった……わけではなかった。
仲は良いと思う。
今まで戦バニで遊ぶことが多かったけど、オンラインだと会えないし、春臣の家に行って対戦すると龍臣さんも一緒にやるし、二人になることがない。
戦バニは楽しい、めちゃくちゃ楽しい。
でも今の俺は春臣と二人になりたい。
だから、意図して二人になれるように春臣を外へ連れ出す。
出かけようぜと誘うと春臣は嬉しそうにする。
最初は俺から提案するばかりだったけど、春臣からどこに行きたいかを言うことも増えた。
友成や柳木、上村には付き合っていることは話していない。
そこはまだ言わないでおこうと春臣と話して決めた。
まだ二人の関係を構築しているところだから、ちゃんと土台が固まるまでは二人だけの秘密にしたかった。
学校での春臣でもなくMIOでもない。
神野春臣を意識する。
俺だけしか知らない春臣を知りたい。




