第10話 教室の景色、体育館裏の恋話
夏休みが終わり、二学期が始まった。
由奈と桂花は週に数回図書室に通っていたため、学校が久しぶりには感じなかったが、教室に行くのは気が重かった。
初日のある休み時間、由奈と桂花は由奈の席で話していた。
桂花がちらっと松原華恵を見ると、教室の前方で取り巻きの女子たちと大きな声で笑っていた。
(夏休み中、足立にはまた会ったけど、松原さんには会わなかったな)
教室の前方は華恵や莉乃たちに健斗や晴基も加わり、更に賑やかになった。
桂花は小さく息を吐いた。
(いっそあの子たちだけのクラスにしちゃえばいいのに。あの子たちも嬉しいだろうし、こっちもほっとするし)
先生の目がなくなる昼休みには、由奈と桂花は体育館の裏や図書室に移動して過ごした。
業間の十分の休み時間でさえ、華恵たちは標的にした相手に聞こえるよう悪口を言ったりしていた。
自分たちが標的でなくても、嫌な気分にさせられる。
だから、三十分もある昼休みにずっと教室にいるのは由奈と桂花には難しかった。
(どうせここにいてもいなくても悪口言われる。それなら聞かされない方がいいし)
そんな気持ちで、由奈と桂花はいつも昼休みは教室から出ていた。
桂花はふと夏休みに図書室で見た華恵の表情を思い出した。
――ただ足立を追いかけるように図書室へ入ってきた。
声をかけるわけでもなく、足立が話している相手も最初からわかっていたかもしれない。それでも、同じ部屋にいることを選んだ。
そして、しっかりと足立を見ていた。
(あのときの松原さんはとにかく足立を見たかったんだろうな。あの子は自分の気持ちを抑えられるタイプじゃないから)
桂花は宙を見た。
(まったく、松原さんのこういう姿、足立に見てもらいたいよ。
……でも、足立、松原さんのこういううところ、わかってそうな感じもしたな)
華恵たちはひそひそ話しながら嫌な笑顔を浮かべていた。
それを横目に見ながら、桂花は教室を出た。
二学期もそんな日々が続いた――
そんな空気の中でも教室の中では恋愛の話も盛り上がっていて、中心にいる子たちがお互いを冷やかしたり応援し合う声も聞こえてきた。
そして、二学期も終わり頃に近づいたころには、健斗と莉乃は“両想いらしい” というのが教室の共通認識となっていた。
クラスで一番人気の男子と女子が両想いだという空気は興味といろいろな思いを搔き立てた。
健斗が他の女子と楽しそうにしていると、みんな莉乃の顔色を窺った。
莉乃が他の男子に話しかけられていると、健斗の視線がそちらへ向いた。
その空気を面白く思っていないような顔をしている子たちもいた。
健斗と莉乃の当人たちもクラスの空気を意識していたのか、二人で話している時、莉乃の顔が赤くなり、健斗は冷やかしに来た男子たちを嬉しそうに追い払っていた。
桂花と由奈は、その様子を眺めてはこっそり楽しんでいた。
相変わらず華恵たちの気分次第で誰かが悪口やからかいの標的になっていたから、由奈と桂花は早く休み時間が終わってほしいと願いながら、本を読んだり次の授業の準備をするふりをして休み時間が終わるのを待った。
誰が誰を好きなのかを密かに観察するのは、そんな時間をやり過ごす方法の一つだった。
業間の休み時間に観察したことを、昼休みの体育館裏で由奈と桂花は話題にした。
「高野、あれ絶対照れてたよね」
「莉乃ちゃんも、耳まで赤かった」
「あ、今、高野くんが他の女子と話してるから、莉乃ちゃんちょっと微妙な顔してる」
「この前は、二人の世界だったよ」
「あの子が泣いてたのって、高野が渡瀬さんと仲良く話してたからだよね?」
「こんなふうに私たちが話していることがクラスの子たちにわかったら、何を言われるかわからないよね」
「うん、だから、ここでしか話せないね」
そしてある日、桂花は晴基が莉乃のことを好きだという噂を耳にした。
その日の昼休み、体育館裏で桂花が由奈にそれを話した。
「えっ、それ大変じゃん!」
由奈が驚くと桂花は笑った。
「高野と古山、二人で渡瀬さんの話とかするのかなぁ?」
「どうだろ、男子同士って。
でも、なんとなく、古山くんが気持ち我慢してそうだよね」
「あー、わかる。古山、大人だし。
やっぱり高野と渡瀬さんが両想いってこと、見ててわかるしね」
「うん、そうだよね」
「でも、これからはそこも観察しなきゃ」
そんなふうに二人で勝手なことを言いながら笑った。
“教室の中心にいる人物”たちが、みんなを巻き込んで大声で何かを言い合ったり冷やかし合って笑っているとき――
離れたところから眺めている二人には、それぞれの視線や表情がよく見えた。
(高野と渡瀬さんの周りにいる男子も女子も、本当は、「莉乃が好き」、「健斗が好き」って思ってそう)
(でも、あの子は古山くんを好きそうだな)
二人はそれぞれの目で“登場人物たち”を見ていた。
(特に仲良くない子たちでも、誰が誰を好きなのかを観察するの、ちょっと面白いな)
桂花はそう思って見ていた。
けれど、由奈は少し違う気持ちで彼らを眺めていた。




