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図書室からつづく異世界   作者: 柚子水
第一章 小学校時代
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第12話-B この教室も終わり

由奈と健斗が給食のカレーの話をしていた日から一週間後の昼休み、ふたりはその日と同じ場所で話していた。


「ねぇ、高野って、由奈と話してると楽しそうだよね」


「えっ、そんなことないでしょ」


「そんなこと、あるよ。

……前から思ってたけど」


「そんなことないよ。

高野くんなんて、いつだって楽しそうだし。みんなとそんな感じじゃん?」


桂花は由奈をじっと見た。


「なに?桂ちゃん」


(そういうわりに、高野の話、わりとするよね)


桂花は由奈に何も言わずに健斗の方を見た。


健斗は相変わらず男子のグループでふざけ合っている。


(まぁ、たしかにいつも楽しそうだけど)


そのとき、由奈が教室の出入り口近くにいたクラスメイトから呼ばれた。


桂花もそちらを見る。


(あ、足立)


夏の頃より少し顔つきも大人びた気がする。

背は由奈より低かったが、同じくらいになっている。


「足立くんだ」


由奈は侑真の方へ歩いていった。


桂花が由奈の背中を追うと、侑真が由奈に笑顔を向けた。


桂花ははっとして華恵の方を見た。


(あ、やっぱり)


華恵は由奈と侑真を見ていた。


見回すと、由奈と侑真の方を見ているクラスメイトがちらほらいた。


(まぁ、気になるよね)


由奈と侑真は周りを気にせず話している。


(あの二人、前からあんな感じだよね)


桂花がそう思って見ていると、次の瞬間、視界に華恵が現れた。


「は?」


桂花は思わず声が出た。


華恵が由奈の肩を叩いて笑顔で話しかけた。


「由奈!」


由奈と侑真は一瞬、驚いた顔をした。


桂花も思わず目を見開いた。


一瞬、教室中が静まり返った。


華恵は気にせず、侑真に微笑んでから由奈の横に立ち、由奈と侑真の話に頷いている。


(なんか、由奈、ちょっと引いたよね……。一応、三人で話しているようには見えるけど)


桂花が教室を見回すと、ほとんどのクラスメイトが三人をちらちら見ていた。


(松原って、すごいな……)


桂花の脳裏には、華恵たちにされた仕打ちがいくつも思い浮かんだ。


今、華恵は少し前のめりになって侑真に話しかけている。


桂花は小さく息をついて窓の外を見た。


***


数日後の放課後――


由奈と桂花は教室から昇降口に向かって歩きながら健斗と莉乃の話をしていた。


桂花が冷めた声で言った。


「多分、あの二人、戻ることないよね」


昇降口で靴を履き替えながら、由奈は呟いた。


「なんか、高野くんと莉乃ちゃんって、あんなに両想いっぽく見えてたのに、話さないのが当たり前になっちゃった。

……二人ともそれで平気なのかなぁ?

ほんとに仲良かったのかわからなくなってくるし」


桂花は由奈を見た。


由奈は考えこんだときの顔をしている。


(由奈って、なんでも考えようとするなぁ)


桂花もさっさと靴を履き替えた。


(由奈が考えてること聞くの、結構面白いけど)


傾きかけた陽射しが正面から差し込んでくる。


昇降口から出てすぐ、由奈は陽射しに目を細めて言った。


「なんかさ……あの二人のこと……目の前で起きたことなのに遠いところで起きたことみたい」


桂花は小さく笑った。


「うん、わかる。私たちには関係ない感じがする」


「そうだね。私もよくわからない」


「でも、あの二人、中学校に入ったら、また仲良くなったりして」


桂花がそう言うと、由奈は一瞬、息を飲んだ顔をしたが、すぐに笑って答えた。


「そうかもねぇ。だって、莉乃ちゃんだもん」


桂花も笑った。


「うん、たしかに。中学に入ってから渡瀬さんが笑って挨拶したら、高野は普通に応えそうな気もする」


「ね。

知らないうちに仲直りして付き合ってたりするかも」


「えー、知らないところでそういうの起きるの、なんか悔しい」


「あー、なんかね。その気持ち、わかる」


二人で顔を見合わせてひとしきり笑った後――


由奈は小さな声で言った。


「……でもさ」


由奈は一度、俯いてから顔を上げた。


「きっと、戻らないよ」


桂花は由奈を見た。


「うん、私もそうだと思う。だってさ、高野は謝ったけど、渡瀬さんは許さなかったし」


由奈は前を見たまま頷いた。


「うん、あれは高野くん、結構きつかったと思う。みんないたし」


「高野、今は、渡瀬さんのこと、気にしてないよね?」


「うん……」


「最近は高野が避けてるようにも見えない?」


「うん、そうかも」


「だよね。

……これは、絶望的にダメな気がする」


「うん、そんな、気がするね」


由奈は空を見ながら言った。


桂花がつられて見上げると、薄い雲が淡い青空をゆっくり流れていた。


少しの間、二人で空を見上げていたが――


「うん、絶対あの二人、戻らないわ」


桂花は軽く言って歩き出した。


「えっ?」


由奈は驚いた顔で桂花の方を見たが、桂花の背中は少し離れたところにあった。


「桂ちゃん、なんで“絶対”なの?!」


由奈は桂花を小走りで追いかけた。


由奈が追いつき、桂花と並んで歩き出す。


由奈がぽつんと言った。


「……高野くんてさ、中学でもモテそうだよね」


桂花は前を見たまま答えた。


「あ……うん。モテるんじゃない?他の小学校からも来るし、とりあえずいろんな女子と仲良くなるでしょ。

でも、渡瀬さんも、きっとモテるんじゃないの?」


「だよね。

まぁ、高野くんがモテるところも莉乃ちゃんがモテるところも、きっと、私たちは見ることないよ」


「うん、きっとないね」


由奈が小さくため息をついた。


「まぁ、なんでもいいけどね」


二人の分かれ道に着いた。


桂花は由奈を見て言った。


「由奈も高野と仲いいじゃん」


由奈はきょとんとした顔をした。


「またそれ?

高野くん、テキトーに話してるだけだよ」


「楽しそうだけど?」


「ううん、私にはテキトーでいいから気楽そうに見えるんじゃない?」


「そうかなぁ?」


「そうだよ。

じゃあ、また明日ね」


由奈はそう言って手を振った。


桂花も手を振り、それぞれの方向へ帰り始めた。


―――


それからも、教室の時間は刻々と流れた。


卒業式の準備時間が増え、先生の口からも「中学に入ったら」という言葉がよく出てくるようになった。


昼休みは相変わらずの光景。


健斗は男子たちと騒ぎ、莉乃はいつもの男女のグループで笑っていた。


華恵たちも四人でお互いの気に入ったものを見せ合って褒め合いながら過ごし、大人びた女子たちは、この頃にはますます中学生に近い雰囲気になっていた。


教室の後ろには卒業までの日数が書かれるようになり、卒業を嫌でも意識しなければならない。


「あと十日だって」


「早いねぇ」


由奈と桂花は体育館の裏に向かった。


今日は陽射しが暖かく、外でも過ごせそうだった。


「ここ来たの、久しぶりだね」


「うん。やっぱり、落ち着く」


「中学に入ってもこういうところ、あるといいね」


「そうだね。同じクラスになれないかもしれないけど、昼休みには会いたいね」


少しの沈黙の後、由奈が呟いた。


「ここに来ると、いつも気持ちが少し楽になってたな。息ができるって感じで」


桂花は由奈を見て頷いて言った。


「図書室もよかったよね」


「うん、司書さんもいたから安心できた」


桂花は空を見上げて言った。


「今でもあのクラスの雰囲気が好きってわけじゃないけどさ、あの場にいちゃダメなんだと思うことはなくなったな」


少し考えた顔をした後、由奈は頷いた。


「そうだね。気づいたら、私たち、昼休みも教室にいるようになってたしね」


陽射しには春の明るさが混じっていたが、吹き抜ける風はまだ冷たかった。


「まだちょっと寒いね」


「うん、でも、まだここにいたいな」


―――


そうこうしているうちに、卒業式。


(いろいろあったけど、このクラスも終わりか)


卒業式を終えて教室に戻り、最後のホームルームも終わった。


親たちは体育館に集まって話を聞いており、今は親を待ちながら友達同士で集まって話している。


桂花は教室を見回した。


春の風が吹き抜けて、教室のカーテンがゆるやかに揺れる。


由奈は侑真に呼ばれて廊下で話している。


華恵のグループもそこにくっついているのが見えて、桂花は慌てて教室に引っ込んだ。


すると、いつもの男女のグループの中で話しながら、視線がどこかに泳いでいる莉乃が目に入った。


桂花がそっと視線をたどると――男子たちが卒業証書の筒を手に、いつものようにふざけ合っていた。


そして、そこには健斗もいた。


桂花は小さく息をついた。


(なんなの……)


桂花は窓の外から校庭を眺めた。


(松原、卒業式の日まですごいな。

渡瀬さんはよくわかんないけど……まぁ、いいや)


窓から差し込む陽射しは、少し前よりもずっと明るかった。

校庭を吹き抜ける風も、体育館の裏で二人で話したあの日ほど冷たくはない。


桂花は目を細めた。


(もう春なんだな)


―――


そして――中学校。


クラス発表の模造紙が貼り出された掲示板の前で、桂花はぼんやりと自分の名前を見つめていた。


(うちのクラス、前のクラスから一緒なのが高野だけとか……なんなの)


教室へ移動するよう声がかかり、桂花はゆっくり歩き出した。


教室の中はこれまでとは違う顔ぶれ。


健斗は同じ小学校出身の男子と話している。


黒い学ランを着た健斗は、見慣れたはずなのに少し違って見えた。


(高野も中学生なんだ……)


桂花は自分のセーラー服の袖をちらりと見た。


(まぁ、私もか)


桂花は自分の席に向かった。


(由奈とはやっぱりクラス離れちゃったな)


(話す相手なんて、すぐにできっこないし)


周りでは席が近くになった生徒同士がぎこちない笑顔で話していた。


桂花は黙って席に着き、前の黒板を見た。


(あー、やっぱり新しいクラスってこういうの面倒だな)


黒板には、カラフルにチョークでデザインされた文字が書かれていた。


“入学おめでとう”


(……あれ、消すの大変だろうな)


ふわりと由奈の顔が思い浮かんだ。


(面白いことがあったら、由奈に報告しよう。

今日、由奈に会えないかな……)


一瞬、教室の出入り口の扉を見てから桂花は俯いた。




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