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図書室からつづく異世界   作者: 柚子水
第四章 高校1年生 夏休み
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第50話-C  高校1年生 ~出発当日 3~

みんな、光る魔法陣を見つめていた。


「これ、ちょっと怖いな」


「なんか、現実味ないね」


「乗ったら、いきなり飛ばされるってことはないよね」


「そこは、大丈夫なはず……」


健斗が異世界編を指しながら言った。


「あのさ、魔法陣に入ってから唱える言葉、確認しない?」


晴基が頷いた。


「そうだな、念のため、見ておくか」


健斗が異世界編の該当ページを開いた。


「これ……だよな」


健斗が指すと、みんな頷いた。


「今、口に出すと、ちょっと怖いね」


「うん、なんか起きちゃうかもって思う」


「これさ、意味がわからない言葉じゃないんだよな。長々してるわけじゃないし」


「要は、私たちが“こういうこと”を思えばいいんだもんね」


「ああ。ほんとは口に出さなくてもいいはず」


「でも、初回はみんなで言った方が良さそうだね。タイミング合わないと、どうなるかわからないし」


ひとしきりの会話が終わって、静かになった。


しばらく、誰も何も言わなかった。



――静寂を破ったのは晴基だった。


「そろそろ、行くか」


みんな、晴基を見た。


(やっぱり、みんな、怖いよね)


由奈は三人の顔を見ながら、小さく息を吐いた。


そして、先生に向かって言った。


「先生、多分、私たちが旅立ったら現実世界編に書き込まれますよね。

そしたら、栞を挟むの、お願いします」


「ああ、そうだ。早速、大役たいやくだな」


「はい、お願いします」


晴基が茶化すように言った。


「先生、ちゃんとやってくれないと、俺たち、いきなり行方不明だから。

頼みますね」


先生は晴基の横に立ち肩を叩いて言った。


「ああ、任せて。

みんな、晴基がいれば、なんにしろ安心だよな」


晴基は笑った。


「先生、それ、プレッシャーだから!」


みんな、笑いながら頷いた。


荷物を持ち直して、光の満ちた魔法陣の中へと歩み出した。


由奈は深呼吸して続こうとすると、志野先生が由奈の耳元で言った。


「由奈、仲間に頼れよ。抱え込まないようにな」


由奈は少し驚いた顔をした。


「私にはちょっと難しそうだけど……。努力はしてみます。

先生、ありがとうございます」


由奈は笑顔で頷き、荷物を引っ張りながら魔法陣の中に進んだ。


「うわ、すごい」


足元の文様が、まるで生きているかのように淡く揺らめく。


先生は健斗と桂花の肩を叩いて、頷いた。


少し不安そうに先生から離れ、健斗と桂花も順番に中へ入ってきた。


先生は、四人を見回した。


「無理はするな」


四人とも頷いた。


晴基が、息を整えて顔を上げる。


「……じゃあ、行ってきます」


「行ってきます」


健斗が異世界編を胸に抱え直し、桂花は由奈の手を握った。


光がさらに強まり、視界が白く滲み始める。


「じゃ、合図するから、その後に言うぞ」


晴基の言葉に三人が頷いた。


少しの間。


晴基が息を吸った。


「せーの!」


そして、四人の声が揃った。


「――オートルモンド、我を受け入れよ。」


その言葉が空気を震わせた瞬間、

魔法陣の紋が一斉に眩い光を放つ。


体の重みがふっと消える。

足元が浮いたようになり、不安定になる。

光が肌を透過していくような、くすぐったい感覚。


桂花の手に力が入るのを感じ、由奈は桂花の顔を見て、握る手に少し力を込めた。


すぐに桂花が由奈に身を寄せた。


その隣で、健斗は記録の書を握りしめた。


健斗が由奈の方を見ると、由奈は片方の腕で桂花を抱えるようにしていた。

もう片方の手でキャリーケースの持ち手を握っている。


健斗が手を伸ばしかけたとき、光が強まり、空気の流れが変わったのを感じた。


思わず、手が止まった。


しかし、思わず声が出た。


「由奈、大丈夫?」


すると、由奈が健斗の方を見て頷いた。


晴基が三人をしっかり見回し、先生の方にも目をやった。


――風が巻く。

光が音を喰い、音が色を失っていく。


由奈は志野先生の姿を見る。


先生も強い光と巻き上がる風を目の前にして気圧されているように見えた。


しかし、驚きと不安が入り交ざった表情で唇を動かした。


「気を付けて」


その声が、まるで胸の奥に刻み込まれるように響いた気がした。


次の瞬間、世界が――裏返った。


逆さに落下するような感覚。


思わず、みんな声を上げた。


「あぁっ!」


「落ちる……!」


「うわぁぁあああ」


「どうなるんだ、これ!」


眩い白が弾け、音も色も消えた。

そして、そこにはもう現実の空気はなかった。



――その頃、異世界側


グランデリゼ城の敷地の片隅にある小屋。


石の床が震え、魔法陣が描かれた部屋の中がまばゆく光り始めた。


駆けつけた二人の男。


部屋の扉を押し開き、中に入っていった。


二人は思わず目を細めた。


「これはやはり……」


「いよいよだな」


そして、二人は顔を見合わせ、姿勢を正して光を見守った。


息を凝らして待っていると、


やがて、魔法陣がいっそう眩しく輝き出した。

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