第44話-B 高校1年生 ~いつもの光景だけど~
少ししてから、晴基がスマホを見て言った。
「先生、昨日と同じくらいの時間に行けば、書庫に入れてくれるって」
「よかった。これが決まらないと、どうにもならんしな」
「とりあえず、決めるのは書庫を見てからだけどな」
由奈がおずおずと言った。
「ねぇ、ところでさ……誰が魔法陣、描く?」
「ああ。あれ、結構複雑だったよな……」
「私、絵のセンス、ないからさ」
由奈はそう言って目を伏せた。
「俺もあんまり……」
健斗も身を引く。
「じゃ、私、描いてもいいよ」
「俺も描くわ」
それを聞いて、由奈と健斗はほっとしたように小さく笑った。
「よかった。みんな苦手だったらどうしようかと思った。ちゃんと異世界に繋がるように描かないといけないのに」
「こっちで描いた魔法陣が異世界に認識されないとか、シャレにならないよな」
四人で笑いあった後、健斗が言った。
「先生との待ち合わせまで時間があるから、ちょっと買い物行かない?」
四人は近くのドラッグストアに向かった。
店に入って、持っていきたいものを見繕う。
「お金もかかるから、そんなには買えないけど」
由奈と桂花は日焼け止めや化粧水などが並んでいる棚へ向かい、
健斗と晴基はうろうろしながら、お菓子のコーナーに向かった。
桂花が化粧水を眺めて言った。
「こういうの、あっちで支給されるって書いてあったけど、最初はちょっと持っていきたいよね」
「うん。
でも、お金かかるし、一緒に使う?」
「そうしよ」
学校が夏休み中ということもあって、学生らしき若者も結構いる。
親子連れも何組かいる。
みんな、多種多様な商品の中から自分が欲しいものを探している。
子どもたちが走りまわるはしゃぎ声や、店内放送が常に聞こえる。
由奈と桂花は、少しずつ場所を移動しながら陳列棚を眺めた。
「なんか、今でも実感湧かないなぁ。ゲームみたいな世界の中に行くなんて」
「まったくだよね。
今でも信じられない。小学校の頃、由奈が高野と盛り上がってたゲームの世界観と似てるよね」
「うん……」
由奈は視線を落とした。
(学校に行きたくなかったとき、いっそ、桂花と一緒に本やゲームの世界に入れたらいいのにって思ってたけど。
ほんとにそうなっちゃうなんて……)
少し間を空けて、再び棚を見上げて言った。
「グランデリゼ城の人たちは、きっと親切だよね」
桂花が洗顔フォームを手に取って言った。
「そりゃあ、私たち、あちらの世界を救うためにこっちの生活を止めて、命がけで行くのにさ。
不親切にされたらやってらんないよね」
「そうだね。
あちらの人たちが親切なのは、これまでの勇者の功績だろうね。
言葉が通じるのは、ほんとに助かる」
「けどさ、戦闘はつらそうだよね。
異世界に転移したら、勝手に強くなってるなんて設定、ないっぽいし」
「ついていけるかなぁ、訓練……」
「考え過ぎると、行きたくなくなるかも」
「そうだよね」
由奈は、ふと店内を見まわした。
ただのドラッグストアの光景。
でも――
(こういう感じ、しばらく見られなくなるのかな……)
桂花も、つられるように周りを見回した。
「ねぇ、桂花、異世界に行く前に、うちに泊まりに来ない?
そんなことしてたら、準備時間足りなくなるかな?」
桂花の表情が明るくなる。
「ううん。そういうの、あった方が頑張れるかも」
「じゃ、うちで話してみるね。桂花に泊まりに来てもらうって」
由奈はふと、後ろの棚にあったアイシャドウに目を留めた。
グレー系のアイシャドウ。
「桂花、こういう色、似合いそう」
桂花もそちらに視線を送った。
「そう?なかなかかっこいい色だね」
桂花はそう言って手に取った。
由奈は頷いた。
「うん、やっぱり似合いそう。桂花って、目元がすっきりしてるから」
「ははっ、それって一重だからだよね?」
桂花はそう言いながら、少し嬉しそうな顔をした。
「いい色だね。自分だったら手に取らないかもしれないけど」
「うん、いつか買ってみたら?」
(桂花も普段から化粧するタイプじゃないけど。こういうの、見るだけでも楽しい)
桂花はたくさん並ぶアイシャドウを見ながら言った。
「由奈はこういう色よりさ……」
そのとき、LINEが入った。
晴基
「そろそろ時間」
思わず二人とも時間を確認した。
「あ、ほんとだ」
「あっという間だったね」
アイシャドウを元の場所に戻し、慌ててレジに並び、会計を済ませて集合場所の出入り口へ向かった。
男子二人は既に来ていた。
「お待たせ」
そう言ってから、由奈は二人を見た。
(この二人が選ばれたのは、なんとなく、それっぽいけど)
つい、じっと見てしまい――健斗の視線を感じて、思わず目を逸らした。
(……こんなふうに四人でいるところ、小学校のときの同級生なんかに見られたら、めんどくさいことになる)
由奈は桂花の腕を引っ張って、自動ドアの方に向かった。
「うわっ、なに急に……」
そして、
「早く行こ」
そう言って、さっさと店を出て小学校へ向かった。
健斗と晴基は顔を見合わせて首を傾げ、後を追った。




