要らない
翌日の土曜日。
春臣にはなにも言ってない。
今回の手土産は男全員大好きなはずのポテチとコーラだ。
ピンポーン。
「はーい」
お母さんの声がする。
「こんにちは、葉山です」
「いらっしゃい、たっくんから聞いて楽しみにしてたの」
本当にたっくんって言ってるw
「おっ、海凪来たか」
「こんにちは」
「入れよ」
「すみません、お邪魔します」
手土産を渡す。
お母さんと龍臣さんが笑い出す。
「男の子の好きなものだw」
「春臣はいますか?」
「部屋にいるよ」
春臣の部屋に行ってみる。
そういえば入ったことないな。
コンコンコン。
「兄ちゃん?」
春臣の声だ。
「俺、葉山」
「え?」
しばらく間があった後、ドアが少し開く。
「なんで?」
いつも通りのなんで? に笑ってしまう。
「遊びに来たよ」
「え……約束してないよ?」
「来たらダメだった?」
「……」
「入ってもいい?」
「……」
黙ったまま、ドアを開けてくれた。
龍臣さんの部屋と少し違う。
ゲームに関するものは全くないわけではないが、大半を龍臣さんの部屋に集約させてるのか、春臣の部屋はすっきりしている。
春臣らしい部屋だ。
遊びに来たはいいが、なにからどう話をしたらいいのだろうか?
「兄ちゃんと戦バニやるんだろ? 兄ちゃんの部屋に行けば?」
春臣から仕掛けてきた。
言葉に棘がある。
「今日は龍臣さんと約束してないよ」
「俺とも約束してないだろ?」
どうしたんだよ、春臣。
「 MIO、ジムから戻ったんだろ?」
「……戻ってる」
「どのくらいスピードアップしたのか早く見たい、やろうよ」
「やらない」
「なんで?」
「兄ちゃんとやれば?」
「春臣もやろうよ」
「俺がいなくてもいいだろ?」
「なんでよ? 俺、春臣ともやりたい」
「兄ちゃんとやってればいいだろ」
「俺が春臣とやりたいんだよ」
「……」
春臣がすっと立ち上がる。
「行くよ」
というと龍臣さんの部屋に向かう。
「兄ちゃん入るよ」
「おっ、どうした?」
「戦バニやる」
「マジで!? 久しぶりだな!」
龍臣さん嬉しそう。
龍臣さんが準備する。
それぞれがログインする。
これから戦バニやるっていうのに、なんでそんな顔してんだよ、春臣。
春臣の全然楽しくなさそうな表情が気になって仕方ない。
「チーム戦でいいよな? 対戦依頼、すげえ来てるんだよ」
龍臣さんが対戦チームを吟味しているのに、お前はなにしてんだ?
どうしてマイアカウント開いてるんだ?
胸騒ぎがする。
ざわざわと嫌な予感しかしない。
「龍臣さん! 春臣のコントローラー取り上げて!」
「え?」
「早く!」
いや、自分で奪いに行った方が早い。
押させるかよ!
「春臣! やめろ!」
「離せよ!」
「なにしてんだ、春!」
龍臣さんも気づいた。
俺が春臣の体を押さえて、龍臣さんがコントローラーを奪い取る。
「お前、なにしてんだっ!」
春臣は MIOのアカウントを削除しようとしていた。
前に連絡先を全削除した時のように。
アカウントを削除する際の、
「削除してもよろしいですか?」
の確認が二回出てくれることでなんとか回避できた。
「なんで消すの!? なにしてんの!?」
龍臣さんになにを言われても春臣は答えない。
龍臣さんは、
「春、どうした?」
と優しく頭を撫でる。
本当に弟の春臣がかわいくて仕方ないんだな。
本気で心配してるのが良くわかる。
「……兄ちゃんなんか嫌いだ」
「え?」
「兄ちゃん嫌い!」
子どものような春臣に驚く。
自他共に認めるブラコンの龍臣さんは大好きな弟に嫌いと言われて相当ショックを受けているようだ。
「え……なんで……ごめん、春、俺なんか嫌われることしちゃった?」
龍臣さんの方が泣きそうだ。
春臣が手を強く握りしめる。
「……MIOがジムでいない間にNAGIとずっとチーム組んで対戦してるし、海凪とゲーム展行こうとしてたり、映画行ってたり、家で遊んだり……
海凪は俺の友達なのに……なんで兄ちゃんが取るの!」
俯きながら静かに、そして怒りを滲ませ爆発させる。
あ……
龍臣さんが言葉を失う。
俺もだ。
憧れのJINさんと MIOとプレイできて嬉しかった。
更に龍臣さんとしてリアルでも仲良くさせてもらって嬉しかった。
俺、龍臣さんと楽しんでる時、春臣のこと気にかけたか?
春臣も行こうよと龍臣さんと一緒に誘ったとは思う。
でも春臣は行かないと言った。
都合悪いのかな、気分じゃないのかな、その程度にしか考えなかった。
春臣は龍臣さんに、俺を、友達を取られたと感じたんだ。
俺だって同罪だ。
友達のお兄さんと、友達を蔑ろにしてなに仲良くしてんだ。
俺の友達と妹の雪海が俺のいないところで、仲良くしてたり、二人で出掛けたり、俺抜きで家で遊んでたりしたら、どういうこと? なんなの?って思うだろうな。
ゲーム展には龍臣さんと行こうとしてたし、実際映画には二人で行った。
さすがにこれはどうなんだ案件だよな。
龍臣さんは、
「春、ごめんな、そんなつもりじゃなかった。でも春を傷つけたんだよな、ごめんな。俺、無神経だった、ごめん」
と泣きそうな声で春臣に謝る。
「春臣、俺も気付けなくてごめん。
仲間外れみたいなことして悪かった、
ごめん」
「……笑ってたんだろ」
「え?」
春臣の声が低い。
「俺のこと、笑ってたんだろ」
「え……春臣、なに言ってるの?」
「兄ちゃんと……JINと組めてよかったね。
ずっと組んでればいいよ」
「春……」
本気で龍臣さんが泣きそうだ。
「もう MIOも俺も要らない」
「俺は春臣も MIOもいないと嫌だよ」
ふっ
なんて冷たい目なんだよ、春臣……
「なにも知らない俺を見てて楽しかった?」
「え?」
「面白かった? 楽しかった?
全サって言われてる俺を滑稽だと思って笑ってた?」
春臣……
「……春? 全サってなんのこと?」
「俺、全サなんだって」
と春臣が自嘲気味に笑う。
「春?」
「誰に告られても断らないから全サ、応募者全員サービスだって」
春臣が笑い出す。
「誰がつけたんだろうな」
声をあげて笑う。
「春……」
龍臣さんが静かに泣いていた。
「なんで兄ちゃんが泣くんだよ」
「春が傷つくのは嫌だよ」
「海凪がいるからいいでしょ」
「そんなこと言うなよ……」
「春臣、龍臣さんを責めないで」
「……海凪は優しいね」
「春臣……」
「いつだって……誰にでも優しいよね、子ウサギにも優しいんだからすごいよね」
「……」
「海凪だって全サじゃないか。
誰にでも優しいのだって全サだろ?」
そう言うと春臣は龍臣さんの部屋を出ていった。




