第42話-D 高校1年生 ~やっぱり、そうだよな~
そして、翌日の8月7日(月)。
四人で志野先生に会いにいくと決めていた日。
いったん、ファミレスに集まった。
健斗は一番に到着し、三人を待った。
昨夜は一度、目が覚めたが、前の日よりは、よく眠れた気がした。
落ち着かなくて早めに家を出た。
次に来たのは晴基。
「健斗が一番なんて珍しいな」
その言葉に健斗は笑顔だけ返した。
祭りのあと、晴基から来た連絡には、一度、適当に返したきりだった。
その後、由奈と桂花が一緒に入ってきた。
由奈はいつもと変わらない様子で桂花と談笑している。
由奈が健斗の向かいに座ったとき、健斗は思わず顔を逸らした。
昼食は済ませていたので、ドリンクとスナックやデザートを頼んだ。
由奈と健斗の間に、フライドポテトの皿が置かれた。
由奈は、健斗の予想通り――
何もなかったみたいに、いつもの由奈だった。
祭りの時の話は出なかった。
それは一応、健斗には救いだった。
けれど――
何かあったからこそ、何も話さないのかもしれない。
そう思って、一瞬モヤっとしたが、
(……別に、どうでもいいし)
とりあえず押し込めた。
一昨日の夜は、冗談めかして由奈に「付き合おう」と言ってみるかと思った。
――けど、
(……それは違うな)
これを軽い冗談にしたら、何かが壊れる気がした。
一方で、健斗は自分に言い聞かせる。
(由奈は、女子って枠じゃない。
どんな話でも楽しめるのがいいところ)
そうでも思っていないと、また変な考えに引っ張られそうだった。
「ねぇ、食べちゃうよ」
由奈が割り箸を割り、ポテトをつまみ始めた。
「ここの、美味しいよねー」
嬉しそうに、次々と口に運んでいく。
その様子を見て、健斗は少し腹立たしくなった。
(やっぱり、気にしてたの、俺だけかよ)
(こいつ、人の気も知らないで……)
(まぁ、でも……。
春日と何かあっても、わざわざここで言わねーよな……)
そう思ってモヤッとする。
健斗は小さく深呼吸してからポテトにフォークを伸ばし、由奈を見た。
「……ポテトさ」
健斗が言うと、由奈が顔を上げた。
「ん?」
健斗は真顔で言った。
「太いのと細いの、どっち派?」
「え、細いの」
由奈は即答した。
「マジか」
「え……なにその反応」
「いや、普通、太い方だろ。ホクホクしてる方がいいし」
「えー、それ普通じゃないし」
由奈が顔をしかめた。
「細いののカリカリ感、なめてるでしょ」
健斗の表情は少しずつ明るくなっていった。
「いや、それって、わざとらしいカリカリだろ」
「なにそれ。意味わかんない。
じゃ、これ、食べなくていいよ」
由奈が皿を自分の方に引き寄せた。
「おい」
語気の強さに反して、健斗の顔が緩んだ。
そして、緩んだ顔のまま皿を取り返す。
晴基が苦笑した。
「くだんねー」
そう言って、プリンを口に運んだ。
桂花も晴基にだけ聞こえるように言った。
「……高野、ちょっと元気になったね。
お祭りのとき、あんな感じで帰っていったから、ちょっと心配してたけど」
「ああ。さっきまで、冴えない顔してたな。
だから、まぁ……これはこれでいいんだけどさ……」
少しだけ間を置いて、晴基は健斗をちらっと見た。
(でも、これで満足してたら、ここまでなんだよな)
「あーあ、春日って大人っぽかったよねぇ」
桂花がそう言うと、晴基は深く頷いた。
「まったくだ」
その横で、由奈と健斗はポテトを取り合っている。
「それ、俺の」
健斗が言う。
「違うし。私のだよ」
由奈が返す。
「いや、最後の一本は普通譲るだろ」
「なんで?」
「いや、なんでって……」
「じゃあ、高野くんが譲ってよ」
「嫌だ」
「えー、私には言うのに」
「いいんだよ!」
「なにそれ、子どもみたい!」
由奈が笑いながら突っ込む。
「……うるさい」
少しだけ不満そうに言いながらも、健斗は結局、皿を由奈の方に押した。
「ほら」
「え、いいの?」
「いいって」
「ふふ。最初からそうすればいいのに」
「うるさいな」
由奈は皿を引き寄せて、笑った。
「でも、ありがとう」
その顔を見て、健斗は一瞬だけ視線を逸らした。
(あー、やっぱり、ダメだ……)
じわじわと感じる。
他の誰かと、“適当に付き合う”なんて、できそうにない。
そんなことをしたら、由奈との距離は一気に広がる。
たとえ、すぐにその相手と別れて、
“あれは本気じゃなかった”なんて言っても――
もう戻れない気がした。
(……せっかく、また会えたのに)
(……そうだよな)
健斗は最後のポテトを食べる由奈を見て、ため息をつくように笑った。
「……なに笑ってんの?」
由奈が不思議そうに言った。
健斗は一度、視線を落とした。
少しだけ間を置いて――
「……ねぇ、由奈」
健斗の声のトーンがこれまでと変わった。
ずいぶんと穏やかだ。
晴基と桂花が思わず健斗を見た。
健斗はその声のトーンのままで言った。
「あのときの写真、見せて。祭りのときの」
「え、いいけど。
誰か、見たい子でもいるの?」
そう言って由奈はスマホを取り出した。




