第45話 高校1年生 ~繋がった記憶~
8月4日(金)。
再び四人で集まることを決めていた日。
午後から、前に会ったファミレスで集まった。
「で、みんな、“協力してくれる大人”、思いついた?」
晴基が他の三人を見まわして言った。
「うーん、やっぱり条件に合う人、難しいな」
「だよね」
「うん……」
晴基が小さくため息をついた。
「だよな。俺も心当たりなし。
小学校で初めて光る本を見つけたときから、そのことを四人で話すこともなかったもんな。
仕方ないけどさ、あのときは、こんなことになるなんて思ってなかった」
健斗が不思議そうな顔をした。
「どういう意味?」
「あのとき、誰かに話してれば、もうちょい今のハードル下がったかもなって思っただけ。
“あのときの、光る本のことなんだけど……”って言えば、ちょっとは耳を傾けてくれるかもしれなかったのにさ」
「なるほどね。でも、あのとき、誰かに話そうなんて思わなかったな」
「話したって、信じてもらえたかわかんねーから」
「むしろ、ムリって決めつけてたかもな」
「ははっ。そりゃそうだよね」
由奈は笑いながら聞いていたが――ふと動きを止めた。
(誰かに話してれば……?)
(……あれ?)
小さな違和感が広がる。
はっきりとは思い出せないのに、
何かが記憶の奥で揺れている。
ぼんやりと浮かぶ光景。
職員室。
先生と向かい合って……。
(あのとき……)
次の瞬間、記憶が一本に繋がった。
「あ……」
由奈が小さく声を出す。
(……話してる)
一気に思い出した。
「私……志野先生に話してる」
「え?」
三人が由奈の方を向く。
「志野先生って、六年のときの?」
由奈が頷く。
「本が光ってたこと、どうしても気になって。あのとき、先生なら何か知ってるかもって思って話したんだ」
***
あのときの光――今でも、はっきりと思い出せる。
書庫の奥で淡く光る本を見つけた。
本の方から、見つけてほしいと言われた気さえした。
これまでに見たことのない、あるはずのないことだったのに、
なぜか不安な気持ちにはならなかった。
そして、誰か大人に話してみたかった。
そこで思い浮かんだのが担任の志野先生だった。
志野先生は、体格は立派だが温厚な若い男の先生だった。
まずは生徒の話を否定せず、受け止め、きちんと聴いてくれる。
その上で、生徒の気持ちに寄り添いながら必要なことを伝えてくれる。
真面目なだけでなく、フランクで話しやすい。
由奈が先生に本のことを話したとき、
「へぇー、不思議な体験だね。初めて聞いた。興味深いね」
そう言って、先生は真剣な表情のまま図書室に行き、司書の先生と話してくれた。
「もっと昔……百年くらい前、
同じような相談をしに来た子たちがいたって記録があるらしくて。
司書さんたちの間では知られてる話なんだって。
……先生も見てみたいよ」
そう言って優しく笑ってくれた、あの顔。
あのとき、由奈は安心して、少し泣きそうになった。
――志野先生なら、このことを知っている。
きっと、覚えていてくれる。
「すごいな、由奈」
「え、そのときは単純に、先生に話してみようと思っただけだよ。先生なら信じてくれそうって、直感的に思った」
「それが、今に繋がってるんだから、なんかすごいね」
「これで、大人探しはかなりハードル下がったな」
「志野先生なら、俺たちを理解してサポートしてくれる大人にピッタリだ」
四人とも頷いた。
志野先生であれば、納得できた。
由奈がコップの縁をなぞりながら言った。
「まずは、志野先生が今どこにいるのか調べないとね。確か、私たちが卒業したタイミングで市の教育委員会に異動だった」
「あー、他の学校じゃなかったっけ」
「じゃ、会うの、難しいかなぁ?」
「とりあえず、小学校に電話して聞いてみる?」
四人は、今はそれにすがるしかない。
「私、電話してくるよ」
由奈が立ち上がって、店の外に出ていった。
しばらくして、由奈は明るい表情で戻ってきた。
「先生ね、今、また戻ってきてるんだって」
「えっ!」
「俺たちが通ってた小学校に?」
由奈が大きく頷いた。
「マジか!」
「今日はいないけど、月曜日にはいるって」
「じゃ、会いに行くか」
「ねぇ、ちょっと待って」
桂花が三人を見た。
「これ、異世界に行くって前提で話してるってことだよね?」
「あ……」
――沈黙が、静かに落ちた。
「私は……行こうと思ってる」
由奈は小さく息をついてから言った。
「怖いけど……行かないと、後悔すると思う」
晴基も頷いた。
「そうだな。俺もそう思う」
桂花も目を伏せて言った。
「そうだね、私もそう思ってた」
晴基は頷いて健斗を見た。
「健斗は、まだ本読みかけだし、決められ……」
「いや、俺も行く。前に選ばれた人たちもどうにかやってたし。
行かなきゃ、あっちの世界が滅ぶなんて……」
健斗はそう言って口を引き結んだ。
晴基が落ち着いた声で言った。
「だよな」
健斗が続けた。
「案外、これまでも普通のタイプが勇者に選ばれてるんだよな。
めっちゃ能力高いのが行ってるわけじゃないし。
それに、あっちの人たちと交流してたりするじゃん。普通に人間関係作ってて一緒に生活してて。
そういうの思うと、放っておけないよな」
桂花も頷いた。
「そうだよね。私も、あの本読んで、放っておけないって思った」
晴基は三人を見た。
「じゃ、月曜日、志野先生に会いに行こう。まずは先生と話してみたいよな」




