第9話-B 中学1年生 ~春の帰り道~
春の夕暮れ時。
校門を出た通りには、長い影が伸びていた。
由奈と桂花は並んで歩いている。
その後ろから、ふたり分の足音。
「おーい、また一緒かー」
軽やかな声に振り向くと、健斗だった。
健斗と晴基が自転車を押して歩いている。
「なんかさ、いつも一緒だな」
健斗が笑うと、晴基が目を細めて頷いた。
由奈はふっと笑う。
「そっちだって、じゃない!」
「まあ、それもそうか」
「でも、いいね。いつも仲良くて」
由奈の穏やかな笑みに、健斗が視線を逸らす。
(……なんで高野、目逸らした?)
桂花の胸に、微かな違和感が残った。
「……じゃ、また明日な」
健斗が軽く手を振り、晴基とともに歩いていく。
「もうクラス違うんだから、明日会うかどうかわからないのにね」
由奈が笑って手を振り返した。
夕日の中、ふたりの背中が遠ざかる。
少しの沈黙。
歩道を踏みしめる靴音だけが響く。
由奈がぽつりと口を開いた。
「……高野くんと莉乃ちゃんて、どうなったんだろうね」
桂花は横顔を見た。
由奈は前を向いたまま、穏やかな笑みを浮かべている。
「二人が決裂する前は、中学生になったら付き合うと思ってたよね、みんな」
「うん」
「でも、結局、なにもなかったんだね」
「そうだね。たぶん、何か見えちゃったんじゃない? 高野の本当のところ」
「本当のところって?」
「悪いやつじゃないけど、ちょっと子どもっぽいでしょ」
由奈はくすっと笑う。
「うん、でも、そういうとこがいいんじゃな
い? 明るくて、優しくて」
「……由奈は、そう思うんだね」
「うん」
春風に髪が揺れる。
その笑顔は柔らかく、どこか切なかった。
「別に……どうでもいいけど」
由奈がそう言った声は、強がりにも、本心からの言葉にも聞こえた。
「えー、なにそれ?」
桂花が笑う。
ふたりの笑い声が、夕焼けに溶けた。
沈みゆく太陽が、ふたりの影を長く伸ばしていく。
重なり合った影が、春の終わりが近いことをそっと告げていた。
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夏の終わりから秋にかけて、体育祭などのイベントがある。
足の速い子に憧れたり、応援団長に恋する子もいるだろう。
――好きな子が使ったハチマキをもらいたい女子が話題にする。
その時、小学校の時に好きだった子を思い出した子も少なくないだろう。
みんなが浮き立つ空気。
――そんな空気が、学校中に流れていた。




