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図書室からつづく異世界   作者: 柚子水
第四章 高校1年生 夏休み
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第50話-B  高校1年生 ~出発当日 2~

荷物を手に、四人は歩き出した。


小学校へ向かう道。


小学校を卒業してから、ずいぶん経つ。


こんなに足を運ぶことになるなんて、想像もしなかった。


特に今日は――


期待と不安。


胸の奥で、その両方がせめぎ合う。


けれど、四人はいつものように話しながら笑って歩く。


誰も口に出さなかったけれど、

――もう、今までと同じではいられない。


そんな思いが、それぞれの背中に静かに宿っていた。


男子二人が前を歩く。


暑さとキャリーケースの車輪の音で、だんだん四人の口数が少なくなっていく。


誰も何も言わない。


学校の敷地に入り、正面玄関に行くと、既に先生が待っていてくれた。


「先生、お待たせしました」


先生はいつもの笑顔で迎えてくれた。


「健斗、結局、荷物、それだけか?」


先生が健斗の荷物を見て驚いた。


「はい」


晴基がすかさず言った。


「しかも、ここにポテチ三つ入ってるらしいですから」


「え? それじゃ、ほとんど自分の荷物がないじゃないか」


「そうなんですよね。さすが健斗っていうか」


「そうだな」


「あちらで、すぐにいろいろもらえるんじゃないかな。あの本にもそう書いてあったし」


健斗はさらりと言った。


それを聞いて由奈は笑う。


「そんなこと言って、準備するの面倒だっただけじゃないの?」


「まぁなー」


先生が笑って玄関の扉を開けてくれた。


由奈が靴を脱ぎながら言った。


「今日は、靴、持ってかないとね」


「あっ、そうだよな」


「高野くん、袋とか持ってる?」


「いや、ここに直接入れてくしかない……かな」


「はい、これ、使って」


由奈はビニール袋を差し出す。


「おっ。ありがとう。さすが由奈だな」


「私も、何も持ってないな」


桂花が言うと、由奈は袋を差し出す。


「ありがとう」


「一応、みんなの分、持ってきたの。

けど、ごめん、こんなことなら連絡すればよかったね」


「俺はちゃんと持ってるから」


「さすが、晴基」


それぞれ靴をビニール袋に入れてから荷物にしまった。


玄関横の事務室の職員たちは、志野先生に気づいて頭を下げたが、卒業生が一緒にいることはたいして気にしないようだ。


そして、由奈と桂花はキャリーケースを廊下で引きずらないように持ち上げて歩いた。


図書室は二階。


階段のところで、先生が由奈と桂花の荷物を見た。


「荷物持って上がるの、重いよな」


「あ、なんとかなりますよ。そんなには入ってないんで」


由奈がそう言ってキャリーケースを持ち上げようとしたとき、健斗が持ち手に手をかけて言った。


「持つよ」


「え?

私は大丈夫だから。それなら桂花のを……」


健斗は何も言わずに由奈のキャリーケースを持ち、階段を上り始めた。


「ちょっと、聞いてる?」


由奈は慌てて健斗についていく。


先生は呟いた。


「健斗、優しいなぁ」


先生はそう言って、桂花のキャリーケースを持って階段を上がり始めた。


「あっ、先生、ありがとうございます」


桂花はその後ろをついていく。


晴基は四人を眺めながら、一番最後に階段を上った。


二階の廊下を歩くときも、健斗は由奈のキャリーケースを持ったままだった。


「あの、高野くん、ありがとう。

私、持つから」


健斗は笑いながら言った。


「いいよ、別に。この前は、めっちゃ軽い由奈のバッグでも持ったし」


「うん、最近、いつも持ってくれるけどさ。

私、大丈夫だよ。結構、力あるからさ」


「いや、いいって」


「もう、意味わかんない」


二人のやり取りを見て、先生は桂花に尋ねた。


「仲良いな」


「最近、あんな感じなんですよ。

由奈は……多分、わかってないですけど」


「はぁ、そうなんだ……」


そうこうしているうちに図書室前に着いて、先生が鍵を開けた。


由奈は小さく深呼吸をした。


由奈の荷物は健斗が持ったまま、室内に入った。


書庫に入り、小部屋の扉を開ける前に、桂花が静かに言った。


「今更だけどさ、こんな準備してきて、魔法陣が動かなかったら……って思わない?」


由奈は笑った。


「大丈夫だよ、あんなにそっくりに描けてるんだから」


「……そうだけどさ、魔法陣が動かなかったら、まだしばらくこちらにいられるよ。

“今はまだ無理だっただけ。後でちゃんと行く”って、自分に言い訳できる」


「……まぁ、そうだね」


由奈はそう言って少し首を捻ったが、すぐに桂花の顔を見た。


「けどさ、行くしかないんだし」


「……そうだよね」


桂花はそう言って目を伏せた。


「桂花、どうしたの?」


「……みんな、行きたくないって思ってるんじゃないかなと思って。

私でさえ、昨日、家族と過ごして少し名残惜しかったから」


晴基は軽い声で言った。


「まぁ、それはそうだけどさ。

由奈の言う通り、行くしかないんだし。

だからこそ、二週間で一旦戻ることにしよう」


健斗が続いた。


「うん。俺もみんなみたいにちゃんとできる気がしなくて不安になる」


先生が苦笑した。


「健斗、そんな風に思わなくてもいいのに」


「みんな、得意なことありそうだけど、俺にはないし。だから、俺でいいのかなって思う」


健斗は続けた。


「でもさ、もし、俺たちが異世界の勇者を待ってる立場だったら……。

来てくれないってなったら、めっちゃ腹立つよな。

しかも、最初から、“無理です”とか言われたらさ」


晴基が頷いた。


「ああ。それ、腹立つな」


由奈も頷いた。


「うん。私もどうして私が選ばれたのかなって思うけど、普通に暮らしてる人たちが困るのは嫌だから、行かないといけないって思う」


桂花は三人を見た。


「そっか。みんな、ちゃんと覚悟が決まってるんだね」


三人とも頷いた。


「じゃ、開けるぞ」


先生が小部屋の鍵を開けた。


「まず、最後の線、書き足すか」


晴基が机に置いたマジックを見て桂花に言った。


桂花は頷いて記録の書を開いた。


「じゃ、小藤さんが」


晴基は桂花にマジックを渡した。


「いいの?」


「ああ、最初、がんばってたくさん描いてくれてたから、仕上げもやってよ」


「ありがとう。じゃ、描くね」


桂花がしゃがみ込み、慎重に最後の一本を描き足した。


――マジックの先が止まった瞬間、淡い光がゆっくりと浮かび上がり、

魔法陣全体が脈打つように輝き出した。


「うわ……」


最初に声を漏らしたのは健斗。


「ほんとに光った……」


晴基が息をのむ。


「ちゃんと動いた……よかった」


桂花が胸に手を当て、ほっと息を吐いた。


「やばい、めっちゃ緊張する……」


由奈は、何も言わずに光に見入っていた。


先生がふと気づいたように言った。


「ここにも書かれたってことか」


現実世界編が光を放っている。


「……ああ、ちゃんと記されたな」


“選ばれし四人が、オートルモンドへと繋がる転移魔法陣を起動した”


小部屋の空気が静かに張り詰める。


由奈が隣の机に置かれた異世界編に目をやると、やはり光っていた。


「ねぇ、こっちにも書かれてるよ」


三人も覗き込んだ。


「ほんとだ」


「繋がったんだな、両方の世界が」


「あっ、これは忘れずに持って行かないとね」


由奈が異世界編に触れながら言うと、健斗が手を伸ばした。


「俺、荷物軽いから持ってくよ」


三人が頷いた。


「ほんとに――いよいよだな」


静まり返った小部屋に、先生の声が落ちた。


その声に、四人の背筋が自然と伸びる。


志野先生は穏やかに頷いた。


「――無事に行って、無事に帰ってこい。


正直、危ないと思ったら、無理はせずに戻ってきてほしいって思ってる。


でも、向こうで実際にどう動くかを決めるのは、きっと君たちだ。


四人でちゃんと話して、その時、一番いいと思った選択をしてくれればいい。


俺は、それを信じてる。


困ったことがあったら、何でも協力するからな」


「ありがとうございます」


「無事に帰ってきます。まずは二週間、あちらに滞在してみます」


「それくらいの気持ちで行った方がいい。

……でも、こちらでは、まったく時間が経たないんだな」


先生は小さく笑った。


「そのはずです」


魔法陣の淡い光が四人を照らしていた。


誰も声を出さなかった。


四人は互いに視線を合わせ、無言のまま頷いた。

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