本音
どれだけ傷ついたんだ。
誰がこんな酷い名前をつけたんだ。
そしてそれを面白がっていたのは誰だ。
俺もその一人じゃないのか?
「春っ!」
泣きながら龍臣さんが追う。
「龍臣さん、待って!」
「海凪?」
「俺が行きます、俺に行かせてください」
「でも……」
「俺にも関係ある話です、春臣と話をさせてください、お願いします。
春臣と話したいんです、お願いします」
「……春を頼む」
「はい」
「なにかあったら絶対俺に言ってくれ」
「わかりました」
春臣の部屋のドアをノックする。
「春臣?」
返事がない。
「ごめん、入るよ」
部屋に入る。
春臣は椅子に座って机に突っ伏していた。
「帰れよ」
「俺は春臣と話がしたい」
「……なんの話だよ、まだ笑いたいのか」
まずこの話を先にするべきだ。
「俺、春臣が全サって言われてたの知ってた」
「……」
「告られたら彼女が次々変わっていくとかなに?って思ってたし、本当に全サだなって思ってた」
「……」
「面白がってた」
「……」
「春臣に真相を聞くまではそう思ってた。
だって、本当は断ったらいけないと思ってたなんてわからないよ」
「……」
「でも、なにを言っても言い訳だと思う。
春臣を傷つけたことは変わらないんだ」
「……」
「春臣、こっち見てくれる?」
俯いて見てくれない。
「春臣、本当にごめん。
許されるなんて思ってないけど謝らせて。ごめんなさい」
春臣が俯きながら、低い声で静かに話し出す。
「俺は海凪のこと友達なんて思ってない」
え……
「好きじゃないなら断っていい、は、俺のことなんだよな。
ちゃんと断られてるのにアドバイスだと勝手に解釈して、海凪に断られてただけなのを気づかないなんてバカすぎる」
「……」
「嫌われてるのに俺、バカみたい……」
「……」
「友達になんかならなければよかった。
余計苦しくなるだけだった。
海凪に優しくされるのは苦しい。
嬉しいけど苦しい。
兄ちゃんとの方が楽しそうだし、もうやめる」
春臣……
椅子ごと強引にこっちに向かせる。
「春臣、言いたいことはそれだけか?」
「あ?」
「お前、家だと口悪いよな」
「だったらなに?」
「なにが偉そうに友達なんて思ってないだよ。笑わせんな」
「それなら帰れよ!」
「逃げんな」
「なんなんだよ!」
「友達にならなければよかった?
勝手しろよ。
苦しいからやめる?
それも勝手にしろよ。
優しいのが苦しい?
知らねえよ。
龍臣さんとの方が楽しそう?
嫉妬じゃん。
なに龍臣さんにヤキモチ焼いてんだよ、
ガキかよ」
春臣が物凄い目で俺を睨む。
「おーおー虫ケラを見るような目で見るんだな、怖えな」
「お前なんなんだよっ!」
「お前こそなんだよ!
全サなんて酷いあだ名つけられてたのはかわいそうだと思うけど、やってること本当に全サなんだから仕方ないじゃん。
上手いネーミングセンスだなってつけた人に感心したよ。
それに便乗して面白がったのは悪いと思ってる、でもそれをやってたのは春臣、お前自身なんだぞ!」
「……」
「無知にも程があるだろ?
最初は仕方ないにしても気づけよ、おかしいと思えよ、危機感持てよ!」
「全サは柳木や上村が言い出したんじゃないぞ。
あいつらも面白がってはいたけど、事が大きくなりすぎて止められなくなったって言ってた。
あいつらは悪くない、人に当たるな!」
「……」
「龍臣さんだってそうだろ?
俺と遊ぶ時だって真っ先にお前を誘ってたよ。
お前が不貞腐れて断ってたんじゃん。
龍臣さんはいつだってお前ありきなの!
そんなのわかるだろ?
それなのにあの態度はなんだよ!
お前をいつでも守ってくれる優しい兄ちゃんに甘えっぱなしで言いたい放題。
龍臣さんをなんだと思ってんだよ、龍臣さんに謝れ!」
「……」
「ったく、全然全サじゃないじゃん。
人選んで態度変えてるじゃん。
俺だけ抽選かよ、こんな八つ当たりに当選させんなよ」
「……自分だってそうじゃん」
「は?」
「自分だって全サじゃないじゃん!
なんでみんなに優しいのに俺にだけそんなにきついんだよ!」
「お前が言わせてるんだろ!」
「そこまで言わなくてもいいだろ!」
「言わなきゃわからないから言ってんだよ!」
「言い過ぎなんだよ!」
「だから言ってるじゃん! 俺、優しくないって!」
「俺は優しくなんかないの!」
「……海凪は優しい」
ふっ
ふはっ
「気が済んだかよ」
「……うん」
「龍臣さんに謝れよ」
「……うん」
「柳木と上村にもな」
「……うん」
「俺、春臣のこと嫌いなんて言ってないぞ」
「……だって」
「付き合えないとは言ったけど嫌いなんて言ってない」
「同じだろ」
「全然違うだろ? また解釈間違えてんのかよ」
「よくわかんない」
「素を知れば知るほど、面白くて楽しい。
俺、春臣のこと全然嫌いじゃないよ。
でもやっぱり付き合うのは正直よくわからない。
わからないけど、危なっかしくて放っておけない。
俺の前なら言いたいこと言えるんだろ?
曝け出せよ」
「やだ」
「なにが?」
「海凪が上からで腹立つ」
「あはははは!」
「ムカつく」
「じゃあ本当に友達やめるか」
「……好きにすればいいじゃん」
「本当に素直じゃねえしめんどくせえな」
「ムカつく」
ふっ
「友達やめて、友達と付き合うの中間にするか」
「なにそれ」
春臣が笑い出す。
「春臣に興味が出てきた」
「応募してもいいよ、抽選してあげる」
「俺しか応募するやついないだろ?」
「応募者多数ですけど」
「大した自信だな、くそイケメン」
「当選者無しかもしれない」
「お前の方こそ上からじゃねえかよ!」
「あははは!」
「嫌いなんかじゃないからな」
「……うん」
「じゃあ手始めにこういうのはどうだ?」
春臣に耳打ちする。
「やば!」




