第42話-E 高校1年生 ~言いたいから、言った~
由奈はスマホを取り出し、祭りの日に撮った写真を開いた。
「はい。私、写真苦手だから、これくらいしか撮ってもらってないけど。
みんな入ってるからいいよね」
「そっか」
健斗は頷いて写真を見た。
六人で並んでいる写真。
由奈は友人を指した。
「あの中に綺麗な子、いたでしょ。
裕香ちゃん。モデルみたいだよね」
桂花が覗き込んだ。
「確かに、あの子、綺麗だったね」
健斗は写真の中の裕香を一瞬だけ見た。
そして、すぐに視線を動かし――
目を凝らすように、写真を見た。
(……あのとき)
(春日、ちゃんと由奈の隣に行ったよな)
つい、そのときのことを思い出してしまい、胸の奥がモヤモヤする。
由奈はクラスメイトの話を続けた。
「ね、裕香ちゃんと春日くんて、似合いそうじゃない?」
桂花が写真の中の二人を見比べた。
「まぁね。どっちも、モデルみたいだもんね」
「けど、お互い興味ない感じなんだよね。
なんか、もったいないなって、いつも思う」
由奈は残念そうに言ったが、桂花は軽く笑った。
「はは。まぁ、そんなもんじゃない?」
「まぁね。私が勝手に思ってるだけなんだけどさ」
由奈と桂花は笑い合っている。
健斗は少し驚いた顔で由奈を見ている。
健斗はもう一度写真を見た。
そして、少しだけ間を置いてから、穏やかな声で言った。
「……やっぱ、由奈、浴衣似合うじゃん」
三人が健斗を見た。
一瞬、テーブルが静まり返る。
「俺、前に、言ったじゃん。由奈、似合いそうって」
桂花が嬉しそうに言った。
「えっ、それって、中学のときのこと?
高野、ちゃんと覚えてたんだ。私も、あれ、覚えてた」
「俺も覚えてた」
晴基が頷いた。
健斗が由奈を見た。
「……由奈は?」
「……えっ」
健斗は由奈を見つめたまま。
みんなが待つ雰囲気。
由奈は少し答えにくそうに言った。
「うん……私も、覚えてたけど……」
そう言って俯いた。
健斗は嬉しそうに目を細めた。
「へぇ、なんか、これ、いい話じゃん」
桂花がにやっと笑った。
由奈がしどろもどろに言った。
「……あ、あのさ、この浴衣、こっちの子のお姉さんのを借りてたから、お祭りの後、家に返しに行って、泊めてもらったの」
それを聞いた健斗の表情が明らかに緩んだ。
そして、茶化すように言った。
「へー、女子会ってこと?」
「ふふ。そうだね。楽しかったよ」
桂花が身を乗り出す。
「ねぇ、春日くんの話もした?
あの子、やばいね」
「え?」
「めっちゃかっこいいじゃん。
しかも、由奈のこと、気にしてない?
“かわいい”って言ってたし。
あんなときに言えるのって、なんかすごいって思っちゃった」
桂花は嬉しそうに言ったが、由奈は苦笑した。
「ああ。あれは……びっくりしたよね」
健斗は目を泳がせた。
(……やっぱ、その話、出るよな)
桂花が言った。
「あのあと、なんかあった?」
由奈が笑いながら首を横に振った。
「なんかあったって、なにそれ。
普通にみんなで楽しんだだけだよ」
少し間が空く。
桂花が軽く肩をすくめた。
「まぁ、そのうちなんかあってもおかしくないよね。あの感じ。
春日くん、由奈の隣、取ってたじゃん」
「えー、ないない。隣にいたのも、たまたまだよ」
「……ま、いいけど、なんかあったら教えてよ。
私、ちょっとトイレ行ってからドリンク取ってくるね」
「俺も、行こっかな」
そう言って、晴基と桂花が席を立った。
由奈と健斗だけが残されたテーブル。
由奈は、なんとなくそわそわしていて、健斗の方を見ようとしない。
健斗は由奈を見ながら、小さく深呼吸をし、ぼそりと言った。
「……さっきの。浴衣のときの」
「え?」
由奈が顔を上げた。
健斗はそれを見て一息に言った。
「……めっちゃ、かわいかった」
「へ?」
由奈は驚いた顔で固まった。
健斗が目を合わせると、慌てて逸らした。
それを見て健斗は小さく笑う。
「……さっきまで普通だったのに、こういうときは目逸らすんだな」
「ちっ、違うし。
だっ、誰のこと言ってるの?
私の友達以外にも、あの場にたくさんいたよね」
「は?由奈に決まってんだろ。
他の子、いちいち見てねーし」
少しの間。
「高野くん……それ、おかしくない?
裕香ちゃん綺麗だったし、佳菜ちゃんかわいかったよ」
「またか、そういうの。
言うなって言ったし」
「……あっ、ごめん。でも……」
「でも、なに?」
少し困ったように由奈は笑った。
「ほんとに、こういうの、言うようになったよね。
高野くんて、モテるけどそういうタイプじゃないと思ってた。
高校生になると、やっぱり変わるんだね」
健斗は、顔をしかめた。
「……いや、そういうことじゃなくて」
一瞬、言葉が詰まる。
「お前……なんでそうなるんだよ。
お前の周りは知らんけど、こんなこと普通言わねーし」
少しだけ視線を外し、すぐに由奈に戻した。
「俺だって、恥ずかしいけど……言いたいから言ってるだけだよ」
「えー、そんな……。
だって、高野くんの周りにいる女の子の方が、きっと浴衣姿、かわいいよ。
それに、高野くんが私にそんなこと言ったら、変だよ」
健斗は小さく息を吐いた。
(まただ……)
「……変ってなんだよ。
しかも、俺の周りにいる女子って何?
それに、春日が言ったら、由奈、こんなふうに言わなかったじゃん」
「あ……」
由奈が息を飲んで目を見張った。
「それに……」
健斗はまだ何か言おうとしたが、そこに晴基と桂花が戻ってきた。
「なんか……取り込み中?」
「あ……っ。
なっ……なんでもないよ」
由奈が少し早口で答えて水を飲んだ。
桂花がその様子をじっと見る。
(なに、この由奈の慌てよう)
視線を横に流す。
(……さっきの高野、口調はきつかったけど。
なんか、スッキリした顔してる)
桂花は由奈と健斗を交互に見た。
(また、なんかあった?)
健斗は頬杖をつきながら窓の外を見ている。
(由奈、春日のことなんとも思ってなさそうだな。何にもなかったっぽいし)
(だからってことじゃなくて……由奈と、今みたいに話せなくなるの嫌だ)
そう思ったら、妙に心が軽くなった。
(由奈じゃなかったら他の子と……なんて、ないな)
(……ちゃんとしないと、ダメだ。
もう、由奈のこと、“どうでもいい”なんて思いたくない)
健斗がそう思って由奈を見たとき、晴基が時計を見て立ち上がった。
「よし、小学校に電話してくる」
そう言って、外に出て行った。




