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第47話-D  高校1年生 ~ずっと続けばいいのに 4~

散歩から帰って、由奈と桂花は雑談しながら過ごした。


やがて昼が近づき、由奈は台所を覗きに行く。


おばあさんの後ろ姿が目に入り、由奈はしばらくそれを見つめていた。


朝、この台所を満たしていたのは、味噌汁の出汁の匂い。

今は、酸味の立った冷やし中華の香りに変わっている。


同じ場所なのに、時間だけが進んでいる。


テーブルの上には錦糸卵、きゅうり、ハム、トマト。

氷水で締められた麺が、涼しげに光る。


「おばあちゃん」


由奈が声をかけると、おばあさんは振り返った。


「そろそろ、お昼にする?」


「うん」


おばあさんはガラスの大皿に麺を載せ、具材を手際よく盛りつけていく。


「はい、どうぞ」


お盆に乗せて運ばれてきた二人分の冷やし中華が、座敷机に置かれる。


麺の上にきれいにトッピングが並んでいる。


「わぁ、きれい」


由奈がマヨネーズを持って入ってくる。


「桂ちゃん、マヨネーズ使う?」


「うん、使う」


由奈は二人の皿の端にマヨネーズを絞った。


「いただきます」


二人で箸を進める。

つるりと麺が喉を通るたび、体の中に涼しさが流れ込む。


冷やし中華のさっぱりした味わいを、ゆっくり楽しんだ。


食べ終える頃、同時にLINEの着信音が鳴った。


スマホを手に取る。


晴基

「明日、志野先生、午前中からつきあってくれるから、10時に小学校に集合でいい?」


二人は箸を置いた。


「明日、午前中からか」


「魔法陣、午前中からやれば、夕方には終わりそうだもんね」


返事を書き終えた頃、襖をノックして葉太が入ってきた。


「姉ちゃんたち、ごはん終わった?」


続いて由奈の母が袋を持って座敷に入ってくる。


「あれ、お母さん。仕事は?」


「今日は早めに帰れそうだったから。桂花ちゃんもいるし、みんなでおやつを食べようと思って買ってきたの」


袋の中には、プリン、団子、ショートケーキ、ロールケーキ、シュークリーム。


並べると、座敷が少し華やいだ。


「わぁ、ありがとう」


「ありがとうございます。

わぁ……いろいろある!」


桂花が覗き込むと、由奈の母親が微笑んだ。


おばあさんが人数分の温かい緑茶を運んでくる。


桂花は隣に座った葉太に声をかけた。


「どれにする?」


「これにする!」


葉太はプリンを手にして、満足そうに頬をゆるめた。


桂花はその様子を見ながら、デザートに視線を落とす。


(……なんて、平和なんだろう)


扇風機の音。

風鈴がひとつ鳴る。


温かいお茶。

一つの座敷机を囲む時間。


ちらりと由奈を見る。


笑っているが、少しだけ笑顔に元気がない。


「好きなの選んでね」


「うん」


由奈はデザートを覗き込む。


桂花はふと目を逸らした。


(……こんな日常を置いていくなんてね)


隣では、葉太はプリンを口に運んでいる。


(異世界にも……こんな時間、あるのかな)


もうすぐ、勇者と呼ばれる存在になる。


――グランデリゼ王国。

代々、異世界からの勇者を迎えてきた国。


(話しやすい人たちだといいな)


怖さと、ほんの少しの期待。


桂花はシュークリームを口に運んだ。

ゆっくり溶けていく生クリームの甘さが、落ち着かない気持ちにちょうどいい。


葉太が宿題のことを母親に話している。

由奈はおばあさんに同じデザートを食べようと声をかけている。

おばあさんはみんなの湯のみにお茶を足してくれる。


桂花はその光景を見てそっと息をついた。


――けれど


「ごちそうさま」


「美味しかった」


「由奈、桂花ちゃん、ゆっくりしてね」


由奈の母親が食器を手に立ち上がった。


「……はい、ありがとうございます。ごちそうさまでした」


由奈の母親が座敷を出ていく。

葉太もついていった。


「お茶のおかわり取りに行ってくるね」


そう言って、由奈がおばあさんと一緒に座敷を出た。


誰もいなくなった部屋で、桂花はそのまま座敷机を見つめていた。


――その時、


LINEの着信音が鳴った。


スマホを手に取って画面を見る。


晴基

「明日、10時に小学校の玄関前で」


由奈がお茶のおかわりを持って戻ってきた。


「明日、10時に小学校の玄関前だって」


「……そっか」


由奈は急須を座敷机に置き、腰を下ろした。


「出発、すぐだよ」


「うん、ほんと、時間ないね」


「なんか、急に不安になってきた」


「何かしてないと、落ち着かないよね。

明日はみんなで過ごせるからいいけど」


由奈が桂花を見て言った。


「桂花、今日はさ、あまり考え過ぎずにいようよ」


桂花が頷く。

「そうだね」


「葉太とゲームでもやる?」


「うん。それがいいね」


二人はゲームをやっている葉太のところに行き、画面を覗き込んだ。


葉太は少し驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうにする。


「やる?」


葉太が桂花に声をかけた。


「うん。昨日より、うまくなってるからね」


桂花はコントローラーを受け取った。


由奈は母親と笑顔を交わす。


(……まだ、ここにいたい)


由奈はゆっくりまばたきをして、ゲームの画面に視線を戻した。

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