第44話-A 高校1年生 ~記録の書、読了~
健斗は帰ってから夕食とシャワーを済ませ、自分の部屋に入った。
ベッドに現実世界編を置き、自分も横になった。
(これ読み終わったら、出発か……)
さっき、現実世界編に新たな書き込みがされた。
そのときに覚えた少しの緊張感が抜けない。
(やっぱり、俺たちが選ばれたんだな……)
武者震いしたことを思い出す。
(……けど、誰も無理だって言わないしな)
健斗は現実世界編の続きを開いて読み始めた。
―――
翌日、健斗はいつもより少し早起きした。
午後に四人で集まることになっている。
(読み終わっとかないとな)
朝食の後、さっさと自分の部屋に戻り、ベッドの上で現実世界編を広げた。
今、読んでいるのは、自分たちの前に選ばれた四人のこと。
つまり、100年ほど前の出来事だ。
“現実世界編”なので、こちらの世界でのことが描かれている。
四人の中にはカップルがいて、仲間のなかでも、異世界の王城でも公認されていた。
みんなの前でも仲良くしているが、周りからやっかみを受けたりせず、うまくやっている。
(こういうのあると、シビアな冒険でも悪くないよな)
現実世界でも二人だけで買い出しに行ったりしていて、楽しそうだった。
そして、魔王を封印し、こちらの世界に帰還したページまでたどり着いた。
異世界での使命を終えた四人――。
その後のことが少しだけ描かれた数ページを読み終えた。
(よかった、終わった……)
ページをめくる。
自分たち四人が再び本を発見したことが書かれたページ。
そして、志野先生が指名されたことが書かれたページ。
そこまで確認して、時計を見ると、11時半近くになっていた。
健斗は小さく息を吐いた。
――すると、
新しい白紙のページが現れ、まるで万年筆で書かれるように、淡い光の線が文字を描き出していった。
『選ばれた四人が記録の書を読了。転移の資格、認定』
健斗は目を見張った。
息をするのも忘れていた。
光の線が最後の文字を書くと、ページの輝きがゆっくりと薄れていく。
そこに残ったのは、普通のインクのような黒い文字。
触れてみると、ほんのりと温かい。
健斗は胸の奥が熱くなるのを感じた。
本が、自分たちを認めた――。
(……もう、本当に、行ける)
健斗はスマホを手に取り、三人にメッセージを書いて送った。
「本、読み終わったよ。
そしたら、また、ページが増えた」
―――
そして、午後。
四人はファーストフード店で顔を合わせた。
昼食後なので、ドリンクだけを頼んで席に着く。
健斗が読み終わった記録の書をテーブルに置いた。
すると、
「あの、これ……」
由奈がそっと紙を差し出した。
そこには三列の表が書かれており、左から「要検討」「対応」「メモ」と項目が並んでいる。
「由奈、これ、書いてきたの?」
「うん。時間なくて、思いついたことを書き出しただけだけど……」
晴基が手に取って眺めた。
「さすがだな。俺もちょっとは書き出してきたけどさ」
そう言って、小さなメモをテーブルに置く。
「すごいなぁ、二人とも」
由奈は少し恐縮したように言った。
「別にこの通りじゃなくてもいいから。私用のメモみたいなもんなの」
〈要検討〉
・転移の魔法陣はどこに描くか。
候補としては、小学校図書室の書庫?
人の出入りが少なく、志野先生の身近で管理できる?
司書の先生にも協力してもらえれば、なお安心。
・こちらから持っていくもの。
個人個人違うと思うので、各自で決める。
あまり多くなり過ぎないように気をつける。
・異世界と現実世界との行き来の頻度。
状況次第。
一時的に現実世界に戻る場合、長くても3日程度?
できる限り四人一緒に行き来すること。
誰かが長く滞在すると、その間に起きたことが他のメンバーには未体験となり、問題が起きる可能性がある。
・栞について
移動直後に本の表紙裏のポケットにしまうこと。
移動前は必ず、最終ページに栞を挟んで転移すること。
過去の冒険では栞関係のミスがいくつかあった。
よくあるのは挟み忘れ。
※挟み忘れて現実世界に戻った事例あり。
※鞄に入れたまま忘れて紛失と勘違いした例もあり。
☆誰も気づかないと大きなトラブルになる可能性あり。
このメモをもとに、四人は話し合いを始めた。
「こちらの夏休み中に冒険を終えるのは、確かに無難だね」
「うん。行き来の頻度は考えないとな」
「でもさ、それ、思ったようにいかない部分だと思うんだよね。
だから、考え過ぎてもね……」
「あと、栞も、ちゃんとチェックしながら扱わないとな」
「うん」
「……あとさ」
健斗がストローの袋をいじりながら言った。
「やっぱり、家族には言わないよな……」
晴基が健斗を見た。
「そりゃ、言ってみてもいいけど。
信じてもらえないか、引き止められるかだろうな」
「協力してくれる大人の条件も、親に繋がらない人って決めてたもんね」
「志野先生は繋がる人だけど、秘密は守ってくれるはず」
「そこは先生にも一応お願いしとかないとな。
いざという時は親に伝えてもらうしかないけど、普段は栞をちゃんと扱えば問題ないんだから」
そう言いながら、晴基が表の欄外に
「志野先生に秘密にしてもらうようお願いする」と書き込んだ。
「じゃ、やっぱり、あっちでも無事で過ごさないとね」
由奈がみんなを見回した。
「あと、魔法陣の場所は早く決めないと」
「そうだな。これが決まらないと話にならん」
「小学校の図書室の書庫は、志野先生と司書の先生の協力があったら良さそうだね」
「鍵もかかるし、夏休み中なら人の出入りも少ないよね」
「ただ、毎回、先生に立ち会ってもらわないと出入りできないけど」
「それもお願いしておかないとね」
「先生に、今日も会えるか連絡取ってみるわ。いろいろ相談したいし」
そう言って、晴基は志野先生にメッセージを送った。




