表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/98

第48話-A  高校1年生 ~不安だけど、前へ~

翌日――8月12日(土)。


小学校の玄関前。


10時の待ち合わせには、誰も遅れなかった。


三人の顔を見て、由奈は小さく息を吐いた。


(なんか、ほっとしたっていうか……。

昨夜、あんまりよく寝れなかった気がするし)


志野先生もそこにやって来た。


「おはよう、揃ってるな」


「おはようございます」


先生が四人を見回して、玄関の扉を開けた。



正面玄関から校内に入る。


四人はいつもより口数が少なかった。


由奈は、図書室に向かう廊下の風景が、どこか現実味を欠いているように感じた。



図書室に入ると、各々、荷物をテーブルに置いた。


先生が書庫の鍵を開け、四人が続く。


さらに小部屋の鍵を開けて中に入る。


そこには、描きかけの魔法陣があった。


由奈は、ぼんやりとそれを見つめた。



「よし」


晴基が記録の書をめくり、魔法陣の描かれたページを開いた。


桂花もそこへ行き、晴基と一緒に続きを描く打ち合わせを始めた。



由奈と健斗は少し離れたところで二人の話を聞いていた。


志野先生は四人の様子を見守っていた。


そして、


「じゃ、始めるね」


桂花が床に膝をつき、続きを描き始める。


ときどき、晴基と話しながら線の位置を決めていく。



由奈は隣にいた健斗に小声で話しかけた。


「ねぇ、なんとなくさ、こうなると手伝いしにくいよね」


健斗は苦笑して頷いた。


「うん。描かないのに、いろいろ言ったりするのもな」


――少し間を空けて、由奈が言った。


「ところで、高野くんは持って行く荷物、もう準備は終わった?」


「いや、まだ全然……」


「えっ……もう、出発は明後日だよ」


「わかってるよ。

その言い方……由奈はもう完璧?」


「完璧じゃないけど、だいたいは終わってるよ」


「マジか……」


「桂花も同じくらいできてるはず」


「そっか……なんか、焦ってきた」


由奈は眉をひそめた。


「それ、今……?」


由奈は小さく息を吐いた。


「ね、これから帰って準備してきたら?」


「いや、魔法陣描くの、頑張ってもらってるのに悪いし」


「いやいや、出発準備できてないのも困るからさ」


健斗は小さく息をついた。


「……晴基に、準備できてるかどうか、聞いてみてもいいかな?」


「え、それは……」


由奈と健斗は、魔法陣を描いている二人に目をやった。


集中して作業を進めているのが伝わってくる。


――少しの沈黙。


由奈が静かに言った。


「……今は止めといた方が良さそうだね」


健斗が頷いた。


「うん……」


二人は、魔法陣に目を向けたまま黙っていた。


すると、


「どうした?」


志野先生が近寄ってきた。


由奈が先生を見上げた。


「先生、高野くん、荷物の準備、まだ全然できてないって……」


「えっ……明後日の?」


先生は一瞬、驚いた顔になる。


「え、やっぱり先生もそんな顔する?」


健斗は苦笑した。


「今日、帰ったらやりますから……」


「そうだな。せめて、何持っていくかは考えておけよな」


先生はそう言って、紙とペンを健斗に差し出した。


「書き出してみな。足りないものも見えてくるし」


健斗は小さく頷いてから、

少しの間、宙を見ていた。


――そして、おもむろに由奈を見て言った。


「着替えって少しは持ってくつもりだけど、あっちで準備してもらえるよな?」


「うん。だから、最低限にしたよ。服や下着をやたら持ち出すと家で怪しまれるだろうし」


「ああ、そうだな。わかった」


健斗はペンを動かした。


「あとは?」


「えっと……化粧水とか歯ブラシとか」


「そっか、そういうものもいるよな」


「……高野くん、ほんとに何も考えてなかったの?」


健斗は一瞬、由奈を見て、すぐに目を逸らした。


「い、いや、そういうわけじゃないんだけど……」


由奈は眉間にしわを寄せて、小さく息を吐いた。


健斗は小さな声で続けた。


「なんとなく、落ち着かなくて気晴らししてたってのもあるし……」


「……まぁ、そうだよね、わかるよ」


「……なんか、落ち着かなくてさ」


「うん。実は、桂花がうちに泊まりに来ててさ。だから、やり過ごせたと思う」


「そっか。よかったじゃん。俺も従兄と遊んでたけど、このこと話せないし……。

そわそわしてた」


「そうなの?そんなふうには見えないから。

高野くんて、そういうとこ、すごいなって思う」


「ははっ、それって褒めてんの?」


「そうだよ。前にも、こういうのすごいって言ったじゃん」


「まさか、テストの名前書かずクラスの前で注意されたときのこと?」


「そうそう。その後、みんなの笑いをとってたの、すごいなって」


「はは、あれね。

……まったく、俺ってバカみたいだな」


「いやいや、褒めてるんだってば」


二人で同時に笑った時――


「……なんの話?」


「えっ?」


いつの間にか、晴基と桂花、志野先生が由奈と健斗の方を見ていた。


「なんか、二人で盛り上がってるね」


桂花がニヤニヤして見ている。先生も笑っている。


「いや……高野くんが、まだ出発の準備してないっていうから、いるものを書き出してたの」


「そうそう、そしたら変な方に話が行ってさ」


「は?

健斗、大丈夫か、荷物」


晴基が呆れた声で言った。


「大丈夫、今日、なんとかする。由奈に何持ってけばいいか聞いてるから」


晴基が面白そうに言った。

「へぇ。じゃ、今から由奈と二人で準備してきたら?」


「いやいや、二人に頑張ってもらってるんだから、そういうわけには……」


「それは別にいいよな」


晴基は桂花を見て言うと、桂花も頷いた。


「うん、こっちはぼちぼちやってるから」


由奈が慌てて言った。

「ちょっとちょっと、勝手に決めないでよ」


「まぁ、それは冗談として。

適当に時間見て、二人で昼めし買ってきてくんないかな?」


「え……」


由奈が固まった。


「なに、由奈?」


「……別に」


晴基がマジックをくるくる回しながら言った。

「健斗、準備に必要なものあったら、一緒に買ってきたら?」


「そうだな」


由奈が志野先生を見た。

「先生は……行かないんですか?」


「あー、俺はここにいないとな。他の誰かが来たりした時のことがあるからな」


「あ、そうですよね……。

……じゃあ、みんなで行ってもいいんじゃない?」


由奈は晴基と桂花の方を見た。


桂花が描きかけの魔法陣を見ながら言った。

「昼までにある程度進めないと、これ、終わんないんだよね」


晴基も頷いた。


「だよね……。

じゃ、私、一人で行って来てもいいよ……暑いし。

高野くん、二人のこと見ててあげてよ。

持って行きたいものも、まだ決めてないでしょ?」


「いや、由奈と話しながら考えた方がスムーズに準備できそうだし。

俺たちで昼も用意した方がいいよな。

由奈、一緒に買い物行こ」


健斗が軽く言うと、三人が頷いた。


由奈は目を伏せて小さく頷いた。


「……うん」


「じゃ、俺の分もこれで買ってきて。余ったら、好きなもの買ってきていいよ」


そう言って先生は健斗にお金を渡した。

先生のお昼ごはん代にしては多めだった。


「了解!」


「先生、ありがとうございます」


健斗は由奈が動き出すのを待って、部屋の扉を開けた。


由奈と健斗が出て行った後、


晴基が呆れた声で言った。

「健斗、まだ準備してなかったとか……」


先生は笑った。

「はは、健斗らしいよなぁ」


桂花が本を指さしながら言った。

「とりあえず、お昼ごはんが来るまでにこのへんまで終わらせたいね」


晴基が頷いた。

「そうだな」


二人は描きかけの魔法陣を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ