第43話-D 高校1年生 ~静かに決まった日~
晴基はおもむろに立ち上がり、由奈と健斗が読書しているテーブルに向かった。
「健斗、あとどれくらい?」
健斗が顔を上げた。
「異世界編、今、読み終わった」
晴基がほっとした顔をした。
「そっか、お疲れ」
由奈も顔を上げて健斗を見た。
「高野くん、お疲れさま」
健斗は嬉しそうに頷いた。
由奈は健斗を見て、小さく笑った。
「私もこっちの……最後のページまで来たとこだよ。
……ん?」
由奈が驚いたように目を大きくし、ページを覗き込んだ。
そして、呟いた。
「そっか……なるほどね……」
健斗も覗き込んだ。
「うわっ、そういうことか!」
「はー、ほんとにこうなるのか」
晴基も覗き込み、驚いた様子。
桂花と志野先生も寄ってきて、同じページを覗き込んだ。
「あ……っ」
「これ……そういうことか」
現実世界編には、新たな書き込みがあった。
『選ばれし四人が、協力者として――志野尚樹を指名。
志野尚樹が承諾した。』
五人は、しばらく呆然とそのページを見ていた。
「本当に、こんなことが……」
先生が呟くように言った。
そして、顔を上げた。
「……やっぱり、君たちが選ばれたってことだな」
四人は頷いたが、言葉が続かない。
「あっ、もうこんな時間か」
先生が時計を見て言った。
晴基が健斗を見た。
「……異世界編、先生に預けてもう帰ろうぜ。
結構遅いし」
由奈も時計を見た。
「そうだね……」
外はすっかり暗くなり始めていた。
先生が四人を見まわした。
「じゃあ、こんな時間だし、みんな送っていくよ」
「ありがとうございます」
「先生、こっちが今、読み終わった方です。
異世界での、勇者たちの記録」
健斗が先生に異世界編を手渡した。
「ああ、預かるよ。しかし、健斗、こんな分厚いのを読み終わったんだから。
読書が苦手な健斗には自信になるな」
「はい。どうなることかと思ってたけど、それ、結構読みやすかったです」
一呼吸空く。
健斗は少し視線を落としてから声を小さくして言った。
「……由奈が手伝ってくれたから」
「え?」
由奈が息を飲んだ。
それ以外の三人は目をぱちぱちさせ、お互いを見た。
少しの間。
「……はいはい、帰ろうぜ」
晴基がからかうように健斗の肩を叩いて促した。
四人は先生の車に乗り込み、それぞれの家へ送ってもらう。
車の中は、少し落ち着いた空気に包まれていた。
窓の外には、夜の灯りが流れていく。
しばらくして、助手席に座る晴基が振り向いた。
「……なあ」
後部座席の三人が晴基を見た。
由奈を真ん中にして右側に健斗、左側に桂花が座っている。
「健斗、現実世界編、明日には読み終わるよな?」
健斗が頷いた。
「うん。明日の午前中でなんとかなると思う」
晴基は一度、前を向いてから続けた。
「じゃあさ……出発、一週間後にしないか」
一瞬、車内が静かになった。
「一週間後……」
由奈が小さく繰り返し、そして頷いた。
「そうだね。あんまり先に延ばすのも違う気がする」
桂花も頷いた。
「さっき、考えてたんだけど、この夏休み中に終われるようにしたいし」
「だから、ちょうどあと一週間。
明日、もう一回集まって話し合って詰めて。
準備して、全部整えてから行く」
健斗の頭に一瞬だけよぎった。
(……もう決めるんだな)
少しだけ考えてから、息をついた。
「……そっか」
短く呟いてから、顔を上げた。
「それくらいじゃないと、ダメな気がするな」
晴基が軽く頷く。
「じゃ、決まりでいいか?」
「うん」
三人は頷いた。
「あと一週間か……あっという間だろうな」
先生が言った。
「……でしょうね」
晴基が前を見たまま言った。
こうして、静かに出発の日が決まった。
由奈は、窓の外を見ながら考えていた。
(一週間後……)
思っていたよりも、ずっと早い。
けれど、それでいいと思った。
ただ――
(ちゃんと、帰ってこれるよね)
ふと、そんな考えがよぎる。
健斗も桂花も、何も言わなかった。
二人とも、それぞれ隣の窓から外を見ている。
桂花が小さく息をついた。
由奈は何も言わず、視線を前に戻した。




